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巨人・白鵬・ハンバーグ(六話)

「あかりちゃーん彩ちゃん、出来たよ~」

「え!?」

「嘘だろ!?おい」



「うん?私なんかおかしいことしてる?」

かわいらしく首をかしげる佐伯さんの手には、計測して用意してくれた物があるのだが

明らかに量が多い!!ソースやケチャップは小皿に並々と盛られ、パン粉や牛乳は測る際に

計量カップが見つからなかったからなのか、買ってきた商品の1/3を豪快に盛り付けていた。



幸い、どの食材も混ぜてないので元の容器なり袋に戻すことが出来るので無駄にはならないのだが

これはどう説明しようか?

二つ星のレシピには材料の写真が乗っており、それを見れば言葉の意味がわからずとも

なんとなく食材の量が察することが出来るはずなのだが、どうしてこんなことになってしまうのか?



「佐伯さん。これはちょっと量多いかも…?」

「お前いくらなんでもこれは多すぎだろ。」

「ごめんなさい…大匙とか計量カップってどれのことかわからなくて。それで二人に聞こうと思ったんだけど二人が仲良く話してて…あんまりにも楽しそうにしてたから声が掛けづらくって。でも、与えられた仕事はしなきゃって…パニくっちゃって……」



「佐伯さん…」

もっと気を使ってあげていれば佐伯さんにこんな悲しい思いをさせることもなかったのに。

泣き出しそうな佐伯さんを見て心が痛む。

「お前な…変な遠慮とかしてんなよ!!」

彩さんに両肩を突然掴まれビクッと身体を震わせる佐伯さん。

そして、彩さんを見つめる瞳には少し涙が浮かんでいた。




「お互いまだ会ったばかりでわかんない所だらけだと思うけどよ、同じ目的を持った仲間だろ。それが変に遠慮とかして気まずくなってもしょーがねーだろ。だからさこれから徐々に仲良くなっていけばいいんだし、オレだってお前と仲良くなりたいんだぜ?」

オトコらしいことを堂々と言える彩さんかっこいい。

彩さんが男の子だったら惚れていたかもしれない。



「彩ちゃん…ありがとう。私友達いなかったからこういう時どうしたらいいかわかんなくって。でも二人ともこんなコミュ症の私と仲良くしてくれるから一緒にいると楽しくて楽しくて仕方なかった。けど…それと同じくらい不安だったの…」


チョコレートアイスを三人分買ったのも人付き合いの苦手な佐伯さんなりの

距離の詰め方だったのかもしれないなぁ…



「ていうかさ、オレらはもう友達っていうかそれ以上?の間柄なんだからよ。どんどん気持ちぶつけて来いよ。全部受け止めてやるよ。な?あかり」

「うん。そうだよ佐伯さん。私だってこんなところに連れて来られて不安な気持ちもあったけど、二人のお陰でそんな不安も薄れてきた。私これでも感謝してるんだよ?だからさ、そのお礼もしたいし私だって佐伯さんともっともっと仲良くなりたい。」



「スミって呼んで…」

「うん?いきなりどうした」



「私のことも名前で呼んでほしいな!!二人だけずるいよ!前から気になってたの。二人共昔からの付き合いみたいに”あかり、彩ちゃん?”(声色を真似ている)って気軽に呼び合ってさ!私だってもっと仲良くなりたいのに…」

私と彩ちゃんを上目遣いに睨むのだが、そんな顔もかわいい佐伯さん。



「お、おう…スミ。これでいいか?ってなんかいきなりだとこっぱずかしいな」

「スミちゃんは見たこともないほどの美人さんだから、正直気後れしていたかもしれない。でも、それでこんな気持ちにさせてしまっていたのだとしたらごめんね、私の配慮不足」

スミちゃん友達がいないって言ってるけど、学校の人達も私と同じような理由だったと思うんだよな。



美人すぎる容姿は、同姓のやっかみと羨望の対象にされ、精神的にまだお子ちゃまな同年代の異性は、美人過ぎて話しかける事も出来ず

遠めから眺めるので精一杯。望んでもいないのに、同年代とコミュニケーションがとりづらい環境が出来上がってしまっているのかもしれない。



そんな環境で育ってしまったであろうスミちゃんは、自分が行うことは他人に大仰に受け取られることでその事に違和感を覚え、その結果人付き合いが苦手になってしまったのかもしれない。全部私の憶測だけど。



