3話:変態VS変態
あらすじ
かつての争いの歴史を乗り越え、手を取り合う勇者と魔王。
しかし、そんな折に魔王城へと敵の魔の手が伸びてくる。
自らが止めると勇み飛び出していく勇者だったが、彼はそこで信じられないものを見ることとなる。果たして、そこで勇者が見たものとは?
新たなる戦いの幕開けの物語が今始まる。
「待ちなさい、勇者! この城は私の城、守るべき義務は私にあるわ!」
「……魔王殿、これはどういうことだ?」
飛び出していった勇者を追いかけていた魔王は、遂に最上階のテラスにて勇者に追いつく。しかし、追いついた勇者の表情は困惑しており、先程までとは打って変わっていた。
人間と戦うことになるかもしれないのも承知で、飛び出していった勇者がこれほど動揺しているのだ。
一体敵は何をしているのかと思い、魔王もテラスから敵を見降ろし、絶句する。
「………うそ…」
魔王城を襲うのだから当然人間だと思っていた。
だが、しかし。魔王に剣を向けていたのは、魔物の軍隊だったのだ。
そしてなにより、魔王を驚愕させたのは彼らの容姿であった。
「魔王殿……言いたいことは多かろうが、一先ずこれだけは言わせてもらおう」
勇者は魔王を気遣うような仕草を見せるが、敵の軍団からは目を離さない。
否、その異様な姿から目を離すことが出来ないのだ。
そう、誰だってガン見してしまうだろう。敵の軍団が―――
「全兵士に魔法少女のコスプレをさせるのは流石に引くぞ」
―――魔法少女のコスプレで襲い掛かって来ていたら。
「知らないわよ!? 私はこんなの知らないって!」
涙目で否定する魔王だが状況証拠は揃ってしまっている。
オークやゴブリン、果てにはドラゴンまで魔法少女の衣装を着ているのだ。
しかも、何故か女性の姿は見えずに男ばかりだ。
魔王の性癖は一体どこで歪んでしまったのかと、勇者は優しい目で見つめる。
ただし、その足は魔王からジリジリと遠ざかっているが。
「人の趣味嗜好というのは人それぞれ。どんなものであったとしても尊重するべきであるし、拙者も否定はせぬ。ただ―――半径1メートル以内に入らないでもらおうか」
「違うから! 私の趣味じゃないから! というか、あなたに変態扱いされるとかものすごく納得いかないんだけど!?」
「恥ずかしいのは分かる。しかし、己の過ちを認めねば成長はないぞ?」
「だから違うって言ってるんでしょうが!!」
顔を引きつらせ、苦笑いを浮かべる勇者に割と本気で傷つく魔王。
彼女は本当に身に覚えがないのだ。
というか、命令するにしてもリリスみたいな可愛い女の子にやらせる。
一体誰がこんな見るもむさ苦しいガチムチ共に魔法少女をやらせるのか。
「ほら、正直に拙者に話すでござる。本当は魔法少女が大好きだと」
「違うわよ! 確かに子ども時代には魔法少女に憧れたことはあるわよ。でも、それだけ。子ども時代なんて、もう何びゃ……コホン、何年も前なんだから憧れなんてないわよ。というか、あっても部下にはさせないわよ」
何百年前と言いそうになったのは単なる言い間違えだろう。
そう、乙女的には完全なる言い間違えだ。
「それを聞いて安心しましたぁ。リリスも魔王様に、あんなコスプレさせられるかと内心冷や汗ものでしたからぁ」
魔王の言葉を聞き、陰からひょっこりと現れるリリス。
どうやら彼女も魔王の性癖に対して若干の不安を抱いていたようだ。
「リリス! あなた何でこんな大切な情報を伝えなかったの!?」
「リリスは、大変な変態が編隊を組んでやってきたって、伝えようとしましたけど、お二人とも聞かずに飛び出して行ったんじゃないですかぁ」
「大変な変態が編隊を組むとは……世も末でござるな」
「勇者の癖に変態なあなたが言えることじゃないでしょ!」
3人集まれば文殊の知恵というが、現状では小学生ぐらいの知恵にしかなっていなかった。とにもかくにも、3人揃ったところで勇者が第一に思っていたことを告げる。
「一先ず、現状はクーデターという認識でよいか?」
「きっと魔王様が、魔法少女のコスプレをしろなんて言うから反旗を翻したんですよぉ」
「だから、私はそんな指示を出してないって何度言えば…! ……とにかく、見た感じだと確かにクーデターよね」
改めて現状の異常性に気づき溜息をこぼす魔王。
これでも為政者だ。自分の民が反乱を起こしたことにショックを受けているのだろう。しかし、ショックを受けているだけでは為政者は名乗れない。
「……とにかく、私が目当てなのは間違いないでしょうから、要求だけでも聞いてみるわ」
