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秘剣みじん切り

「お前らって見た目は真面目そうなのに…人の話聞かないタイプなの?」

住居に戻ると開口一番、綾さんが呆れたような調子で言った。


「ごめんなさい。そのつもりはなかったんだけど結果的にそうなってしまって」

「私もごめんなさい。あまりにもチョコレートがおいしくって。完全に我を失っていたわ…」

私と佐伯さんが同時にうなだれる。



「ふぅー…まぁいいや。これから気をつけろよ」

パンッ!自分の腿をたたき気合をいれる彩さん。

「でだ、お前らがいちゃいちゃしてるときにあの男がしゃべっていた内容はこんな感じだ」







料理もまったくやったことのないうちらに貴重な食材を無駄に消費されても困る。

なので、運営が用意した料理の講師に初歩的なことを明日から指導してもらうことになっている。

講師は必要最低限のことしか教えることが出来ないので、足りない情報や食材は交換ポイントを使って”料理本”や”教材ROM”などのために使用し

勝ち抜くための努力をしろ。などなど大変ありがたい言葉を頂いた。

また、これにはびっくりしたのだが学校の授業が普通にあるらしい。彼らは何をしたいのだろうか?せめてもの罪滅ぼしのつもりなのか?




「住居も含めてなんか待遇いいけどさ、ここまで私たちのこと考えてくれてるんなら誘拐なんかするなよな実際問題」

「うん…そうだね。金持ちの考えてることなんて私たちには理解出来ないよ。早いとこ勝負に勝って、ポイントも貯めちゃってここから抜けだそう?チョコレートには惹かれるけどパソコンのない生活だけは耐えられないよ…」

彼らのルールに従って勝たなきゃ元の生活に戻れない。納得はしづらいけどするしかない。

今は勝つことに集中して料理をちゃっちゃと覚えてこんな島からは早く脱出しよう。そうしよう。





3日目

「あれ?なんで出来るんだろ」

12人それぞれに渡された包丁でたまねぎと格闘すること2分。

私の目の前にたまねぎのみじん切りが出来上がっていた。

あまりの手際のよさに彩さんと佐伯さんの包丁が止まっていた。



1時間前 調理室

「私が君達に料理の基本的なことを教えることになった鳩口だ。よろしく」

白い割烹着と和帽子をつけて、いかにも厳格そうな目つきをした年配の男性が静かに現れた。

昨日のヒルマのように、目立ちたがりな登場とは正反対で緊張感のある雰囲気に集まった女の子達は背筋を正した。



「一分、一秒がおしい。始めるぞ。まずはみんなの前に置かれている器具についての説明だ。君達の中には両親が料理を作っているのを見ていてそれを覚えているのもいるだろう」

その瞬間、母が台所で包丁をリズミカルに動かしている姿が思い出された。母はいつも楽しそうに料理を作っていたなぁ。



「だが、まずは皆には同じスタートラインに立ってもらって私の話を最後まで真剣に聞いて欲しい。それが君達のためにもなるだろう。」

今までで一番まともな人なのかもしれない。

「まずはこれだ。これは”包丁”という調理器具でこれで食材を切ったりして料理をする効率をあげる。手入れをしっかりすれば食材がよく切れ、手入れを怠ったり乱暴に扱うと刃がこぼれてきて切れ味が悪くなる。これに限らずこれから自分の扱う調理器具は大事に扱うこと。それすら出来ないやつがおいしい料理など作れるわけがないからな」

うんうんとうなづく12人。


「それとこれは”まな板”というものだが基本的に食材はこの上で切る。魚やお肉を切った際はよく洗うように。雑菌がつき、そのままにしたら食中毒になるかもしれないので気をつけて欲しい」

後片付けも含めて調理だ。誰かがよくいってた。


「今日はこのわたしの包丁”岩山両斬波”の切れ味をお見せしよう」

先ほどまで厳格おやじという雰囲気をかもし出していた鳩口の目が輝く。

タンタンタンっ!!

