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モグモグもみもみ(七話)

「食べる前に何かいう言葉あったよね?」

「あったな母親によく言わされてた」

「ああ。思い出したあれね」



みんなが笑顔で顔を見合わせるとどうやら頭の中の答えは一緒のようだ。

「せーの」

「頂きまーす」




「んまいな」

「何言ってるかわかんないよ。」

ハンバーグにナイフを入れる。

あふれる肉汁。




「ハフハフ。んまんま。」

出来上がったばかりのハンバーグの熱さも気にせずかきこむ。

むしろそれすらも楽しんでいるような気がするくらい彩さんはハンバーグに夢中だった。


「んぐっ!」

食事が喉に詰まったのか胸元を叩いて苦しそうなので

急いで飲み物を用意してあげる。


「はい、水」

「んく、んく…プハーッ生き返る~。ありがとうなあかり」

「もう…落ち着いて食べなよ。誰も取りはしないから」

「まあな。でもよーおいしすぎて止まんねーわけよ」

「彩ちゃんの食べっぷりは見事だねぇ。惚れ惚れしちゃう」

「確かにそれはいえてる」

「なんだよ~照れるじゃないかよ。モグモグ」

照れながら食べるという器用なことをする彩さんに苦笑しながら

私もハンバーグをほおばる。

おいしい!!



「みんなで食べると本当においしいな!!」

「うんうん」

確かに。

自分達で作ったものを気の置けない仲間達と一緒に食べるとこんなにおいしいとは。



「オレもっと食べたいんだけど、これいい?」

皿に盛らなかった分のハンバーグを指差し期待に満ちた目をこちらに向ける彩さん。

スミちゃんのほうを確認すると笑顔でうなづいたので、彩さんの皿にNewハンバーグをよそってあげる。



「二人共サンキュー。モグモグ」

「もうわたしこれでお腹いっぱいなのによく食べられるね」

「おいしいけど私もこの量は食べきれないなぁ。よかったら彩ちゃん私の残り物だけど食べる?」

「はべう」

スミちゃんの残りのハンバーグもフォークで突き刺すとそのまま一口、二口で食べてしまう。



私はというと"国民食A"のような淡白で質素なものを食べ続けていたからハンバーグのような

ジューシーでボリューミーなものは胃が驚いて食べきれないことを知った。

そんな中、剛健な胃を持つ彩さんに感嘆しつつも、自分は昔もっといっぱい食べられたよなーと思い出す。

それこそ取り合いをしてしまうくらいには食い意地も張っていたし。



「ねぇねぇ」

私の太ももを軽くとんとん叩くスミちゃん。

なんだかとってもうれしそう。

「自分達が作ったものでこんなに泣いちゃうほど喜んでもらえるとなんだかうれしいね」

スミちゃんが私のほうを見ながらしみじみと言う。

「だね。それがわかっただけでも今日の試みは大成功って感じ」



笑い泣きしながら食べ続ける彩さんを見ていると、母が昔ことあるごとに言っていた

食事を誰かのために作ってあげてそれを喜んでもらうことの幸せを少しだけど実感することができた気がする。

レシピ本の使い勝手だったり、個人個人の得意分野の発見は予定通りには進まなかったかも知れない。

けれど、料理をしたことでスミちゃんの不安が解消されたり、彩さんのこの食べっぷりで料理を作る喜びを体験できたし

よかったよかった。



彩さんが食べ終わったあとは少し談笑し、その後みんなでお皿を洗うことになった。

このルーチンは昔、散々母に鍛えられた部分なのだろう。

皿を洗うことがさも当然のように身体が動いたのだから。



バフっ。

ソファーに飛びつきながら寝転ぶ彩さん。

「いやー食った食った。」

食事に満足し、腹をさする彩さんの姿に苦笑しながらも、二人を交互に観察すると

食後の雰囲気は今までで一番よさそうだ。



「なんていうかさ、いたれりつくせりって感じだわ。おいしいものが食べられて、こんな豪邸に住めて、大浴場まである。終いには学校の授業までしてくれるってあいつら本当何考えてるんだろうな」