民の不満を受けるのも自分の役目だと割り切り、地に群がる魔族に朗々と語り掛ける。
「聞け! 我が名は魔王ルシフェリア! 汝らの主にし、全ての魔を統べる者。此度の狼藉、本来であれば即刻消し飛ばしているところ。しかし、私は慈悲深い。汝らが要求を述べるのであれば聞くこともあるやもしれん。汝らが言葉を持たぬ獣でないのならば、まずは述べてみよ!」
普段のキャラとは打って変わって、尊厳のある声で語り掛ける。
その堂々とした振る舞いにざわついていた敵軍も静まり返り、一人の男が進み出てくる。
男はオークだった。
長い牙と鬼のような顔つきを持ち、手には人一人分は軽くある巨大な斧。
体躯は他のオークと比べても巨大で腹は膨れ上がっていた。
そんな、屈強で如何にも怪物と言う魔物が、魔法少女のコスプレをしているのだ。
正直、魔王はどんな表情で男を見ればいいのかと真剣に悩んでいた。
「俺の名前はモウブ。この隊の隊長を務めるものだ。偽りの魔王」
「偽りの魔王ですって…?」
「そう、俺達はお前の配下の魔物ではない! ―――魔帝様の部下だ!」
「うそ……魔帝ですって…?」
魔帝という言葉に信じられないという表情を見せる魔王。
リリスもまさかという顔で驚いている。
ただ一人勇者だけは人間なので何者なのかが分からない。
「リリス殿、魔帝とは一体?」
「リリスも詳しくは知らないんですけど……魔帝は初代魔王様の俗称ですぅ。魔族と人間の戦いを始めた人で、すっごく強かったんですけど、勇者に封印されたらしいですぅ」
「拙者の前にも何人も勇者は居たのは知っているが……それ程の魔王と戦ったという話は聞いたことが無いな」
「魔族ですら薄っすらと伝わっている程度ですからねぇ。人間は代替わりも早いので伝わってなくても不思議ではないと思いますぅ」
「…確かに。しかし、そうなると人間を襲っていた魔物のは魔帝の配下の者か」
リリスからの説明に頷く勇者。
敵の言う魔帝という存在が本人であれば、恐らくは封印が解けたということだろう。動機としては、復活したのでかつての部下を使い、現在の魔王を追い出そうとしている。
これが今、魔帝について分かることだろう。
そして、何より。
「つまりはあの魔法少女のコスプレは……」
「魔帝の趣味になりますよねぇ……」
魔法少女軍団は魔帝が作り上げたことに他ならないのだ。
正直に言ってドン引きである。
人間の方で伝わっていなかったのは、これを伝えたくなかったからではないかと疑ってしまう。
「……そう、魔帝ね。それで、あなた達は何を求めているのかしら?」
「俺達は魔帝様より一つの指示しか受けておらん」
「へぇ、何かしら?」
「聞いて驚くな、我らが受けた指示は……」
明らかに平穏な指示でないことを感じ取れる笑みを浮かべる、モウブ。
それに伴い魔王も冷たい目線で、彼らを見下ろす。
「女は殺せッ! 男は犯せだぁッ!!」
「全員ホモとかふざけてるの!?」
モウブの言葉にドッと湧き上がる軍団。
そう、彼らはホモで女装癖の集まりだったのである。
自らの体を魔法少女の服で覆いモチベーションを上げる戦士だ。
女を見て聖剣を萎えさせ、男を見て聖剣を抜き放つ神聖のホモだ。
要するに変態である。
「つまり女のお前なんてお呼びじゃねえんだよ! おらっ! 男出せ、男出せ! わざわざ楽な人間の国じゃなくて、こっちに配属されたんだ。男が居なきゃ、やってらんねーだろ!!」
「ふ…ふふふふ……あいつら全員消してやるわ」
女のプライドに触ったらしく、魔力を滲み出しながら冷たく笑う魔王。
そして、変態共を消し飛ばしてやろうと杖を手に取る。
しかし、その手は勇者にやんわりと抑えられてしまう。
「勇者…?」
「魔王殿はここで待っていればよい。敵と言えど同族を殺すのは辛かろう」
「いえ、全く。というかあれを魔族呼ばわりしないで」
魔王、即答で嫌悪感を表す。
「まあ、とにかくだ。拙者も戦おう。ところでリリス殿以外の戦力は?」
「あなたが全員病院送りにしたのを忘れたの?」
「正直すまんかったでござる」
不幸なことに勇者が魔王を倒した影響で、魔王城には戦力がほとんどいない。
もっとも、居たとしてもほとんどが男なので尻を押さえて逃げるだろうが。
「それでは拙者が先行しよう。魔王殿は援護を、リリス殿は白の防衛を頼む」
「え、勇者様が行くんですかぁ? 勇者様が行ったらそれこそ飢えた猛獣の折の中にお肉を投げるようなものだと思うんですけどぉ」
「いいのよ、リリス。ほら、変態を以て変態を制すって言うでしょ?」
「何やら含みのある言い方のよう気がするが……そう言うことだ」
