とある検体0123の覚醒
第二作目です
お願いします
「検体0123、起きろ。時間だ」
管理人は呼びかける。そこには肯定を示す沈黙のみが残る。
検体0123。聞き慣れた響き。最近、それに違和を感じるようになっていた。私には名前など無い。
静まり返った廊下にコツコツと響く二つの足音。実験棟へ向かう。
そこには怯えた狼の番が居た。私の仕事はその狼に手をかざすだけ。そうすれば狼は魂を吸われるのだ。
その魂は私のところに来て、人形に入れられる。それが日常。1か月に1回はこうして何かを殺さなくてはならない。この力の代償だ。
3か月ほど前、こんなことが出来るようになった。管理者たちに言わせれば「成功」なのだそうだ。
そしていつの日か周りの失敗作たちから「怪物」と呼ばれるようになった。
ある時、火事が起きた。実験棟が失敗作によって壊されたらしい。
「自由だ!」「もう縛られないんだ、私達!」
そんな声が聞こえた。空が見える、これが星空なのだろうか。
『これからどこへ行こうか、海とやらを見に行くのもいいかもしれない。まずはここを抜けないと。』
そんなことを考えながら壁の穴を抜けた。
そこから先はなぜかよく覚えていない。確か、山の中を走っていた気がする。そこで足を滑らせ崖の下に落ちた。
…はずだった。
気づいたらこの空間にいた。何処までも白い霧があるばかりで何もない、そんな不思議な空間をどれだけ歩いただろうか。霧が晴れ、建物が見えた。看板がある。
『人だ』
そんな気がして、近づいた。
【香霖堂】
看板にはそんな文字が書いてあった。あたりは暗くなってきている。そこに入れば泊めてもらえるかもしれない、そんな淡い希望を抱いて店に入る。
「いらっしゃい」
店主だろう。ここに店を構えるくらいだ。何か知っているに違いない。
そう見当をつけて、話しかける。
「ここはどこだ?」
「見ての通り香霖堂、なんでも売ってる店だよ」
「お前は?」
「ここの店主、森近霖之助だ」
「この草原はなんだ?」
「無縁塚っていうんだ。外界のものがたどりつく場所だよ。所で君は誰だい?こんな夜に一人なんて妖怪に食われておしまいだよ。ここを知らないってことは生まれたばかりの妖怪か、外界の人かな?」
「外界?」
「そう。この世界は幻想郷、忘れられた者達の楽園。そしてそれに隣り合うもう一つの世界が外界だよ」
なるほど、よく分かった。
「つまり私は死んだのか……」
「いや、正確には忘れられたのという方が正しいのかもしれないね」