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ほんほうに、いはいっへ!

「ふわぁ~。んん…まだねみいな…まったく昨日はひどい目にあったぜ」

こちらにうらめしそうな視線を向ける彩さん。

どうしたんだろ?。

「おれが助けてくれーって言ったのにお前無視して寝ただろ!あの後ずーーーっとわけわからん話を聞かされて大変だったんだからな」

「そうだったの??ごめんね彩さん。なんだか仲良くしているなぁ~って思っているうちに寝ちゃってた」

「都合のいい解釈しやがって…今度は聞き役お前に任せるからな!」

「わ、わかったよ。そんな怒らなくたっていいじゃん」

「う……まぁ、なんだ。おれも強くいいすぎたわすまん」

お互い押し黙ってしまう。

朝からなんだかきまずい。

話題を変えねば。


「あのさ彩さん。前から聞きたい――」


ガチャン。

「二人共どうしたの?朝から喧嘩なんかしちゃダメだよ?」

気分は上場といった感じのスミちゃんが珍しくこの時間に起きていた。

そして手には暖かそうな湯気のたったマグカップを3つ乗せたおぼん。

「今日は早起きした私がおいしいコーヒーいれたから、こっちで一緒に飲も」


「あいよ」

「うん。コーヒーありがとうスミちゃん」

朝から変な雰囲気になりそうだったが、グッドタイミングなコーヒーがうれしい。



「昨日のハンバーグおいしかったよね」

「だなぁ。あれ食べたあとにこれ食べると、なんとまぁ味気ないこと」

”国民食A”を一気に流し込むと空容器をゴミ箱に投げる。

「彩さん?食事中に行儀悪いことしないの。」

「ああ、すまん。つい」


なんだか先ほどからスミちゃんの熱視線を感じる。 

「二人共さ、会って間もないのにいきなり言いたいことをいいあえる関係とか奇跡に近いよね――」

「まーだそんなこと言ってやがる。そんな奴にはこうだ」

ギュ~

「いはい、いはいよ~」

両ほほを引っ張られて綺麗な顔が茹で上がったタコさんのように面白いことになってしまっている。

彩さんあんまり引っ張っちゃダメ!


「お前は変なところで気を遣いすぎなんだよ。昨日おれに強引に話しを聞かせたみたいに……自分の気持ちを我慢せずに伝えてもいいと思うぞ?

言葉で伝えてもらえないとこっちもスミの気持ち全部はわからないし。だからさ、おれ達をもっと信じてみろって。あ!でも、眠い時の長話は簡便なっ」

最後にひねりを加えて両ほほを離してあげると

痛みから解放されたスミちゃんが涙目ながらうれしそうな顔をしていた。


「うん。もっと二人を信じてみるよ……」

「スミ…」

「スミちゃん…」

「でもね彩ちゃん――」

「おう?」

ギュ!!

「いへぇー」

「最後のはやりすぎでしょー!?すっごい痛かったんだからね!」


「へっはふ、いいはんじにまほめたのにぃ」

「くらえくらえー」

「おいおい、いはいいはいって……いはいっていってるだろー!」

我慢ができなくなったのか、再びスミちゃんの両ほほをギュッとつねりだす。

美少女二人が手加減なしで両ほほをつねりあっている姿は、なんというか美しい…くはないよなこれ。

だけどこれがスミちゃんの求める、言いたい事をいいあえて、気の置けない素晴らしい関係なのかもと思うと止めるべきか迷う…もう少しだけ様子を見てみよう。



「あくぁり!なにしたりぐぅおで見てるんやよ」

「そうあよ!」

え?嘘でしょ?こっちにターゲットがきてしまった。

二人の手が伸びてきて逃げる間もなく、私の両ほほがらせん状につねられた。

なんというとばっちり。

「うふぉ!ほんほうにいはいー!やえろー」

「うりうりー!」

「くわぇー」




「3人共その辺にしなさい」

え?だれ?

3人のパーソナルスペースである住居にいきなり人が現れたものだから一瞬時が止まったようになってしまった。

これは収集のつかない3人の元に救世主が舞い降りてきたのか?はたまたただの闖入者か?

いや、よーく見てみると初日に出会った女性職員がスーツをビシッと決めてそこに立っていただけだった。


「ふぁい」

さっきの熱気はどこへやら3人はほっぺたのつねりあいを中断し、気恥ずかしさからシュンっとしてしまった。

「元気なことはいいことだと思いますが、それは他に使うべきでは?まぁそれはいいでしょう、こちらを――」

女性職員さんは持ってきた書類をこちらに3部渡してくれた。

その書類の表紙には"フードバトル開催スケジュール"と記載されていた。

とうとう、この時が来てしまった…

食材を無駄にしたら困るとか言ってたし、授業で一通りのことを習ってからやるものだとばかり思っていただけに

少なからず動揺してしまった。



「スケジュールはそちらに記載されている通りです。あなた方はまだ一戦もしたことがありませんのでルーキーリーグに属しています。その項目を見てください」

もらった書類をパラパラと捲っていくと最後のページにルーキーリーグの選手名や獲得ポイントが乗っていた。

私たちはもちろん0ポイントからのスタートになる。そしてスケージュールだが初戦は――



明日!?

