1
毎日更新の予定です。
朝の空気を吸いに、外へ出た。
自分の吐く息の白さに、春はまだ遠いことを知る。
(寒いな……)
冬は嫌いだ。
元々外に出ることは好きではないが、冬は余計に出ていきたくなくなる。
作業する手はかじかむし。
最悪だ。
冬はいっそ休業にでもしてずっとベットの中にでもいようと思うのだが、それは毎年この時期にやってくる来訪者が許してくれない。
「おはよう、アル!今日はとても良い天気ね!」
来た。
建てつけが良いとは言えないドアを思い切りよく開け(静かに開け閉めしろと言っているのにも関わらず、だ)、少女は満面の笑みを浮かべながら毎朝恒例の挨拶をした。
少女にアル、と呼ばれた男は溜息を吐く。
「ちょっと、アル。聞いているの?おはよう」
「……おはようございます、ヴェラお嬢様」
このまま無視し続けた方が面倒なことをアルこと、アルジェントはよく知っていた。
挨拶を返したアルジェントに少女は満足げに頷いた。
太陽のように輝く金の髪に、エメラルドのような緑の瞳。
来ている服は形を庶民の物に似せているとはいえ、上質の物だ。
いかにも下町に遊びに来た高貴なお嬢様、である。
そしてそれは事実であった。
ヴェラは冬になると、ほとんど毎日アルジェントのところを訪れる。
アルジェントは何故ヴェラがここに来るのか分からなかった。
ここはただの靴屋だ。
それも庶民向けの物しか売っていない。
現に、ヴェラがアルジェントの作る靴に興味を示したことはなかった。
ヴェラのお目当てはどうやらアルジェントらしい。
しかし、アルジェントは自分がどれだけつまらない男か知っている。
無口・無表情・無関心と人が好んで付き合いたいと思うような性格はしていない。それを改める気もない。
こんなつまらない男にわざわざ会いに来なくてもいいだろう。
まあ、つまり。
何が言いたいのかというと。
もっと静かに過ごしたい。
と、言うことだ。
「聞いて聞いてアル!あのね――――」
ありがとうございました。