(2)こんなの、乙女ゲームじゃない!
1月5日。
兄貴が このゲームを買ってきたのには驚いた。こんなに高価いのに、よく買う気になったものだ。
まあ良い。入・出力端子を一組 使わせてもらえるように交渉した。アドバイス料だと思ってほしい。友人の受け売りだったのだけれどね。
さて、私は『ゲーム選択』で迷うことなく乙女ゲームを選んだ。
男・女の選択が出た。女子っと。
アバターを造って……、オーケイ。
キャラクター選択画面が出た。
「メインキャラクターを選びますか、サポートキャラクターを選びますか」
どういう意味だろう。まあ良い、メインキャラを選んだ。
吹き出しで何か説明があったが、面倒なので読まずに そのまま先に進んだ。
へぇ、攻略男子の婚約者の選択かあ。あれ? ヒロインは?
はい。元に戻して吹き出しを確認しました。
うん、手抜きをしては いけなかったね。
「ライバルキャラクターの場合、その幼児期から育成すると ほぼ全てのステータスが好みのままに変更できます。
成長した婚約相手が気に入らない場合には、自らのステータス値(完成版では表示されません。本作品では表示された上、その推移を確認しながらゲームを進めることができます)によっては解消も可能です。
ヒロインを選択した場合も同様ですが、一部を除き 十二歳時点のステータス及び必須スキルの取得によって攻略対象を決める必要があります。
本作品では攻略対象すべてのステータスを確認しながらの進行も可能です。
どちらの場合でも十二歳までに概略の攻略対象を決めるのが良いでしょう」
ヒロインは別枠になっていたんだ。どうしよう、ヒロインを選ぼうか。
ん? ヒロインのところには、別の吹き出しがある。
「ヒロインは『乙女ゲーム』だけのキャラクターです。RPGに進まれる場合は、他のキャラクターを選択してください」
当然だろうね。ヒロインの関連キャラは、妹だけか。
おっと、まだ続きがあった。
「本作品には、ヒロインと同列キャラクターとして『幼なじみ』が存在します。ヒロインと全く同じスキルとステータスと持っていますが、このキャラクターはRPGに進むことが出来ます。当然ですが完成版には存在しません」
チュートリアルだけのキャラか、すごいオマケだね。
とりあえずゲームを始めてみよう。最初ということで、ヒロインを選択。
おっと、まだ吹き出しがある。
「ヒロインのステータスを平均値に保って成長させると、基本の攻略対象『第二王子』に到達いたします。この場合、他の攻略対象に変更するのは一部を除き かなり困難な作業とないますので ご承知おきください。
攻略対象を第二王子ではないキャラクターとする場合は、それぞれ固有のステータスとスキルを必要とし、それらを一定レベルに保つ必要がありますので ご注意ください。以上の事情により『逆ハーレム』は、不可能です。
なお、ヒロインには、『魅了』には及びませんが『好かれやすい』スキルが予め設定されています。これは有利にも不利にも働くモノですので ご注意ください」
ふうん、好かれやすい……か。どんな感じなんだろう、ピンとこないな。
まあ、良いか。とりあえす十二歳までのステータスによっては途中で攻略対象のチェンジも可能ということね。
他のキャラを攻略するのに必要なスキルとステータスの要求値も表示できるのか。みんなチュートリアルだけのオマケだけどね。
ひょっとして『完成版』って何も表示しないのかな。
あれ? 攻略男子キャラの基本的な性格や趣向、特技、顔写真もあるんだ。これもオマケ処置か。しっかし……第二王子、性格悪いなぁ。
さて、まず攻略対象の絞り込みをしましょう。
チョロな第二王子の必要ステータスは、……いくら何でも低過ぎでしょう。婚約者の邪魔は どうなっているのだろうか。イジメられるのは いやだな。
次は……、え、『攻略対象未定・次期王妃』って何? 要求ステータスは、少し頑張れば、いや いや簡単に出来そうで逆に怖い。『王妃』スキルが必須で追加されている。まぁ当然だろうけどね。
なぜか第一王子は別にある。なぜ? 王妃と王太子《第一王子》の后とは別なの?
何だか意味深で、いやだな この関係。
さて必要ステータスは、……この値は無理でしょう。無理 無理。絶対に不可能だわ。
ええと、あとの正規攻略対象キャラは、……すごいね。宰相、書記長、立法官長、司法官長、財務官長、王都騎士団長、近衛騎士団長、典医長、王国筆頭魔法使い……の後継者か。みんな少しづつ必須スキルとステータスが違ってる。確かにこれじゃ、逆ハーレムは無理ね。
順に攻略対象を確認していく。
多いなあ。……疲れた。
さて、誰にしよう。
決められない。
まあ良い。とりあえず始めよう、何とかなるでしょう。
幼年部を無事卒業して、初等部に入った。ライバルキャラも同じように進級してきている。当然ながら、攻略対象キャラもだ。今は、何も手出しなんか しないけれどね。
何これ、「ライバルキャラクターと対話しよう」って。
十歳になった時点で この吹き出しが出た。
どういう意味だろう。
ヘルプ、これも完成版にはないそうだ。追加説明を要求っと。
「ライバルキャラクターの進路を迷わせましょう。実は、みんな冒険者になりたがっています。つまり、これはRPGへの布石になるのです」
ほう! もしライバルキャラを選択してたら、きっと必須のイベントになっていたのでしょうね。
公爵令嬢に、侯爵令嬢に、伯爵令嬢に子爵令嬢……、皆様、お貴族様でした。
ふう。ライバルキャラ全員と頑張って対話しました! 皆さま冒険者になりたがっています。「応援します!」で友達になれちゃいました。……良いのかこれで?
