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(6)幼なじみで楽しもう


 5月1日。

 さて、王族以外の攻略キャラをやってみよう。

 誰を選ぼうか。魔法使い? それとも宰相にしようか。


 ヒロインはRPGに出られない。

 じゃ、ヒロインの並列キャラ、『幼なじみ』でやってみよう。彼女はRPGに出ることが出来るのだ。


 アバターに名前をつけた。


 このはヒロインと全く同じ動きをする、と吹き出しに書いてあった。チュートリアルだけのオマケキャラらしい。


 ライバルキャラとの『対話イベント』もあったし、間違いないようだ。


 選んだのは宰相(の息子)。やがて国を裏から支配する大物になる、なんてね。

 冗談のつもりだった。


 うわっ、宰相は第二王子などとは比べモノにならない程の高性能だ。幼なじみ(わたし)のマスターすべき必須スキル、ステータスも多いし高性能だ。

 なぜか彼のスキルには『帝王学』があった。


 一度決めてしまうと、スキル取得、性能アップは そう困難なことではなかった。なぜかって? 彼の婚約者が協力してくれたのよ。だから ハッキリ言うと、すごく簡単だった。

 まぁ、分かってたけどさ、婚約解消するつもりなのは。でも あからさま過ぎない?


 第二王子が婚約解消された。

 そして、元婚約者は書記長(の息子)と婚約した。え、第一王子じゃないの?


 なぜか、また内容が変わってる。どうなっているのだろう。

 ……何だか不気味だな。

 彼女(第二王子の元婚約者)は、新たな婚約者と共に国内にいる。第一王子も そのままだ、出奔していない。なぜ? 冒険者にはならないの。


 そして、次々に主要女性キャラが婚約解消していく。

 もちろん彼も婚約解消された。

 フォローして好感度を一気に上げる。でも、彼の元婚約者も私の親友だ、それは変わらない。


 彼(宰相の息子)の紹介で、私の妹が第二王子の婚約者になることになった。

 何の障害もなくスンナリと決まってしまった。

 あれ、変じゃない?

