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「結婚相手は他領の跡取りの方。一度だけ会ったのだけれど、とても優しそうだったわ。政略結婚とは言え私は当たりね」
その言い方はどうなんだと、思わず突っ込みそうになった。
しかし、ヴェラの表情を見て、口をつぐむ。
ヴェラは憂いを帯びた表情で窓の外を見ていた。
「お互いの家にも領地にも良い関係をもたらし、夫も文句なしのいい人。……なのに、こんなに不安になるのは何故かしらね?アルに気づかれるなんて重症だわ」
やはり、前に様子がおかしかったのはこのことか。
そう確信し、何気に失礼なことを言われているなと思いながらアルジェントはヴェラを見た。
いつもは見せない、不安げな彼女。
思わずアルジェントはフッと笑った。
「……人が真剣に悩んでいるのに、何を笑っているの」
ヴェラは珍しく本気で、ムカついた。
「いいえ。やはり、まだまだ子どもだなと思いまして」
「……女性に対して失礼ね。私はもう17よ」
「俺から見たら十分子どもですよ。俺は27で、貴女とは10も違いますし。それに俺がヴェラお嬢様に出会ったとき、貴女はまだ7歳で、癇癪を起して家出してきた世間知らずのクソガキでしたから」
「女の子に向かってクソガキとは何よ!」
「否定、できます?」
「………………」
「できないでしょう?」
「……あの時は!迷惑かけてわるかったわ!それに、助かったわよ!」
叩きつけるように言ったヴェラを見て、アルジェントは今度こそ声をあげて大笑いした。
「ハハハッ……く、ふ。……ふっ、アハハハ!」
「……〜〜〜っ!!」
ヴェラは顔を真っ赤にする。
アルジェントがこんなに話すのもこんなに笑うのも、貴重どころか初めてのことなのに、喜べない。ものすごく腹が立つ。
しかし今、口を開くと自爆しそうなのでグッとこらえた。
しばらくして、やっと笑いを収めたアルジェントが穏やかな笑みを浮かべて、すっかり拗ねてしまったヴェラに話しかけた。
「ヴェラお嬢様」
「……何よ」
「大丈夫ですよ」
ありがとうございました。