いやいや早すぎるって私達まだ授業でみじん切りと自習でハンバーグしか作ってないのに。

二人の顔色を伺ってみる。

スミちゃんは私と一緒で不安そうだ。

彩さんはというとなんだかいつも通り、やっぱり肝が据わっている。

頼もしいなぁ。



「この初戦の相手の奴らもおれたちと一緒に連れてこられたんだろ?」

「そうです」

「こいつらには悪いけど、おれたちが勝たせてもらうぜ」

「その心意気は大事ですね。試合開始前にまた来ますので。それでは失礼します」



伝えることは伝えて事務的に去っていってしまった。

聞きたいことあったんだけどな……

負けたらどうなるんだろ?って。




その日の調理の授業は気もそぞろ。

フライパンを使った授業だったのだがこれは既に自習のハンバーグで経験してしまっていたので

これといって得たことはなかった。

鍋は温めてから油を入れることや、食材の入った鍋の振り方など基本的なことを教えてもらった。

それと先日みじん切りをしたたまねぎを弱火であめ色になるまでじっくり炒めたので

次回はこれを使った料理をするというところで終わってしまった。

何をつくるんだろうか?少し気になる。



通常の学校でやるような授業も終え、さぁもう帰って明日の”フードバトル”に備えるだけといった時

ふいに声を掛けられた。



「はじめまして。明日フードバトルをするチームの方ですよね?確か高坂あかりさん」

「こちらこそはじめまして。確かに私のことですがどうしましたか?」

確か一緒に連れてこられた子の一人だ。

チームメンバー以外の子と話さない雰囲気が今まであっただけに

いきなり話しかけられたのにはびっくりした。

真意がつかめなかったので思わず丁寧すぎる返答になってしまった。



「対戦チーム私のところなんですよ。明日はいい勝負しましょうね」

「そうですね」

「授業の時ずっと見ていたんですが、高坂さん料理すっごいうまいじゃないですか」

「ありがとうございます」

この子はなにが言いたいのか真意がつかめない。

「それで物は相談なんだけどさ…」

「はい?」

「明日のフードバトル私たちに勝たせてくれないかな?」

「へ?」



「あなたがいる限り今後の勝負は楽勝でしょ?明日くらい負けてくれてもいいんじゃないかなーって」

「……」

「どう?一緒にここに連れてこられちゃった仲じゃない」

「ごめんね。私だけのチームじゃないし、それ以前に勝負事で手を抜くのは私には無理」

「よく言ったあかり!お前らも卑怯なことしてないで正々堂々としやがれ」



「ちっ!ちょっとくらい勝たせてくれたっていいじゃない」

彩さんが来たことで、名前すら告げずに一目散に逃げていく女の子。

少し後ろめたかったのかもしれない。

「私だったら簡単に丸め込めるって思ったのかな?」

「まぁ3人の中じゃ一番話が通りやすそうではあるかもな」



「でも、びっくりした。いきなり負けてくれなんてさ」

「だな。一番料理できそうなのどうみてもお前だし。あいつらからしたら負け前提の勝負なんてしたくなかったんだろ」

「そんなのやってみないとわからないでしょ?」

「いやいや。さすがに負けねーよ。慢心とかそういうじゃなくてさ。経験値が一人だけ違うってあかりは」

「う~ん正直、自分のこの料理の腕前の根拠がわからないから自信持てないんだよね私」



「根拠とかはこの際置いておいてさ、料理ができるっていう現実だけで今は十分だろ。今はさ…」

「う、うん?」

「まぁ、こっちの話」

「えと、さっきはあの子に言えなかったんだけどさ」

「おう。なんだ?」

「フードバトルってさ負けちゃうとどうなるんだろうね?」

「さぁな。主催側が教えてくれないんだから考えてたって仕方ないだろ。結局憶測でしかないし」

確かに、そうだけど初日に見せられたあの男の口上を思い出すとなんだかいやな予感がする。

そうじゃなければいいんだけど。



「そういえばスミちゃんは?」

「あいつか?なんかコンビニに行ったらしいぞ。あいつコンビニ好きすぎだろ何も買わずに戻ってくることもあるし」

「商品いっぱいあるし眺めるだけども楽しいよ」

「店員にとっては迷惑かもだけどなー」

「やる気なさそうな店員だったし大丈夫でしょ」

「違いない」



彩さんと一緒に帰宅するとスミちゃんは先に帰宅していた。

「二人共遅いよー」

「変なのに絡まれてたんだよ」

「えー何それ?」

「いやさ――」



「へぇ~そんなことがあったんだ話掛けられるのが私じゃなくてよかったー」

「どうして?」

「怖いじゃん、知らない人に話しかけられたら」

「なる」



フードバトルに関しての緊張感は私たちには無かった。

その日はいつも通り"国民食A"を食べ、その後スミちゃんの好きなアニメの話を聞いたら

みんなで大浴場にいき目の保養を済ますと、寝るまでハンバーグのレシピ本をみんなで読みあーだーこーだ言っているうちに気づいたら寝ていた。



「皆さん起きてください」

「ふぇ?」

「昨日お伝えしたでしょう?フードバトルがあるのでお迎えにあがりました。皆さん準備をしてください。会場まで車で送迎いたしますので」

「ありがたいこって」

「ぐぅぐぅ」

「スミちゃん起きて。フードバトル今日だよ。大事な初戦だよ」

「ぐぅぐぅ…」

こつん。

彩さんのげん骨がスミちゃんの頭に炸裂した――



スミちゃんは起きないが今日私たちのフードバトルが始まる。

何を作るか、負けたらどうなるかわからないが全力を尽くすのみ。

こんなところで負けるわけにはいかないんだから。






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