目の前にあった大きな魚が見事に切り分けられ、その大きな身のブロックから見える骨の太さで岩山両斬波という包丁の切れ味に驚愕した。



「この切れ味を見てもらって解ると思うが、包丁っていうものは使い方を誤るととても危険だ。決してふざけて振り回したりしないように」

鳩口は調理室に集まった子達の目を真剣なまなざしで見つめていく。

皆の意思を確認すると鳩口は「よし!始めるか」といい教室の隅に待機していた職員に目配せした。

それを見た職員は12人全員に調理器具を配り始めた。



「高価なものから子供用の包丁まで揃えてある。取捨選択は各々に任せる。あとこれだが」

縦横高さ20cm×7cm×4cmほどの石みたいなものを掲げた。



「砥石という。これで切れ味の落ちた包丁を研ぎ、切れ味を戻す。このようにな」

鳩口は刃がぼろぼろの包丁に持ち替えると、砥石を使って研ぎ始めた。

シャコシャコシャ~コ

キラーン!研ぐ前よりも包丁の刃が綺麗に並び、鋸のようだった先ほどよりはよく切れそうだ。



「まずはこの包丁を出してくれ。これは主婦に人気No1だった包丁だ。軽くて使いやすいので素人の君達にうってつけだな。これでたまねぎをみじん切りしてもらう」

たまねぎを手に取り茶色い皮を剥ぎ取ると縦半分にし、ヘタや根の部分を切り取っていく。

そして平らな面を下にし、切れ目を入れていき最後に細かく刻んでいく。

もう少し細かくしたいのか包丁を持っていないほうの手で刃先を押さえると、包丁を持っていた手のほうを上下に動かしてたまねぎを更に細かくしていった。

「まぁこんなもんだ。お前らもやってみろ」



目の前にたまねぎが配られる。

今は貴重な食材を恐る恐る手にとると、みんな匂いをかいだり握ったりして何かを確かめているようだ。

皆、食材というものを触るのが久しぶりすぎてで少し戸惑っているのかもしれない。

私たち”Dチーム”は躊躇なくたまねぎの皮の茶色の部分を剥ぎ取ると、包丁を手に取りみじん切りをしようとした。



みじん切りをしようとすると佐伯さんと彩さんと目が合う。

二人とも勢いだけはよかったが、いざ切れ込みをいれる段になって完全に勢いを失っていた。

「持ち方はこれで良いんかな?」

なんだか彩さんは力が入りすぎている気がする。


「こうじゃないかな…」

佐伯さんは逆に力が入ってなさ過ぎるのか包丁が重いのか握った手がプルプル震えている。

「二人とも落ち着こう。彩さんは力が入りすぎてるよ深呼吸しよ。佐伯さんはもう少ししっかり持たないと逆に危ないかも」


「お、おう」

包丁をおろし深呼吸をした後、肩をもみながらぐるぐる回して余計な力をなくそうと努力する彩さん。

「わかったわ…」

おっかなびっくりだが先ほどよりはしっかりもち出したので危なげはなくなったように見える。



「ちょっとやってみるね」

なぜか先ほどから包丁が手になじむので、鳩口講師がやったようにためねぎのみじん切りに挑む。

サクっ

たんたんたんたんたんたんたんたん

シャクシャクシャクシャク



「あれ?なんで出来るんだろ」

気づくと目の前には先生並みに手際よくたまねぎのみじん切りが出来上がっていた。

なんというか本人はみじん切りをいままでやった記憶などないのだが身体が勝手に動く。

どうしてだろ?

