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固まるヴェラにアルジェントは話を続ける。
「この家に俺の嫁が来ます。貴族のお嬢様が毎日ここへ通っているなんてお互いに外聞が悪いでしょう。既に俺があなたの愛人だとか言われることもあるんです。そんなことは気にしないあなたや俺は良いです。俺に至っては元々悪い評判がさらに悪くなろうとどうでもいいですから。でも、俺の嫁は別です。彼女が傷つくようなことはしたくありません」
だから、これで最後です。
アルジェントははっきりとそう言った。
ヴェラはわなわなと震える。
「……アルにそんな人がいるなんて知らなかったわ」
「言ってませんからね」
「っなんで言わないのよ!」
「言う必要がありますか?」
「っ!!」
ヴェラは傷ついた顔をした。
アルはそんな彼女に容赦なく、言葉の刃を浴びさせる。
「ヴェラお嬢様に言う必要性を感じません。あなたは勝手にここに来て、勝手に話をして、勝手に帰っていく、この上なく勝手で迷惑な客です。それ以上でもそれ以下でもありません。何故、そんな人に俺の個人的事情を報告する義務が発生するのですか?」
「っでも!私は……っ」
「俺は、何故あなたが俺にそんな構うのか不思議でなりません。俺の方はあなたに全く興味ないですしね」
「……え…………」
「俺はあなたが結婚しようが、何をしようがどうでもいいです。あなたも、俺に対してそう思えばいいでしょう?」
ヴェラは今までで一番傷ついた顔をした。
それを見ても、アルジェントはヴェラを切って捨てるように言葉を紡ぐ。
「とにかく、もうここには来ないで下さい」
ヴェラは目、一杯に涙を溜めて俯いた。
その拍子に涙がこぼれた。
ヴェラはしばらく俯いた後、顔を上げた。
傷ついた目をして、ヴェラは笑っていた。
「分かったわ、アル。もう、来ない」
震える声で、ヴェラはそう言った。
「アル。あなたがどんなに迷惑であったとしても、私はとても楽しかったし、嬉しかったし、ほっとしたわ。私……私は、あなたと会えて本当に、よかったわ」
今まで、ありがとう。
そう残して、ヴェラは帰っていった。
アルジェントは見送らなかった。
ただ、ヴェラが出て行ったドアをしばらくの間、じっと見ていた。
そして、ヴェラがアルジェントの元に訪れることはなくなった。
ありがとうございました。