「さあね。Food battleでも始まったら何かわかるかも?」

「Food battleかぁ。あの子たちの料理凄かったよね。バルモンクだっけ?」

「バルムンク。ニーベルンゲンの歌に登場する剣。ゲームやアニメに度々引用され、私の大好きなRPG”二日酔いの賢者と子猫”では悪の組織ガリシャスの陰謀を――」

「オーケーオーケー。今はやめとこ」

「もう!」



「それは後で聞かせてくれよ。話を戻してっと、バルムンクだけどさ、あの料理の腕前はここで養われたものなのかね?審査員なんか失神しそうになってたよな?どんだけおいしいんだよっていう」

「すごかったよねぇ…今後私たちもあの子達と戦わなければいけないのかな?勝ち目まったくなくない?」

料理して和やかになった雰囲気が悪くなってしまうどうにかせねば!

「それはさ、これから私たちが成長していけばいんだよ。今は勝てないかも知れないけどこの3人だったらやれる!…気がする」

「あはは。そこは言い切っておけよ。まぁーやる前から白旗あげてても仕方ないか」

「3人だったらやれるか…」

私と彩さんを交互に見つめるスミちゃん。

「一人じゃないもんね。なんだかやれる気がしてきた!私の内なる能力が、こうシックスセンス的な何かが芽生えて――」



「それも後で聞かせてくれ。今日は風呂入って寝るべ」

「絶対だからね!」

「お風呂の用意っと」



それから三人仲良くお風呂に入った。

とても機嫌のいい三人は修学旅行の夜にあるようなテンションで何か勝負をしないか?ということになった。

そんな中、都合よくスミちゃんが持っていた湯船に浮くおもちゃのあひるちゃんを3匹つかって何かしようと。

どういった構造をしているのかわからないが、推進力があるそのあひるちゃんを湯船に浮かしレースをする。

負けた者は湯上りの勝者の体をタオルで拭くというとんでもない罰ゲームが行われることに!!



第一回 大浴場杯

Distance  20m(直線)

一号艇 アヒルマックイーン 彩

二号艇 アヒルインパクト スミ 

三号艇 アヒルターボ  あかり 



「さぁ始まりましたあかりさん。記念すべき第一回の大浴場杯ですが、注目のあひるちゃんはどれでしょうか?」

「そうですね。注目はアヒルインパクトです。あひるちゃんを持ち込んだスミちゃんの選択したあひるなので、奥の手があるかもしれません」

「そうだった場合反則じゃね?」

「問題なしです」

「スミちゃんのお墨付きが出ました。このまま行きたいと思います」

「おい。あかりてめぇー」

「それではみんな準備はいい?」

彩さんは渋々、私とスミちゃんはノリノリ。

いけそうだ。

「3,2,1でいくよ?」

「おう」

「うん!」



「3,2,1。ゴーー」

水面に浮いたあひるが勢いよく飛び出す。

各艇横並びでスタート。

そんな中一匹のあひるが怒涛の加速力を見せた。

あれはなんだ?

アヒルターボだ!

「あかりさんのアヒルターボの推進力が素晴らしいですね。」

「ふ…これは貰ったかもしれません。二人共私の体をしっかり拭いてね?」

二人の美女に自分の体を拭いてもらう。なんていうご褒美。そのままいけーアヒルターボ!!



ざわっ!!

このまま圧倒的な勝利を収めるかと思われたアヒルターボだったが

半分の距離を過ぎる頃になると急に失速し始めた。

「うわーアヒルターボーー」

先ほどまでの夢のような光景が…遠くへ…私の手の届かないところへ。行かないでーー。

私の思いもむなしく、後方から来たアヒルインパクト、アヒルマックイーンに追いつかれる。

そして、抜かれる。勝負の行方は2匹のアヒルに。

無念。



「先にアヒルマックイーンが勝負を仕掛けました」

アヒル3匹分の差を広げ、勝負は決したかに見えたその時!!