理由をあれこれ考えていると目の前の佐伯さんと彩さんが目をまん丸にして驚いていた。



「お前すごいな!おれに教えてくれよ」

「あかりちゃん私も!」

二人の猛烈なアタックに戸惑いつつも頼られるのは悪い気はしないので順番に教えることになった。



まずは彩さんから。

「最初はここを大雑把に切ろう」

「こ、こうか?」

やはり力がまだ入っているようだ。

「ちょっといいかな彩さん」

「ん?なんだ」


私は彩さんの後ろに回ると彩さんの肩をもみだした。

「あん。や、やめろってくすぐったいよあかり」

「余計な力が入ってますよ~お客さん」

突然肩をもまれたことでくすぐったがるあやさん。


 

よし。こんなもんかな。

「もう一回やってみよう」

「お、おう」

今度は力が抜け、おっかなびっくりではあるがいい感じにたまねぎのみじん切りが出来そうだった。



次は佐伯さん。

「じゃ、やろっか」

「うん。よろしくねあかりちゃん」

心なしか調理前よりも熱いまなざしでこちらを見つめてくる。


「ここはこんな感じで」

「こうかな?」

佐伯さんはお手本を追いかけるようにやると出来るようだ。

もういなくても大丈夫かなと思っていると突然袖を引かれた。


「あかりちゃん…」

先ほどまで元気にたまねぎを刻んでいた佐伯さんの目に涙が浮かんでいた。

「佐伯さんどうしたの!?手でも切っちゃった??」

首を横に振る佐伯さん、一体どうしてしまったのか。


自体が飲み込めず彩さんに助けを求めようとすると

なんと!彩さんも涙を流しており必死に手で拭っていた。


私は美少女二人が突然涙を流している状況に困惑してしまった。

「どうしたの二人とも?」

「なんだか涙がとまんねーんだよ…」

「私にもわからないんだけど突然涙が出てきちゃって…」



感受性豊かな二人がたまねぎをむいたことで何か気持ちの変化があったのかもしれない。

私は二人を呼び寄せ、肩を抱いて励ましてあげようとした。

「ぐすん。なんか悲しいとかって気持ちとは違うな」

うん?

「そうかも…」

どういうこと?


よく見ると二人とも涙を浮かべてはいるがケロっとしている。

なんともなしに周りを見渡すと泣いてはいるが、お構いなしにたまねぎのみじん切りを続けている面々がいた。


「体験してもらいたかったからあえて言わなかったが、たまねぎを切ると大体のやつは涙が出てくる。そういう成分があるんだ。特に健康面に悪影響はないが涙で視界が悪くなるから今後は気をつけるように」

先にいって下さいよー。

一気に力が抜けるが二人が涙した理由がたいしたことではなくて安心した。



「もうあんまり心配させないでよ二人とも!」

「あはは。ごめんごめん、こんなん知らないって普通」

「私はたまねぎじゃないかとちょっと気づいてた…ごめんね」

恐ろしい子。


そんなこんなでみじん切りは時間はかかったがどうにか形にはなった。

鳩口講師には個人で食材を切る練習をするように言われた。

そして、包丁の練習には大根がいいと教わった。



理由は大根を薄く剥き続けることで包丁の力加減と操作がうまくなる。

その剥いた大根を細かく切ることで”ツマ”という食材ができるいうこと。

剥くと切るが同時に練習できる。そして食材が無駄にならない。

包丁の扱い方がうまくなりたいものは是非この大根で練習して欲しい。



みんなは熱心に聞き入っていた。

今日は時間がかかってしまったので授業はここまで。

後片付けをしておしまいということになった。

次回は”フライパン”という調理器具で火を使った料理をすることになった。

また、授業をしっかり受けたということで運営から1000ポイントを受け取った。



このポイントは施設内でいろんなものと交換できるらしい。

一番の目標は自由を勝ち取ることだがぜんぜんポイントが足りない。

先ほどのように料理の練習のために自己投資するのもいいし、便利な調理器具を買うのもいいだろう。

ポイントは二人と相談して有意義に使おう。そうしよう。



調理の授業を終えた私たちは時間割どおり次の授業の教室へと移動した。

授業に追われ、友達と教室へ移動していると普段との違いのなさになんだか笑えてしまった。













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