今日、僕が男の娘になったワケ3
父が亡くなり、私が王女として王宮に招かれて、数日が経過した。あれからことあるごとに上の姉達に行儀作法の練習と称しては、私の部屋に足繁く通ってきている。そして、私をいろんな場所に案内しては揶揄ってくる。悪い人たちではないけど、二人揃うといつも口喧嘩ばかりなのは勘弁してほしいわ。
先ほどあったことを思い出して、私は廊下で一人ため息を吐いた。今まで他人だった人がある日から急に家族になるなんてやっぱり難しいことだわ。私には無理よ。それも、この国の王族だなんて絶対に無理!!
召使いに着替えさせてもらう生活から、王侯貴族の心得を家庭教師から学習する。果ては食事のマナーまで事細かにグチグチと何時間も聞かされてもうフラフラよ。
辛い。本当に辛いわ。私はもっと王女様たちは自由で優雅に暮らしていると思っていのに。もう、日に日に参ってきちゃうわ。本当にもうできればここから抜け出して、旅にでもでたいわ。
下町で育った私にはこんな豪華なドレスなんていらない。普通の生活が良いの。ただ、父と一緒に町で静かに暮らしたかった。
もちろん、私にだってこんな現実逃避のようなことを考えている本当の理由は分かっているの。私が王宮生活でストレスとなっている原因はなにかなんて考えるまでもないことなのに…
王宮のマナー教育が厳しい? いえ、そんなことはないわ。異国人であった父は礼節に厳しい方だったもの、この程度の教え方で音を上げるわけないわ。
そうあの問題のことよ。いつあのことがバレるのか心配で堪らないのよ。私は本当に心配しすぎて、食事もまともに通らないわ。本当にこの国は間違っていると思うの。
私がそんなことを思いながら、長い王宮の廊下を歩いていると、
「ホラ、早く歩きなさい」
といって、大柄で膨よかな女性が、男の首輪を引っ張って歩いている。
「ポーラ姫様、早すぎます。もう少し、ペースを落としてください」
このように男性が首輪で繋がれて引っ張られている姿はそれほど珍しいものではないわ。なぜならば、この聖バレリア王国は聖女の国と呼ばれていて、女性が主あるじとなり、男性はその召使いであるというアーデルハイド教に基づいて統治されている。この国では女性が男性を奴隷のように支配しているのよ。
「なに、あたしをそんなにジロジロと見ているのかしら?」
「い、いえ、見ておりませんわ」
め、目を逸らさないとダメね。私がジロジロと見るのが気に食わなかったのかその見知らぬ女性が突如としてこちらに声をかけてきたわ。まるで男みたいな低音ね。
「ポーラ様、彼女はあなた様の奇麗さに見とれていたのでしょう。だから、気にせずに早く行くべきです」
突如として、首輪を引かれていた男性が私のことを庇う用に私の前に出る。そして、主の機嫌をとろうとしておっべかいを言いながら、で早くこの場を去ろうと提案をしているわ。
その男性のそんな態度と発言内容を聞いてしまうと何だがとても面倒くさそうなご主人様から私を引き離す為に頑張っているように感じてしまうわ。なんて、健気なのかしら。
「なに? 私に指図するの? 喧嘩を売っている?」
「め、滅相もございません」
床に頭を擦り付けて謝るその男。なんだか見ていると泣けてくるわ。彼は何も悪くないのに怒鳴られている。可哀想ね。私は彼に同情を禁じ得なかったわ。
「あたしに何か文句でもあるの?」
「い、いえ、何もありません」
文句ですか? 言いたいことは山ほどあります。でも、ここで相手がわからないのに争っても新参者の私には何もメリットがありません。タダでさえ、慣れない王宮生活です。波風なんて何も無いにこしたことはありません。
ええ、そうですとも、私は寄らば大樹の陰で、長いものには巻かれる主義なのです。しかし、ただ、私のおもったことを率直に内心で言うとなんで王宮にゴ○ラがいるのかしらと言ってやりたいくらいです。もちろん、そんなことは口が裂けても言えませんが…
「そう、勘違いだったみたい。失礼するわ。ホラ、行くわよ」
そう言って、彼女は男性を四つん這いにさせて、首輪を引っ張っていた。これがこの国での男性と女性との差。
…女性には絶大な権力がある。生まれた瞬間から長格差社会。男に生まれたら何れだけの才能や見た目があろうともゴミのような扱い。女性に生まれたらどんな姿や頭脳であっても、最高階級。イヤになるわ。
「相変わらず、男を引き連れてるわね。あの首輪を引かれている子も何日保つのかしら?」
「次から次へと捨てていくわよね。もっても数日だと思うわ」
どこからともなく女性の会話が聞こえてきた。廊下の曲がり角の付近に侍女達が何やら熱心に話しているわ。
でも、本当に女性はとんでもないことをさらっとニコやかに言うわよね。怖い、怖すぎるわ。私もバレたら、あんな扱いになるのかしら…
「でも、私、思うのよ。あの方はどう見ても男にしか見えないわよね? なにあのゴ○ラのような体型は?」
