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「あそこのお菓子はとってもおいしかったわ!家で出されるお菓子より見た目は地味だったのだけれど――――」
ヴェラの様子がおかしかった日から、十数日。
彼女は変わらず毎日アルジェントの元にやってきた。
今日は下町で安価で売られている菓子が予想を超えておいしかったという話を延々としている。
一見あの日から何も変わらないように見える光景。
しかし、あの日から変わったことがあった。
「アルも食べてみるといいわ!とってもおいしかったんだから」
「………食べましたよ。甘さもちょうど良くて美味かったです」
「っ………」
ヴェラはビクッとして、不安気な表情を浮かべた。
あの日から少し経った時から、二人の会話は一方的なものではなかった。
ヴェラの話にアルジェントが頷き、言葉を返す。
正しく『会話』と呼べるそれに、ヴェラは何かを予感するように不安を抱いた。
そして、それは間違っていなかった。
いつも通り使用人が迎えに来て、ヴェラは帰り支度をした。
日に日に増す、嫌な予感に気付かないふりをして、ヴェラは笑顔を浮かべて「また明日」と挨拶をしようとした。
……しかし、遮られた。
「ヴェラお嬢様」
アルジェントは帰ろうとするヴェラを呼び止めた。
ヴェラはいつものように笑顔を向けようとした。
しかしそれは失敗して、ぎこちない笑みになった。
「な、なあに?」
「話したいことが、あります」
「あら、そうなの?でもごめんなさいね。また明日――――」
「――ヴェラお嬢様」
「っ……!!」
「今、お願いします」
ヴェラの笑みが固まった。
アルジェントはヴェラのその様子に構わず、彼女が恐れていた言葉を発した。
「もう、ここには来ないでいただきたい」
無理して作った笑みも保てなくなった。
ヴェラは口を開けたり閉めたりを繰り返した。
声が、出ない。
「ど、うし……て?」
やっと出た声は掠れていた。
アルジェントはそれをからかうこともせず、淡々という。
「俺、結婚するんです」
ヴェラは目を見張った。
ありがとうございました。