ずるずる、ずるずると平均値少しオーバで来てしまった。もう十二歳。今回の攻略相手は第二王子に決定だね。
トホホ、仕方ない。あーぁ、定番通りに進んでしまったよ。
高等部に進学するまでに、覚えられる魔法は全部、学べるスキルも皆覚えてしまおう。後で何かに使えるかもしれないしね。全てに手を付けておこう。
邪魔には ならないよね。ステータスも順調に、全て同時に、平均して上昇している。魔法やスキルも、そこそこの値にある。まあ、低いけれどね。
でも多いなあ、こんなに たくさん覚えられるんだ。
十五歳で高等部に進学。南部・イスンマス校から、東部・アザトスフィア校に転籍することになった。何でも、高等部は この学校にしかないらしい。
魔法学部に進学した。
乙女ゲームの開始だ。
何でヒロインはライバルキャラ達と つるんでいるのだろう。皆さん何だか貴族令嬢らしくなくなっていない? これって、あの『対話イベント』の結果なのかな。
婚約破棄じゃなくて、婚約解消イベントが起きてしまった。第二王子が公爵令嬢に婚約解消されてしまったよ。
何でも条件付きの婚約だったらしく、それが満たされなかったため解消となったらしい。
おい! 情けないぞ、第二王子。
どうも変だと思ってたんだよね、彼女。全然嫌がらせなんかしないし、勉強ばかりしてるし、私が婚約者と仲良くしててもニコニコして見てたし。
あ。他のライバルキャラ達も次々に婚約解消してる。
結局、全員婚約解消してしまったよ。
良いのかな? この話、おかしくない?
うるさいなあ、このバカ王子。お花畑も いい加減にしてよね! 全く話が噛み合わない。何なのこれ。
ダメだよ。まだ婚約はしないよ。キミの元婚約者は、私の友達なんだからね。
ステータスの値を見ると、何か大切なことを忘れているような気がする。何だったかな、これ。
ライバルキャラ全員が飛び級で卒業してしまう。
私もバカ王子を棄てて卒業してしまおうか。
いや、冗談じゃなく本気で。何だか この王子、目付きが怪しいし、雰囲気が暗い。纏う空気や気配も嫌な感じ。これは……かなり危いな。
私も含めて、メインの女性キャラ全員が飛び級で卒業することになったよ。アハハ……。
明日が卒業式。今晩は全員が集まってパジャマパーティ、お茶会です。
うーん、美人に囲まれて癒されるなあ。
みんな冒険者になるらしい。予想はしてたけどね。
その夜、王宮で大事件が発生した。
第一王子暗殺未遂事件だ。
第二王子が睡眠中の第一王子を襲った。
ナイフで刺そうとしたらしい。危機一髪、なんてことはなく、あっさり捕縛された。
動機は王位継承権を奪うこと。いわゆる お家騒動。
本当にバカだ。ちゃんとした計画も立てておらず、衝動的な行動だった、らしい。そんなモノが成功することなど ありえないよ。
だけど、私は あのイベントの、本当の理由を知っている。
いや、分かってしまった。
私のスキルの中に埋もれるように隠れている『王妃教育・未修了』これが原因、元凶なんだろうと思う。他の理由は考えられないもの。
彼が狂ったのは、このスキルが中途半端に存在していたからに違いない。
無ければ、あんな事件は起こらなかった。
ちゃんと修了していれば、多分 暗殺ではなく別の方法で王位継承権を入手していたのではないだろうか。いや、そう思いたい。いくらドロドロの お家騒動でも、暗殺はダメでしょう。
コホン。
では、後日談を。
第二王子は秘密裏に処分されたそうで、詳細については私には知らない、ってことにしておこう。
ライバルキャラ達は、計画通り全員が冒険者になった。
時々楽しそうな手紙が届くので間違いないだろう。
羨ましいかって、そりゃあ……ね。
私は学校卒業後、お父様が決めた方と婚約。その後、恙なく結婚して……。
これをスルー・エンドというのだろうか。って、何か変じゃない。このゲーム。
ねえ、これで良いの? 何か変でしょう!
こんなの、乙女ゲームじゃないじゃない。