 理由はすぐに分かった。今回のルートでは、私の家格爵位は『伯爵令嬢』になっている。これも変わっていたのだ。

 さっき気が付いたことなんだけどね。男爵令嬢では揉めていたはずだもの。

 もしかしたら『宰相』を選んだ時点で変わって、いや設定されていたのかも知れない。王族と関わる場合とは、色々違うようだ。


 最近、彼が第二王子と一緒にいることが多い。

 王子は近衛騎士団の訓練にも積極的に参加し始めた。彼はそれを、とても喜んでいるようだ。

 それにしても関わる頻度が多すぎるのではないかと思って それとなく尋ねたら、妹のことで打ち合わせをしているとの事だった。

 そうね、披露パーティとか色々あるものね。

 それに、騎士団の訓練に参加することは、王族に連なる者の勤め、その一環らしい。


 彼の元婚約者は、司法長官の息子と婚約して国内にとどまった。

 他の主要女性キャラは、単独(、、)で冒険者になった。残ったのは書記長と司法長官の婚約者だけになった。


 そして私は、すっかり あのイベントのことを忘れていた。


 第一王子が殺された。成功してしまったのだ。


 昼食の時間、城内の王族が全員集まった団欒の時間だった。

 突然 剣で斬りかかったそうだ。家族だけだったので警備は手薄になっていた。王の意向だったそうだが、それが仇になってしまった。

 犯人は第二王子で、捕縛したのは宰相の息子だ。


 しかしながら第二王子を罪人にするわけにはいかない。王位継承者が彼しかいないからだ。

 結局、王位継承権争奪戦の一環と言うことにするらしい。うーん、……何だかな。


 私は今、このルートの選択を後悔している。……重い。

 乙女ゲームの感触じゃなくなってきている。

 さっさと終わらせたい。


 王子の婚約披露パーティ、同時に私と彼とも婚約した。特に大きなトラブルは起きていない。国内も国外も思ったほどの動揺はなさそうだ。

 パーティの最中なのに、この国の閣僚たちは王子の元にはいない。やっぱり そうだろうね、当然だよ、バカだもの。

 でも、なぜ私達のところに集まって来るのよ。


 王子が結婚の式典を開いたのは それから五年後。

 時を以って ほとぼりを冷ました、と言うことだろう。私と彼(宰相見習い)は、その四年前に結婚している。


 彼は思いのほか家庭を大切にする人格者だった。良い夫であり、良い親である。子供達と遊んでいる姿は、とても微笑ましい。

 仕事は大変だろう、あの王子バカのフォローを全て任されているのだから。でも、そんな事を家庭に持ち込むことは一切しない。本当に良い夫だ。


 前王が引退し、王子が即位したのは更に その五年後。そのころには宰相も、書記長も、司法長官や、その他の閣僚も世代交代していた。


 新王が誕生した時点で、すでに権力の移譲は完了していた。

 閣僚が大きな権限を持ち、王権は極力縮小された。もちろん これは前王の意向があったから出来たことだ。

 前王は、新たな王には『その権力を正しく運用する能力がない』ことを十分知っていたのだ。

 王位は象徴しょうちょうとなり、名前だけの存在となった。


 宰相は最高権力者となった。が、この状態は彼の望んだモノではなかったようだ。

 ハッキリ言って嫌がっていた。

「こんな面倒なことは まっぴらだ!」と。でも、国民が、閣僚達が、世界情勢が、それを許さなかった。


 しかし五年もすると、権力の脆弱さが露呈し始めた。権力の二重構造は有力貴族や古参閣僚の跋扈ばっこを許し、腐敗した権力は一気に国力を低下させた。

 彼らは、王権の強化――あのバカ権力を強化し、操り人形とするためだろう――を望んだ。もし私の妹が、あのバカの傍にいなかったら、彼らの思い通りになって この国は終わっていただろう。


 それでも、私達が いくら頑張って、いく良い提案をしても却下されるようになった。

 前王も苦慮していた。


 そして、王が即位して七年後、王権の譲位が行われた。

 やむなく彼が新王になった。そして腐敗した閣僚達を一気に更迭した。宮廷魔術師、貴族、御用商人も大量に処分した。

 王宮にいる人数が一気に少なくなった。


 元王は、子爵として辺境の領地に移された。もちろん彼に領地管理能力などないので、私の息子の一人が その任に当たることになった。

 妹も、その方が安心だと言っていた。

 アイツは、何とも情けない男であった。


 私達は、充実した とても忙しい日々を持つことになった。

 それは延々と続いた。

 何分なにぶん信用できる閣僚の人数が圧倒的に少なかったのだ。

 突き詰めれば、私達と親友の六人しかいない。そして同級生の中から優秀だった者達、友人達を呼び戻した。それでも足らなうので、その子供達まで動員した。

 男女や年齢などで差別する余裕などない。皆で、協力して業務をこなさなければならないのだ。

 王が近衛騎士団長、王国騎士団長を兼務し(武力を他に任せられない)、その復職と財務長官を私が担った。

 書記長官が、内政全般を、その妻が その副官を担った。

 司法長官が、外務全般を、その妻がその副官を、宮廷魔法士長官が……、典医長官が……。


 そして、引退した大学の研究員や公認家庭教師を、各地域に新設された『国立義務教育塾』の教師として雇用し、後継者を育成するために全国民に対し門戸を開いた。

 身分など無視した完全義務教育制を実施したのだ。だって、能力のある者を逃がすわけにはいかない。全閣僚が、いや全国民が動き始めた。

 そそれでも、王宮に必要な人員が揃うまで、約十年かかった。


 即位後十三年目である本日、王太子の即位式典が行われた。

 彼は、やっと王権を放棄することが出来た。


「やっと開放された」それが、彼が帰宅して最初に発した言葉だった。

 こらこら、息子に丸投げはないだろう、と言うと。

「大丈夫。ちゃんと教育してきたから」そう答えて、彼は本当に政界から 完全に引退してしまった。

 ああ、本当に嫌だったんだ。

 私達――同級生たち――も全員 引退した。

 新世代よ頑張れ!


