記憶と忘却
双子の兄弟が選んだ善悪
果たして
それは“善”なのか
ある双子の兄弟がいた
双子は生まれつき
記憶力が人より良かった
何年前のことでも
覚えているのが当たり前だった
そんな二人に友達が出来た
普通の子供
一日経てば何かを忘れる子供
二人はそんな子供が嫌いだった
兄は
忘却が羨ましかった
忘れることができない
自分が悲しくなった
弟は
忘却は罪だと考えた
自分だけが覚えている
そのことに腹を立てた
そんな二人の前に
天使と悪魔が現れた
天使は
“全てを記憶する力”を与えると言った
見た物
聞いたこと
全てを記憶し
永遠に忘れることのない力だと言った
悪魔は
“全てを忘れる力”を与えると言った
大切な人
大切な事
全てを忘れる力だと言った
ただし
与えられるのは一人に一つ
二人はどちらかを選ばなくてはならない
さて
どっちが幸せになれる?
兄は
悪魔の力を望んだ
“全てを忘れる力”を望んだ
羨み焦がれた力を手に入れた
弟は
天使の力を望んだ
“全てを記憶する力”を望んだ
自分が信じる“善”の力を手に入れた
二人はそれぞれの望みを叶えた
だけど
どちらも幸せにはなれない
忘却を望んだ兄は
全てを忘れた
弟のことを忘れ
食べる事
眠る事
動く事
笑う事
泣く事
興味さえ
“生きること”を忘れた
そして
からっぽの人形となり
長い年月をかけて死んでしまった
記憶を望んだ弟は
忘れることが出来なくなった
些細なことも記憶してしまう
そして
兄が衰弱し
骨と皮になった姿
何もせず
ただそこにあるだけだった兄
その死に逝く姿
それらでさえ
忘れることが出来ない
弟は拭えぬ深い悲しみに包まれながら
永遠を生きる
記憶と忘却
表裏一体の事項
どちらが欠けても結果は同じ
有るか無いか
ただそれだけ