「しー、それはみんなが思っていることよ。もちろん、私もそう思うわ」
デスよね。私は彼女達のやり取りを頭の中で同意をしながら、耳を傾けていた。
「あと、これは知り合いから聞いた話ですけど、最近は、男性が女装して」
心臓がとまる音があったとしたら、きっと私は聞こえただろう。それくらいに内心ドキドキするような内容の話。
「馬鹿ね。バレたら、去勢どころか。一生、日の目を浴びることがない人生になるのにね」
そうなの!? はじめて聞いたのですけど? 男が女装しただけで去勢のうえに日の目を生涯浴びないような罰則があるのですか!! 恐ろしい。
母国とはいえ、この国は怖いわ。はやく自室に戻りたい。私は侍女達の前を静々と歩いてさっさと自室にもどることにしたわ。だって、早く一人になりたいのですもの。
「さてと、ようやく、着いたわ」
王宮は広すぎるので自室に行くまでに数十分ではつかないわ。もう、軽いダイエットよりも歩くの。本当に疲れるわ。まだ、時々、迷子になるから…
「ただいま」
私が扉の鍵を開けて、自室に戻ると黒を貴重としたシンプルな出で立ちのメイド衣装を着た女性が佇んでいた。
「お帰りなさい。セシル様。まずはお召し物を着替えましょう。もう、今日はおやすみになられますよね?」
彼女は召使いのシモーナ。彼女は、私の身の回りのことをやってもらっているとは言っても、着替える時は庶民出の私には恥ずかしいので、部屋から出て行ってもらっているので部屋の管理がもっぱらの仕事になっている。
「ええ、それにお風呂に入りたいの。今日は疲れたわ」
「もう、準備はできております。どうぞ、御寛ぎください」
彼女に促されて、私は自室の隣に設置された風呂場に向かう。でも、本当、王族ってすごいわ。私が頼んだら、お風呂がすぐに作られて次の日には使えるんですもの。
「一人の時間が落ち着きます。自室のお風呂場は誰も入ってこないからステキ」
王宮に来てからは、私に取ってお風呂の時間が一番に安心でした。ここでは本当の自分をさらけ出すことができる。こんな生活をいつまでできるのか不安だけど。でも、奴隷の身分に落とされるよりかは断然に良いわ。出来る限り、ここでの生活を頑張りましょう。などと、下らぬことを考えていたら、
「セシル? お風呂入ってるの? 私も入るわ。入って良いわよね?」
そういって、誰かが脱衣所に入ってきたの!? シモーナ、なぜ、風呂場まで人を通してしまうの!!
「返事がないわね。勝手に入らせてもらうわね」
う、嘘!? 誰かが入ってきたの? こ、こんな裸を見られたら…
私の正体がバレちゃう! どうしよう。どうしよう。
「お姉ちゃんと一緒に入ろう? セシルちゃん」
この話し方は下の王女。彼女は自分に妹が出来たことが嬉しくて嬉しくて仕方がないようで私によく話しかけてきてはいたけど。お風呂場までくるのは常識がなさすぎる。それとも王族姉妹のスキンシップはこんな感じなのかしら? なんて、考えている場合ではないわ。急いがないと!!
「お姉ちゃんにも、あなたの可愛い顔を見せて?」
いくら、男の割に線が細いからってバレるよね。バレちゃうよね。でも、ここで、行かないと入られちゃう。私は急いで、バスタオルを身体に巻いて、脱衣所にかける。
「お姉様、出っていてください。部屋で待っていてください」
「イヤよ。私はセシルちゃんと一緒に…」
ダメ、ダメ、ダメ絶対。そう心で呟きながら、私は彼女を脱衣所から追い出す。バレたら、奴隷。バレたら、奴隷。いやだ。イヤだ!! そんな生活したくないとの思いが私を突き動かす。
ふぅと一息吐いた後に私は扉を背にして座り込む。あら、イヤだ。本当に女性になったみたいな座り方をしているわ。
「もう、セシルちゃんの意地悪。お姉ちゃんも一緒に入りたいのに」
姉の諦めの悪い声が扉越しに聞こえてくるわ。やはり、脱衣所の扉だけでは声が聞こえてしまうものなのね。
「でも、なんか、あの子。逞しい身体つきだったわね。なんかドキドキしちゃったわ」
え? バスタオルで包んでいる姿を見ただけで、なにを言っているの…
「もしかして、あの子は男だったのかしら?」
嘘! バレた!? ど、どうしよう。私の人生もここで終わりなの? ああ、お父さん、ごめんなさい。愚かな息子がすぐにそちらに参ります。なんて内心パニックになっていると、
「なーんてね。ないない」
と姉の声が聞こえてきて、私はほっと一息を吐く。本当に前途多難ですわ。そう思い、またため息を吐く私であった。
聖バレリア王国は聖女の国と呼ばれる国がある。そこは、女性が主あるじとなり、男性はその召使いであるというアーデルハイド教に基づいて統治されている。そんな国に突如として、女性の王位継承者が現れた。その新たに加わった王女の名前はセシル・バレリア。そう、私なのよね。でも、王女なんて荷が重いどころじゃないの。だって、本当は私は男なのだから…