 ある日、元閣僚と その婦人達が集まって同窓会をしていた。昼食会も兼ねてである。そろそろ最後の お茶が ふるまわれるタイミング、その時を狙ったかのように、ポツリと彼が呟いた。

「一緒に冒険者にならないか」


 私達は その日の内に、そっと邸宅を抜けだして街の出た。「善は急げ」である。バレたらヤバい。


 まずは、本当に冒険者になれるかを確認しなければならない。

 街の北側にある『冒険者ギルド』で能力の鑑定をしてもらった。

 立派に、いや かなりの高レベルで活動できるスキルを、全員が保有していることが分かった。HP、MPのレベルも十分だ。

 ギルドで行われた鑑定には『キャラクタ再設定の部屋』の通過儀礼があった。


 そこに案内され一人ひとるが その施設に入っていく。出口は、……ここからは見えない。

 私の順番が来て、おそる おそる部屋に入ると、吹き出しが表示されていた。


「この部屋は完成版にも同様のモノが設置されます。

 ここではキャラクターの完成度を判定し、それに応じRPG仕様に改変されたスキル、魔法、ステータスが授与されます」

「では、少々お待ち下さい……」

「仕様改変開始」


 メッセージが表示された次の瞬間、光が私を包みこんだ。

 思わず目を閉じたものの、眩しさは軽減さらることなく、それは身体中に突き刺さるようにさえ感じた。

 私は耐え切れなくなってうずくまってしまった。悲鳴を上げていたかも知れない。

 永遠に続くかと思えるような十数秒が過ぎた。


 気が付くと部屋の外にいた。

 そして、そこには冒険者、服装などの装備から見て間違いないと思える者達が同級生の人数分いた。

 その中の 若い男性が私に手を差し伸べて来た。

 私は、ありがたく その手を取って立ち上がろうとした。


 あれ? 私の手って こんなに小さくてキレイだったっけ。

 あ、身体も軽い。

 私も冒険者の装備をしているようだ。

 サラリと肩にかかり 胸の前に落ちてきた この淡いブロンドの長い髪は、私のモノなのだろうな。

 目の前の男性は、高等部の頃の彼の顔に良く似ていた。その頃よりも もう少し年上で、しっかりした体つきをているようだけれど……。

「だいじょうぶ?」

 その青年が、彼の声で話しかけて来た。


 吹き出しが出ていた。

「仕様変更を完了しました」

「このアバターは そのキャラクター名がハードディスクに保存され、いつでも使用できるようになりました。

 新規にゲームを開始した場合にも削除されることなく保存されますので、このアバターで長く楽しむことが出来ます。

 新規ゲームにも 全く影響しません。

 さあ、どうぞ冒険者として この世界を楽しんでください」


 ■■■


「オレがやった時、こんなの 出なかったぞ。そんな『再設定の部屋』なんて なかったんじゃないか?」

 突然 左側から兄貴が声をかけてきた。


「ふうん。ここまでやって、やっとキャラが保存されるのか」

 兄貴は、この状態に なったことがないようだ。私も初めてだけど。


 装着品を外し、兄貴の方を向くと、8インチの小型モニターを覗いていた。

「ヒトがやっているゲームを覗くのはマナー違反だよ」


 私が少し強い口調でたしなめると、「そうだったな、ごめん」と謝りながら、それでも画面から目が離せないでいる。


「多分だけど、乙女ゲームで、最後まで ちゃんと終わらないと、こうならないんじゃないかな。……他にも要因があるかも知れないけどね。

 これは、偶然出来たんだと思うよ」


「ここまで造り込まないと『再設定の部屋』は発現ないってことか。キャラも保存できないってか! 酷えゲームだな」


 全くその通りだ。

 同じキャラを使って 同じように進んでも、同じ結果にはならなかったのだ。何かが違っていたのだろう。

 どこかでルートを間違えた? 僅かな選択ミスがあった? きっとそうなのだろうけど、私には相違点を見つけることが出来ず、結局 何も分からなかった。


 後日、兄貴も『再設定の部屋』のあるところまでは辿り着くことが出来たようだ。


 でも、兄貴もこの状態が再現不可能であることが事実であると証明することになってしまった。

 いくら再現しようとしても出来なかったのだ。『他の要因』も、全く分からなかったらしい。


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