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 食事が終わり、目の前のモニターに映るカーソルを操作しニュースサイト、掲示板サイト、動画サイトを起動しルーティンとなった作業を開始する。


 周囲は白く無機質な内装に覆われ、半ばまで薄緑の液体に満たされている。


 俺は田中一郎、この医療用ポッドを住みかとしている。





 俺は物心ついた時からここにいた。


 大事故だったらしい。


 両親が死亡し、天涯孤独の身となった。


 残されたのは、多額の慰謝料と保険金、全身麻痺のおまけ付きである。


 相手に恨みごとが無いかといえば、嘘になるのかもしれないが、実感が無い……というのが本音だ。


 それからというもの、この中でネットを介して暇を潰すというのが生活の全てとなっている。


 最早暇と表現するにも難しいほどの停滞感で埋め尽くされている。


 もう何十年と共にしてきた体だ、どうにもならないことはわかりきっている。


 幼少からお世話になっている立花医師にそれとなく安楽死について相談したのだが、軽く流されてしまった。


 そんな折である。ふと、気になる広告を見つけた。《世界初の全没入型、VRMMO。βテスター募集中》


 調べてみたのだが詳細は全くわからなかった。


 ダメで元々、応募はしてみようと思いフォームを記入する。


 志望理由か……正直に死にたいと思うくらい暇だったからでいいか。


 そして一週間後に告知が来た。《第一次選考通過のお知らせ。》


 何故か通ってしまった。二次選考は、面接と身体検査? おう……ここは立花医師におねだりするか。


 立花医師はこの身空になってからの付き合いである。


 小柄で飄々とした雰囲気をもつ好好爺だ。


 容姿が全然変わらないので、俺は妖怪かなんかだと思っている。


『や、一郎くん。どうした?』


「立花先生、お願いがあります……」


『……ふぅ。一郎くんが初めてのお願いだものな。断れないよ。』


 そういい肩を竦めた。


 幸いにも面接会場は近かったのだが、予想以上の規模なのかもしれない。アリーナを貸し切りでやるそうだ。


 不安になり、電話をしてしまった。問題無いそうだけど混雑が予想されるため当日は裏口に着けてくれと言われた。




 選考日当日。


 凄い賑わいだ。プチ渋滞も発生しており、搬送車を運転する立花医師の煙草のペースがストレスでマッハだ。


 一次選考通過のお知らせに書いてあったのだが、二次選考の参加者は3000人、最終合格者は300人を予定していると。


 倍率十倍の狭き門である。それにしてもこの賑わいだと3000人以上いるのではなかろうか。


 無事到着したようだ。ポッドのまま搬入され身体検査が始まる。血液検査と髄えき検査と脳波測定であろうか、全てが終わったようで一角のわりかし大きめのブースに通される。


 移動時にみたのだが、他にポッド利用者はいなかった。逆にじろじろ見られ、見世物にでもなった気分である。


 しばらく待つと担当者であろうか白髪混じりの長髪を無造作に後ろで纏めた細身の男性が入って来た。


『……や、お待たせして申し訳ありませんでした。それでは面接を始めさせて頂きます。』


「宜しくお願いします。」


 先ほどの身体検査で問題無かったこと、身の上等色々なことを話した。個人的には本名が偽名を疑われたことにイラッとしたが、まぁいつものことである。


『で、志望動機ですが……本気ですか?』


「落選したらこのまま大洗で捨ててもらいたいほどには」


 即答した。担当者が驚きで固まっている。

 しょうがないので介添えの立花先生に視線を向けるといつかの時のように諦めたような苦笑を浮かべていた。


『ありゃ、こりゃ本気だ。先生、今日の話は忘れて下さい。帰りに私ゃ犯罪者になってしまうのでね』


『…………くくくっ。あはははは。分かった。充分本気ということは伝わったよ。となると……君のポッドは随分年代物のようだけど、ウチの試作品を使ってみないかい?維持費は高いけど』


「5億あれば充分ですかね?」


『充分、充分100年は維持出来るよ』


『田中くん合格だ。おめでとう』


『こりゃ助かった。私は犯罪者にならずに済むようだ』



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