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フードバトル開戦30分前

「こちらが初戦のレギュレーションと申請書類になります。目を通して置いてください」

女性職員から新聞紙くらいの用紙を受け取った私と彩さんは見出しの記事に驚愕した。



本日のルーキーリーグに期待の新星現る。

なんとあの”天才料理人高坂やよい(35)”の遺伝子を受け継ぐ高坂あかりが鮮烈デビュー!

容姿端麗、流麗な包丁さばき、完全無敵の”料理姫”高坂あかり、お供二人を従えていざ決戦の場へ。

Don`t miss it.


ぐへぇなんじゃこの記事は!?


「あかり、これは!?」

笑いをぎりぎりでこらえてシリアスな顔をしようとしている彩さんの顔を見るのがつらい。

なにかの弾みでダムが決壊したように馬鹿にしたような笑いが溢れるのだろう。

ばかにして!!



「わ、私は何もシライナイデスヨ?」

「”料理姫”高坂あかり……かっけええなぁ……くっ」

本人の前で笑うのはまずいと思ったのかはわからないが体をねじって顔を隠す。

もうそれは笑っているのと同じことだからね彩さん?



「かっこいいとか……全然そんなこと思ってないでしょ?てか彩さん今笑ってるよね?」

「い、いや、笑って、ないって…んひひひ…あっははは」

もう我慢も隠すこともやめて本格的に笑い始めた!



「エターナルとか、アストラルとかついてもカッコよかったかも?」

スミちゃん意味わかんないよ!

「私もいいと思いますよ。かわいく取れてますし」

あんたもノってくるんかい!

お堅い女性職員まで乗ってきた。



もうすっごい恥ずかしい!

写真もいつ撮られたか解らないけど、普段とは違ってアンニュイな表情でかわいく撮れているような?

カメラマンの腕前がいいのか、はたまた奇跡の一枚だったのか自分じゃないみたいだ…ってそんなことはどうでもいい。

もっと重要なことが書かれている。



――母のことだ。



高坂やよい。

私の母。

そして日本を代表する料理人。

幼少時から老舗の名店”高坂庵”で修行を積み、その後若干18歳で国内外の料理コンクールを荒らし回り数々のグランプリを受賞。

そしてその功績が認められ、フランスの5つ星レストラン”マッサリア・ジズー”に誘われ悩むこともなく渡欧し、研鑽を積む。

そこでも高坂やよいの快進撃はとどまることを知らず、わずか2年でメインシェフにまで上り詰めるが、職場の反対を振り切って突如職を辞し、その後一般男性と結婚。

妊娠出産を経て、自らが運営する孤食児童0計画という組織を設立し、孤児や孤食になりがちな子供に、今まで磨いてきた料理スキルで食事の素晴らしさと楽しさを伝えている。



母はあまり自分の話をしないから、まさかこんな壮絶な人生を歩んできていたとは想像できるわけもなく。

確かにいっつも美味しい料理だったけどさ、家庭の料理しか知らないから母の味が基準だったわけで

他の家庭とかで食べていたら母の凄さがもっとわかったのかな?



「なぁなぁ!これさ、あかりのかーちゃんすげーよな」

彩さんからひじで肩を何度も押されるしかもなんだかうれしそうな顔をしてらっしゃる。

「みたいだね。でも私こういう母の一面まったくしらなかったんだよね正直。だからしっくりこないというか…」

記事に掲載されている母の若い頃の写真は表情とか色んなものがギラギラしていて、私がよく知っている今の母とは結びつかない。



「へぇ~珍しいなぁ自分の母親のことなのに。まぁいいや、なんかこれを見た後だとさ、お前の料理の腕前にも納得いくわ。やっぱりやよいさんの下でみっちり料理を教わってきたんだろ?」

「そうなのかもしれないけど、私まったく料理教わった記憶ないんだよね本当に」

現実的に考えて、母に料理を教わったと考えるのが一番無理が無い答えだと思うし、実際そうなのだろう。

でも料理を教わった記憶がまったくない。

教わっているとしたら、見事なまでにその部分の記憶がスポーンと抜けてしまっているから自分のことなのにちょっと怖い。

「またまたぁ~料理姫あかりさんともあろうおかたが~」

「いや、本当だってば」

「あかりちゃん隠し事はだめだよ~」

私を問い詰めたところで本当に記憶は戻っては来ないのだ。

多分今は――



「――お話の途中すいません。運営から頼まれていたものをお渡します。こちらフードバトル中の衣装になります」

「うん?」

おかしいこんなシステムなかったはずなんだけど。

私たちが初日に見た試合の2チームとも服装でやっていたし。



「なにこれ?バルムンクだっけあいつら普通の服装でやってたのにうちらだけなんでだよ」

「私の趣味です」

「え!?」

「嘘です。本当はスポンサーの要望です。」

女性職員の人なんかちょいちょいボケてくるけど、顔に似合わず面白い人なのかもしれない。

でも、今の彩さんには逆効果だったような?さっきまでの和やかな雰囲気がなくなってしまった。



「スポンサーの要望だぁ?あいつら本当なめてんな!これ以上好き勝手されるのはごめんだぜオレは」

衣装袋の受け取り拒否をするも、女性職員に付き返される。

「私は素直に受け取っておいたほうがいいと思いますよ」



彩さんが強い拒否反応を示したにもかかわらず、こうやって諭してくるには何か理由でもあるのだろうか?

