6
すいません。
うっかりしてました。
投稿し忘れでした。
あれから一カ月たった。
いつもと同じように、朝早く外に出てみる。
ほうっと息を吐くと、それは白くなる。
まだまだ春は訪れない。
(寒い……)
アルジェントは溜息をついた。
騒がしい客は来なくなったが、アルジェントは靴屋を休業せずに続けていた。
ヴェラが来なくなり、この家は一気に静かに、そして暗くなった。
働くことは億劫であるのに、まだ店を開き続けているのは、もしかしたらまた彼女がここに来るのではないかと期待しているかもしれない。
(……馬鹿だな。もう来るはずがない)
あれだけ、突き放して傷つけたのだ。
今のこの状況は自分が望んで、作り出したのだ。
最後に見た彼女を思い出す。
あれだけ傷ついても笑っていた彼女。
『私……私は、あなたと会えて本当に、よかったわ』
アルジェントはきつく目を閉じる。
(忘れろ)
10年前の静かな空間が戻ってきただけなのだ。
自分はそれを望んでいたはず。
そう何度も思った。
でも……だめだった。
何故だ。
そう何度も考えた。
自分のこの感情は一体何なのだろう。
そう考えたとき、嫌なことに気付いてしまった。
(あー……また思い出した)
自分にとって一番納得のいく嫌な答えが何度も頭をよぎる。
(忘れろ忘れろ)
もう一度、深く溜息をつく。
まあ、いつか忘れるだろう。
アルジェントが今、10年前の冬を思い出せないように。
そして同じように、静かな冬に慣れていくのだろう。
チリン、チリン
邪念を振り払うように息をついたその時、来客を知らせる呼び鈴が鳴った。
アルジェントは扉に目を向け、客の姿を確かめた。
アルジェントは目を大きく見開いた。
そこにはもう来ないと思っていたヴェラの姿があった。
ありがとうございました。