(4)ヒロインを幸せにしよう!
3月1日。
兄貴が乙女ゲームをクリアしてRPGに、は進めなかったようだ。
でも、少しばかり くやしい。
RPGも気にはなるけれど、以前 可哀想なことをしたヒロインを幸せにするのを優先しよう。
まず、攻略対象だけど。やはり第二王子を仮の目的にしよう。あくまで『仮』、定番だからね。
どうしよう『王妃教育』受講しようか。でも、こうなったら第二王子のステータスが問題になってくる。
断言できる、彼には国王の資質がない。
今のところ第二王子とは あまり深く関わっていない。他の攻略キャラと大差ない程度にとどめている。つまり必須スキルを取得していないのだ。
王妃教育を修了した。このまま第二王子を攻略したら、第一王子を追い出すことになる。兄貴の失敗を見たところ間違いなさそうだから、これは避けたい。
あれ? 鏡に映るヒロインの外観が変わってきている。何だか第二王子の婚約者の雰囲気に似てきたかも知れない。
あっ、ひょっとして『王妃教育』の副産物かな。ステータスやスキルも大きく変わっている。
うーん。このステータス値、どこかで見たような気がするな。
攻略対象から第二王子を外すことにした。
自然な流れで第一王子に移行する。
そう、あのステータス値は第一王子の攻略値に合っていたのよね。これって きっと王妃教育の成果だね。
第二王子が『婚約解消』された。
この時が分岐点に違いない。
彼を慰撫したら、きっと王位継承権の取得競争になる。これは何としても回避けなければならない。
第二王子を放置することにした。
そう、ヒロインの幸せのための、尊い犠牲だ。
第一王子と急接近した。
どうも第二王子の視線が怪しい、あれだ。……危険だな。
彼に ちょっとした警告を与えておくことにした。「第二王子の様子が変だから注意してね」とね。
第一王子は、第二王子の婚約者を攻略しなかった。
よし!
やはり、予想通り第一王子暗殺未遂事件が起こった。当然だけど失敗した。
第一王子、もう王太子決定だね。彼との親密度が更に上がる。ステータス、スキル共問題ない。
しかし、今度はヒロインの身分が問題になってきた。「男爵令嬢だから、あまりにも差がありすぎる」なんて、色々言う貴族がいるのよ。
でも、それも簡単に解決した。王子(第二王子は処分されたので第一王子しかいない)の要望で、まあ 断れるヒトはいよね。
私は ある候爵の養女になった、ことにした。書類上だけだけどね。
私は王太子の妃になった。
そして、国王となった彼を支えて国を発展させた。
彼の王は、夫としても、親としても素晴らしい人物でした。私達は二男、二女に恵まれ幸せに暮らしました、とさ。
やったね。ハッピー・エンドだ。
乙女ゲームクリア。
■■■
……でもね。
第二王子のことが どうしても気がかりなんだよね。彼を ちゃんとした王様に出来ないんだろうかってね、どうしても思ってしまうのよ。
あー、もう、失敗しても元々だ! ゲームスタート。
王妃教育修了までは 同じように進んだ。つもりだったのに何だか微妙に違う。
何でだろう。
彼との関わりを多目に持ったから、……かな。
私は彼の婚約者とも親友だし、きっと面倒で複雑な関係になるのだろう、と思っていたのだけれど、ならなかった。
彼女、第二王子が嫌いだったのよね。まあ、あの性格ではね、好かれる方が難しいけどさ……。で、私に積極的に押し付けようとして来るのよ。
ちょっと待ってよ。
あちゃー、彼女、婚約解消しちゃったよ。
ここで、慰撫して……。って、何か嫌だなぁ。
あ、ち、ちょっと背中を押してるのは誰?
あぁ。彼女は さっさと別の公爵子息と婚約しちゃったよ。
え、あれ? 何で第一王子とじゃないの。
何か変なことになってる。以前やったのと かなり変わっている。何で?
私は ある貴族の養女になって、名目上は『伯爵令嬢』だ。そのまま第二王子と婚約しちゃいました。……候爵令嬢じゃないんだ。何だか可怪しい。
この件が瞬く間に進んじゃったのは、絶対、彼女のせいに違いない。
腹黒元婚約者め。とか言いながら、今でも親友なんだけどね。
あ、第一王子が出奔した。「冒険者になる」という書き置きを残して。
こら、逃げるな! この国を滅ぼすつもりか。
さて、問題があります。王太子になりながらも、あのバカ王子、家庭教師から逃げ回っているらしい。あー、情けないなあ。
執事長が泣きついて来たのよね。何で私に? 私って、ただの婚約者なんだけど。
あー。もう仕方ないなぁ。
バカ王子の首根っこを押さえて家庭教師のところへ連行した。
逃げないように見張っていてほしいって? まあ、仕方ないか。
えっと、そんなことが何度も 何度も 何度も 何度も……続きました。
私は聞くともなしに彼が受けている帝王学の講義を学んでしまった、ようです。
だって、バカ王子のスキル状況は『帝王学・未修了』なのに、私のは『帝王学・修了』になっちゃったのよ。
どういうことよ、これって変でしょう。
私のバカ王子への対応が、どんどん雑になっていった。それでも周囲、王様も王妃様も宰相閣下や執事長、その他大勢も知らないふりをしている。
なんで? 不敬罪にならないの? 皆さん了解済みってことなんだね。良いの? これで。
彼も帝王学を やっと修了したけれど、だめじゃん。このレベルじゃ使えないよ。
なのに、ついに私はコンプリートしちゃたよ。何をって? 帝王学をさ。あはは……。
バカ王子がするべき仕事が なぜか私に回って来るようになってしまった。
陛下(王様)の補助なんだけどね。
当初から、彼のやった書類仕事を私がチェックして回してたのよね。だってさ、あまりにヒドくてね、誤字・脱字・表現ミス等々、とってもじゃないけれど そのまま出せるシロモノじゃなかったのよ。
陛下もだけど、皆さん面倒になってしまったらしくて、直接 私に持って来るようになってしまったのですよ、ハイ。
良いのかこれで? 私は ただの婚約者で、まだ王族じゃないのよ。これって機密書類に分類されるものじゃんないの?
私、クーデター起こしちゃうよ。……イヤ イヤ、冗談だけどね。何だか、あっさり成功してしまいそうで怖いじゃない。
私達は結婚した、おい。こら待ってよ!
現国王陛下が引退してしまった。
それは無いでしょう。こんなバカ、押し付けないで!
玉座に王の姿はない。彼は、私の後ろに隠れるようにして控えている。まぁ座ってはいるけれどね。ご想像の通り、玉座には私が座っています。
「宰相、このようなモノは私を通さずに決裁するように言ってるでしょう。貴方を、というより貴方の奥様を私は信頼しているの。
司法長官も同じよ、財務官も、書記長も奥様に相談してね」
うん。宰相の奥様って元第二王子の婚約者、その他も皆 私の親友達。
この国、その内 主要閣僚が全員女性になってしまうかも知れないよ。
後年の歴史家は綴る。この国が最も安定していたのは『女王による支配』の時期であった……。
あはは……。これって何だろう? ハッピー・エンドかな。
まあ、良しとしておこうよ。