ギュイーンギュイーン!!高回転のモーター音が大浴場にこだまする。

「なんだこの音」

「スミちゃんこれは?」

「改造しちゃった。てへっ」

「スミちゃーーん」



アヒルマックイーンか?アヒルインパクトか?ゴール前これはきわどい。

ゴン(アヒルが浴槽の端にぶつかる音)

これはどっちが勝ったの?

同着にしか見えなかったんだけど。

三人で顔を見合わせる。結論が出ない。

彩さんとスミちゃんが目と目で会話する。両人うなづいた。結論が出たようだ。



「おれらの同着。あかりの一人負けって事で」

「ってことで~」

結託された!

くっそ罰ゲーム一人でやらなきゃじゃないか。

やりたくないんだけどなーー負けちゃったのなら仕方ないよな。

二人の体を隅々までふかなきゃいけないよなー。ああーメンドウクサイナー



大浴場から上がる際、挙動不審な女が一人いた。

私だった。目は泳ぎ、呼吸も荒く、そして頭の中では二人の体を拭くイメトレをする。

「あかり…お前なんか目が血走ってるぞ?」

「いえ、湯あたりしちゃったからかもかも?」

「あかりちゃんなんか言葉遣いおかしくない?」

「いえ、いつもどおりですヨ?」



「そんなことより、二人共、体拭いてあげるからこっちへおいで?」

「なんだなんだ?今度は濁りのない澄んだ目をしているな」

「あかりちゃん。これ罰ゲームなんだよね?」

「まぁいいけどよ。ビリだったんだからしっかり拭けよあかり」

「ははぁ~彩様。わたくしめにおまかせください」



バスタオルを受け取ると彩さんの髪の毛を優しく拭いていく。

拭くというより水分をタオルに移すといったほうがいいかな。

優しく、優しく髪の毛をいたわるようにしてやっていくと彩さんの警戒心が少し解けたような気がした。

それが狙いだった。



「彩さんごめん!!」

「ふぇ?」

夢見心地だった彩さんの胸をタオルでわしづかみにする。

「おい!あかり。なんか手つきがやらしくねーか?」

「雑にやって風邪でも引かれたら困るし、ちゃんと全身拭いてあげないとね」

「なんかいい事言ってる風だけど、さっきのごめんはなんだよ?」

「うん。そこはほら…」



モミモミ。

「あかり?」

もみもみ?

「怒るぞ?」

モミ…



私の背中に紅葉が咲いた後は、邪な気持ちを捨ててしっかり彩さんとスミちゃんの体を拭いた。

体が拭き終わった後は髪の毛も梳かすまでやれと彩さんにいわれたのでやることに。

「苦しゅーない」

「なんか私お嬢様になった気分だよ」



女の子の髪の毛は乾かしてから、梳かし終わるまで時間がかかるので

とても苦労するのだが、二人共髪が美しくそれも苦にならなかった。

それに、櫛で梳いているときの二人の心地よさそうな顔を見るのは本当に幸せだった。

できればまた今度やってあげたいな。



お風呂を終え、寝室に移動し就寝時間まで他愛のないことを話す。

もうそろそろ寝ようかとなった時にスミちゃんが一言。

「彩ちゃん。そっちいっていい?」

「お?いいけどよ。どうしたスミ。珍しいな」

スミちゃんが彩さんのベットへ移動して一緒の布団へ入る。



「さっき話を後で聞くっていったじゃない?」

「いったな」

「じゃ話すね?」

「今から??もう寝ようぜ」

「私の好きな”二日酔いの賢者と子猫”では悪の組織ガリシャスの陰謀はなかなか叶わないの。やっぱり悪い事は出来ないのよね。それでね――」

「おいおい簡便してくれよ。あかり~助けてくれー」



彩さんが何か言ってる気がするがまぶたが非常に重い。

落ち行く意識の中、見つめた先の彩さんとスミちゃんがすっかり仲良くなったのを確認した私はいつの間にか眠りについていた。



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