しっかりと剣を手に持ち、下に居る敵を睨みつける勇者。
既にそこには歴戦の戦士の風格が漂っていた。見た目は全裸であるが。
「では、行ってまいる」
「一応、背後には気をつけなさいって言っておくわ」
「ふ、心配無用。拙者は―――菊の花もまた無敵なのでな」
そう言い残して、勇者はテラスから飛び降りる。
不死故にどのような高所から飛び降りようとも死ぬことはない。
しかし、飛び降りていく過程で慣性の法則により、下の聖剣が天を向く。
さらに暴風が容赦なく叩きつけ上に下にと大暴れである。
両サイドの装飾は風の冷たさにより縮んでいる状態だ。
これが俗に言う玉ひゅんというものだろう。
何はともあれ、勇者は傷一つなく地上に着陸する。
そして、そこで待ち受けていたものは。
「うほ、良い男!」
「親方、空から美味そうな男が!」
「今夜はソーセージとミートボールだぁッ!」
「ねえ、僕と契約して兄弟(意味深)になってよ?」
「―――やらないか?」
当然のごとくホモである。
しかも魔法少女のコスプレをしている魔物という一際醜悪な部類。
だが、勇者は眉一つ動かすことなく口を開く。
「ミートボール? 否、おいなりさんだ」
口を開くと同時に剣を振るい、彼らの首を一瞬で斬り落とす。
これで5人分のミートボール(R18)が即座に出来上がる。
だが、この程度で怯むようであれば真のホモとは言えない。
「ヒュー、強い男は好きだぜ。なあ、尻を貸してくれよ」
「いや、むしろ貸してやる! おホモ達になろうぜ!」
「やれやれ、命知らずな者達も居た者でござるな」
そんなどこまでも自分の欲望に忠実なホモに、溜息を吐く勇者。
それをチャンスと見たのか、敵がバックから襲い掛かってくる。
だが、結末は全て同じ。聖剣が煌めき、赤い雨が地面を濡らすだけだ。
「我が名はマクシミリアン! 王家に連なるものにして、一騎当千の勇者!
雑兵如きが、指一本触れられると思うなッ!!」
高らかに謳い上げ、勇者の戦いが始まるのだった。
「くそっ、殺せ!」
「そうか、では死ぬがよい」
「いやいや! このセリフの後は普通、俺を犯し―――あべしっ!?」
最後に生き残ったモウブを串刺しにし、勇者は聖剣を収める。
無論、この聖剣は武器の方だ。
流石の勇者も魔法少女のコスプレをしたオークを犯す趣味はない。
「意外とあっさり終わったわね」
「これも魔王殿の援護のおかげだ」
「あなたの尻を追う敵を私が爆撃。あなたは前のを倒す。…酷い絵面だったわね」
「違いない」
二人がとった戦術は非常に合理的だった。
敵は勇者の尻を狙って後ろを付け回す。
それを勇者の不死性を活かし、魔王が勇者諸共に魔法で爆撃する。
そして、前から来る敵は勇者が叩き斬って終わりだ。
ホモは死すべし、慈悲はない。
「馬までホモで、あなたの下に来るし……」
「うむ、まあ拙者には既にゼゼーンラという白馬が居るので要らなかったが」
我先に俺に乗ってくれと、押し寄せてきた馬達であったが全て切られていた。
馬刺し美味しいです。
「というか全裸に白馬って……」
思わず、全裸で白馬に乗って草原を駆け抜ける勇者を想像する魔王。
身分と実力的には正しく白馬の王子様であるが、絵面が酷い。
子どもの夢を破壊すること間違いなしだ。
「風が体に当たって気持ちいいのだが、魔王殿もやらぬか?」
「やるわけないでしょ!?」
「これは拙者以外にも同好の士が居るのだが」
「なん…ですって…?」
魔王、世界の広さを感じる。
「まあ、それはともかく。拙者は一度王国に帰ろうと思う。父上と兄君が心配だ」
「私は魔帝について調べるつもりだからついていけないわ」
「む? ついてきてくれるつもりだったのか?」
「い、一応、借りぐらいは返すわよ。敵を一緒に倒してくれたんだから」
「それもそうか」
顔を赤くして話す魔王の様子に気づくことなく勇者は口笛を吹く。
すると、先程話に出てきた白馬が駆け寄ってくる。
その白馬にひらりと飛び乗り、勇者は手を軽く上げる。
「では、しばしの間さらばだ」
「もう帰ってこなくてもいいわよ」
「1週間以内には帰ってくる。行くぞ、ゼゼーンラ!」
「話聞きなさいよ!」
怒る魔王の様子に勇者は快活そうに笑い、白馬と共に駆け出していく。
魔王はしばらくその後ろ姿を見つめていたが、やがて憂いのある息を零す。
まるで、恋破れた少女のように。
「……白馬の王子様の夢が壊れたわ」
魔王、実は白馬の王子様に憧れていたのだった。
ストーリーはおまけ程度だと思ってください。
基本ネタが使えるような構成にしているだけですから。