あっち側の人間なだけに正直意図がつかめない。

「一応聞いてやるよ。どうしてだ?」

さすが彩さん単刀直入にいったー。

それを受けて、まってましたといわんばかりに女性職員が答える。



「懸賞金のようなものがポイントとしてらえるからですよ。大体は上位リーグの人気チームにしかスポンサーは付かないのですが、天才料理人の高坂やよいの娘ということでこうやって異例の待遇なわけです。あなた方の目標はここから抜け出すことが目的なのですから、ここは甘んじて受け取ったほうがいいと私は考えます」



「あかり、スミどうするよ?」

気持ちは乗らないが、女性職員のいっていることも理解できるためなんともいえない顔をして私たちに相談してきた。

彩さんはぶっきらぼうな言葉遣いとは違って精神的に一番大人な気がする。



「私はどっちでもいいから、あかりちゃんがリーダーなんだし決めてくれれば私はそれに従うよ」

「う~ん彩さんの気持ちもわかるし、私も納得いかないけどさ、ここから早く抜け出すためには我慢するほうがいい気がする……かな」

「だよなぁやっぱりそうなるよなぁ…でもさぁ…あああああぁもう!マジむかつくわあいつら」

みんなでここを一刻も早く抜け出す、この大目標のために我慢できることは頑張って我慢するそう決まった瞬間でもあった。



「賢明な判断だったと思います。それと最後にチーム名はいかがしますか?」

「まだあるのかよ。チーム名とか適当でいいだろ」

「いや彩ちゃんダメだよ!かっこいいチーム名じゃないと私やる気が出ない」

「そんなこといわれてもなぁ…」



「うちらの想いがこもったチーム名なんかどうかな?」

「いいねぇ。ちなみにどんなのよ」

「私さここ出たらどうしてもやりたいことがあってさ」

「ほうほう」

二人の興味がぐんと上がった気がしたので私は胸を張って答えたわけよ二人共同調してくれそうだったし。

「ここに連れてきた奴等を全員グーでぶん殴ってやりたい」

ヒュ~

口笛が車内に響く。

もちろん彩さんが吹いた。


パチパチパチっ

こっちの拍手はスミちゃん。

「おおぁ~あかりちゃんかっこいい」

「おまえ…そんな事考えていたのかよ。意外と大胆なこと考えているのな」

スミちゃんからは羨望のまなざしを頂き、彩さんからは少し引かれてるかも?

彩さんは絶対同調してくると思っていたので肩透かし感が少しあった。



「私はここから解放されただけじゃ気がすまないよ。あいつらの顔面をこう、捻りを加えてえぐるように撃ちぬきたいわ」

シュッシュ

車内でパンチをうつ。

もちろん、仮想敵はあの偉そうな演説をしてくれたデブ親父。



「今の話は聞かなかったことにして、話は戻しますがチーム名は?」

会場も近づいてきたのだろう女性職員に少し急かされている気がする。

チーム名は便宜的なもので、ここまで真剣に悩まれるとは思わなかったのかもしれないが。



「あ、今ピーンと来ちゃいました。チーム名は”鉄拳制裁”で!」

左ストレートをシュっと撃ち、ドヤ顔を二人に向ける。

「ダサ……」

「あかりちゃん料理はできるのに……こういうセンスはないんだ」

あれ?評判悪。



念のため女性職員の反応も探ってみる。

「鉄拳制裁ですか……それでよろしいならいいのですが。本当によろしいのですかお二人とも」

私に目を向けず二人に意思を確認するのを見て、暗に否定されている感がひしひしと伝わり悲しくなってきた。

かっこいいと思うんだけどなぁ……



「でもまぁ、ダサいにはダサいんだけど他になんも思いつかないんだよな」

「確かにダサいんだけど、あかりちゃんに任せるっていったし……」

うう、そんなにダサいダサい連呼しなくてもいいのに。

でも、チーム名が士気に関わりそうな感じなので本決まりにはせず、一先ず問題を先送りにしてみよう。

慣れると段々よくなって来るかもしれないし。



「不評だけども…代替案が出るまでこれで行ってみない?仮ということでさ」

「仮ってことならまぁ…おれはそれでいいよ。なぁスミ?」

「うん。いまは我慢するよ私も…」



「じゃ、鉄拳制裁(仮)でお願いします」

「わかりました」

女性職員さんが端末に情報を登録している間

窓の外を眺める。

大きな建物が見えてきたあそこが会場なのだろう。

作りも豪華だし、入り口に職員らしき人間が大勢控えている。



車で会場の入り口まで横付けてもらった。

ホテルのドアマンのように職員が車のドアを開けてくれた。

頭をボンネットにぶつけないように配慮してくれたりなんだかvip待遇で気分は悪くない。



「皆さんご武運を。帰りも試合の結果に関わらず迎えに来ますので」

女性職員がなんだかこっちを応援してくれているのがやっぱり違和感があるなぁ。

聞くわけにもいかないし、そんなことを考えていると車はさっさと走り去ってしまった。

気にしても仕方ないか…


入り口に常駐する係員に申請書類などを渡し、その後誘導されて開戦時間まで控え室で準備することになった。

鉄拳制裁(仮)初戦まで30分。


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