「まぁ、これからお互い遠慮なしに仲良くやっていこうぜ。な?あかり、スミ」

「だね」

「うん!!」

心配事を一つ解決できた事と、自分の名前を呼んでもらったスミちゃんは満面の笑みで私たちに抱きついてきた。

ああぁ~スミちゃんは本当かわいいなぁ。



「よし、心配事も一つ減ったことだし3人でレシピ見ながら残りの作業やっちまおうぜ」

「おー!」



それからの作業は本当にスムーズにいった。

わからないことはお互い聞いて相談して決める。

それが徹底したことでこれほど作業効率があがるとは驚きだった。



それと、3人で未知の料理を作っている今がとてもとても楽しい。

「スミちゃんもっとこねてこねて。そう!その調子」

「うん!」


「うおーーネチョネチョして気持ち悪ー。手が油でギトギトしてるし…うへぇ~」

「我慢だよ彩さん!いけるいける」

「あかり。お前も俺らの応援なんかしてないで一緒にこねろ。な?」

「うん…」

ねちょ。

いやぁーー。



3人で仲良くこねにこねたハンバーグのたねは見事な粘り気を見せ、レシピ通りの結果がでるのであれば

いいハンバーグができそうだ。

初めてにしてはいいたねができたので自分が食べたい分だけ取り、成形する。



自分達がどれだけの量を食べられるか未知数なので仲良く3等分し、食べられない分は

食べたい人にあげるということにし、ハンバーグを焼くことに。



ハンバーグはレシピ通りにフライパンに接する片面に焼き目をつけることから始めた。

不思議な事に昔食べたと思われる食べ物は身体が覚えているみたいで

ジュ~と食欲そそる音と、香ばしい匂いを漂わせ始めたハンバーグの焼けていく様を見ていると自然と気持ちが高ぶってくる。



「なんか彩ちゃんがそわそわしてる~」

確かにハンバーグが完成形に近づくに連れて彩さんの落ち着きがなくなってきていた。

「に、肉ー早く食べさせろー」

頬を上気させ叫ぶ彩さん。

ハンバーグの焼き方は私たちに任せ、彩さんは既に食べる準備が心身ともに出来上がっているようだ。



ジュワ~。

ハンバーグの中身も火が通り始め、完成まであともう一歩。

彩さんのテンションは最高潮。

自分の分のハンバーグを少し切り、半生部分がないか確認するとしっかり中身にも火が通っていたので

彩さんとスミちゃんのほうを振り返り笑顔で親指を立てる。



「出来たー」

「やった~」

「二人共もう少し待って。ソースも作らなきゃ」

フライパンからハンバーグをお皿に移し変える。

「茹でたにんじんは食べたい分だけ自分のお皿に盛っておいて」

「あいよ」

「おっけー」



二人が作業している間にソース作りを始める。

スミちゃんが用意してくれたソースとケチャップをフライパンに入れる。

そしてフライパンにこびり付いたお肉のうまみをそぎ落としつつ

上記の2種と混ぜながら火を入れる。

そしていい感じに混ざったのを確認したら最後に赤ワインを入れ

少し暖めたらソースの出来上がり。



「もう待てねーよ。あかり早くしろ~」

「あかりちゃん早く~」

「出来たよ~。もう二人共駄々こねてないでお皿持って並びなさい。ソース掛けてあげる」



さっきまで駄々をこねていた二人が行儀よく並んでるのを見ると笑顔になる。

全員分のソースを掛けて、みんなでテーブルに移動する。

ソースと肉汁の混ざり合った匂いを嗅ぐとさすがの私も我慢できなくなって来た。

早く食べよう。



「よく作れたよなこんなに立派な物」

「本当、自分達でここまで作れるんだね」

「国民食Aみたいな食事からチョコレートと来て、今度はハンバーグか感慨深いなぁ」

みんなでうんうんと納得する。



「食事がこんなに楽しいものなんて完璧忘れてたもんね」

「だな」

「だね。でもこのまま浸ってても仕方ないしそろそろ食べよっか」



「食べる前に何かいう言葉あったよね?」

「あったな母親によく言わされてた」

「ああ。思い出したあれね」



みんなが笑顔で顔を見合わせるとどうやら頭の中の答えは一緒のようだ。

「せーの」

「頂きまーす」



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