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開戦フードバトル3

スミちゃんに目を向けると、油汚れに強いとプリントされた『食器用洗剤エンジョイ』を手に取りお米の入ったお釜の中にその溶液を入れようとしているところだった。

「ちょ、スミちゃん?」


洗剤を持つ手を止めるが屈託ない笑顔で私を見つめてくる。

これは声を掛けられた理由をわかっていない顔だ。

「その洗剤をどうするのかな~?」

スミちゃんが手にした洗剤に注意を向けながら笑顔を作る。若干引きつった顔をしているだろうけど。

「お米を研ぐのって要は汚れをとるためでしょ? これって効果抜群みたいだし時短狙いでバババァーっと」

なんて古典的でダメ主婦なセリフを!

審査員も一応人間だ。洗剤で洗った食材を人様に出すわけにはいけない。

それがどんなにむかつく奴らでもだ。


「あのね、結論からいうとそれは間違い。昔は何も知らない主婦がやってしまうとされた笑い話で、色んな所で都市伝説とされていたぐらいで……スミちゃんはさ、洗剤を口に入れてみたいと思う?」

「口中に泡がブクブクしてカニさんみたいで面白そうだけど~。……うん、ごめん。やっぱり無理だね」

スミちゃんなりによかれと思ってやった行為なのだろう。

シュンとしてしまった顔を見て少しだけ胸が痛む。

だけど間違いは間違いなのだ。高性能炊飯器から虹色に泡立ったお米が炊き上がる前に気付けてよかった。



「私もやり方を知っていると思い込んで頼んでしまってごめんね。お詫びといったら変だけど、今から美味しいご飯の炊き方を教えるよ」

「うん!」

笑顔が戻り気持ちが和らぐ。

私たちとのつながりに神経を注いでいるスミちゃんだからこそこっちも気をつけていかなきゃ。

「先ずはしっかりとお米を計量。ここに計量カップというものがあります。このカップにすりきりでお米を入れる。これで一合分」

高性能炊飯器に入ったお米を一度米袋に戻し、再度計量カップですりきり一合分のお米を取り出す。

神経質になるぐらいで丁度いいのだ。


「審査員は三人だから二合もあれば足りると思うけど、少し多めに作っておきたいから三合分。今と同じ事をもう二回やってもらっていい?」

「うん。これなら出来そう」

やり方さえわかれば、丁寧な仕事をしてくれるスミちゃんの綺麗な指を見つめながら説明を続けていく。

「次はお米の研ぎ方。私たちのおばあちゃん世代は、汚れなどを落とすために何度もお水でお米を研いでいたけど精米技術の進化でそういう手間は減ったの」

「へぇ~おばあちゃん達大変だったんだ」



「そうだね。で、大事なのが最初に使うお水ね。水道水じゃなくてここにある天然水を使う。これをいれて軽くお米を研ぐ。そしてお水が白くなったら研ぎ汁を捨てる」

「なんで天然水を使うの?」

「精米されたお米はすっごい喉が乾いている状態で、一番最初に浸したお水を目一杯飲み込むの。これが水道水だと消毒するために使われたカルキとか不要なものをお米が吸収してしまって美味しくならないってわけ」

「あかりちゃん、博士みたい!」

美少女のスミちゃんに尊敬の眼差しで見つめられ私の薀蓄は更に加速していく。

「最後はお米を炊く時のお水の量と温度! 量はこのお釜の内側にある三合のメモリのところまで入れる。さ、ら、に! 炊く時のお水は冷たいと美味しくなるからお釜に氷を入れて温度をググーっと下げちゃう。そうするとアミノ酸量が増えて美味しくなるの!」

スミちゃんの拍手を浴びて気分がよくなった私がふんぞり返っているとお尻に激痛が走った。



「講義はもういいかドクターあかり? 制限時間の事を完璧に忘れているだろお前」

「あ、うん……ごめんなさい」


大型液晶モニターに表示された残り時間は45分。

スミちゃんがお米を炊飯器にセットしたのを見届けると

次の作業のプランを練り直すことにした。



「玉ねぎは炒め終わって今冷ましている所だ。次はどうする? ひき肉でもこねておくか?」

「そこはスミちゃんに頼もうかと思って。彩さんにはお味噌汁を作って欲しいかも」

彩さんにはこの仕事に向かない理由があるのだ。

料理する人にはメリットにもデメリットにもなることなのだが、今回のケースではそれがデメリットに作用してしまう。

だからスミちゃんに是非やって欲しい仕事なのだ。決して美少女の苦悶に満ちた顔を見たいわけではないのだ。


「スミちゃん、これコネコネしてもらっていいかな?」

食材を混ぜるのに便利なボウルという調理器具と、ひき肉を両手に持ち猫なで声でお願いをしてみる。

この媚が私の全力! さぁ結果はどうだ――



「私それやりたくない……爪の間に入ってネバネバして気持ち悪いし、匂いはなかなかとれないし……」

スミちゃーーん!!

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