初のβテストは異世界ってことで
「ねぇ、コムド?このスライムが本当に生体兵器だと思う?」
「さ~?けど、如何してこんなスライムがお嬢の兵器召喚に反応したんだろうね?」
「そんな事僕が知る訳ないじゃん。それに、父さんの召喚魔法の本には、条件次第でこの世界とは別の世界から兵器を召喚できるって書いてあっただけだし。まだ学生の僕には分かんない事ばかりだよ」
「それもそうか~」
(……ここは何処だ?普通のオンラインゲームなら、開始当初は始めの村か町に転送されるのが普通だが…。っと、そうだ。メニューはッと…。?メニューが開かんぞ?それに目の前にいる子供の名前も見えん。それに、この子達は召喚って言ってたようだが、俺はオンラインゲームの世界に来たんじゃないのか?)
徹が目を覚ました所は何処かの家の庭先で、徹の居る場所は周りを円で囲む魔法陣の様な模様が描かれた石畳が祭壇の様になっていた。
そして、その中心に徹が居て、その魔法を発動する場所らしき所に、ゲームの関係者であるカリンとそっくりな女の子が立っていた。
「…あ、どうやら意識があるみたいだよ?試に話をして見れば?召喚魔法陣を使って現れた以上、言葉は通じる筈だから」
「う、うん」
お付らしい少年の言葉に促され、少女は恐る恐ると言った感じで徹の前に進み、その少年の様な話し方で、可愛らしい声で聴いてきた。
「あの~?僕の言葉…は、分かるよね?ココが何処だか解かる?」
「…ここはゲームの中じゃないのか?俺はゲームの世界に入って来た積りなんだが?」
「?ゲームの世界って言うのがいまいち分からないね?この世界でゲームって言えば、キングバトラルか、チェイスティングが一番盛んに行われている遊びだけど?けど、そのどれもそのスライムの体では出来ないよ?魔物退治とかを生業にする人なら、その体で出来る遊びも知ってるかも知れないけど、生憎僕はまだ学生だから、そこまで詳しくないし……コムドは何か解る?」
「いや、僕もサッパリだ。しかも、今の言葉がそのまんまなら、彼?は自分の意志で何処からかこの魔法陣の召喚条件を満たして入って来た事になる。これは旦那様に相談するか、お嬢と仲の良いレイム姫に相談するのが良いと思うよ?あのお姫様はお嬢のお願いなら結構引き受けてくれるんですから」
「何だ?一国のお姫様と仲が良いって事は、お嬢ちゃんは結構良い家柄なのか?」
さっきから、少年がお嬢様と言ってる事から、それなりの想像はできるが、それでも、この世界がどういう世界か分からない現状、徹としてはさっさと情報が欲しい所だ。
そして、その徹の思いが通じたのか、少女が指をパチン!っと鳴らすと、遠くからカラスの様な黒い鳥が現れ、少女と何か話し出した。
「……はい、分かりました。直ぐに連れて参ります。…取りあえず、連れて来てくださいって。…そう言えば、名前を聞いて無いね?僕はこのトルパ帝国の4大貴族の一つ、チェイニン領を治めるチェイニン王爵の娘でカノン・チェイニンって言うんだ。そして、そこに居る子は僕の使用人兼ボディーガードのコムド。彼は僕の魔法の先生でもあるから、聞きたいことがあれば、彼に聞いてみると良いよ」
(う~ん、先ずはメニューの開き方が分からないが…この子達に聞いても分からんだろうから、魔物の事を聞いてみるか。その中ヒントが入っているかもしれん)
徹は考えを纏めると、コムド少年に向かい少しだけ体をズラした。
「では、先ず俺の名は神谷徹だ。こんな格好をしているが、本当は人間だ。そして、今言ったゲームという物の中に入って、気が付けばココに居たって事だ。……で、早速質問だが、魔物が姿を変える場合に使う言葉って聞いたことあるか?」
「……ちょっと待ってよ?それなら過去の召喚師の文献に載ってたかも知れない。少し探してくるよ」
徹の質問に、少し考えた後そう言い残してコムドは屋敷に入って行った。
徹は待つ間にカノンと言う少女にこの国について解かる範囲で聞く。
「カノン、コムドが行ってる間、少し聞いとくけど良いか?」
「その前にそこのオープンテラスに座らせて?君はそこに座っているか寝転んでいるかの知らないけど、あまり疲れて無いようだけど、僕は召喚の儀式からずっと立ちっぱなしだったから、そろそろ座りたいよ」
「あ、ああ…それは気付かなかった。良いぞ?って言うか、この体での動き方が分からんから、持って行ってくれ」
「分かった」
それから、カノンは祭壇のすぐ隣に備え付けてあるオープンテラスの椅子に座ると、徹を丸板が一本の棒で支えられている机に置いてから、肩肘を突き、徹を見つめながら
「で?何かな?僕で良ければ学校の事から恋の相談まで乗るよ?僕に一目ぼれしたって事なら、人間の姿を見た後に考えるよ。僕は結婚相手を自由に決められない立場の権力者だけど、色々な条件付きで融通は通る位親子間の関係は良い方だから。……で?何が聞きたいの?」
「じゃあ、取りあえず3つ。
この世界に魔法があるって事は聞いたが、その他の技術は有るのか。
そして、この国でもし生活して行かないといけない場合の通貨がどの程度の価値なのか。
最後にこの世界に戦争っていう人同士が争う戦いがあるのか。
取りあえずこの位かな?後はコムドが帰って来た時に魔法関連について聞くよ」
「分かった。…っと、魔法以外の技術は一応あるね。まぁ、出来る人というか、実戦レベルで使える人は魔法と同じで【ペルナ】っていうその技術を教えてくれる専門学園にでも通ってないと出来ないけどね?」
「カノンは出来るのか?」
この世界にある魔法にも興味はある徹だが、同時にペルナという耳慣れない技術についても興味が有る為少し見てみたいので、やって貰おうと聞いた。
「僕は魔法具作成をちょこっとだけだね?後でコムドが帰ってきたら解かるけど、魔法って言うのは現象を発生させるだけで指向性を持たないんだよ。その為に、攻撃魔法なんかだと、相手にぶつける為には魔法具で方向性を指示してやらないと、簡単に相手に避けられちゃうんだ。僕の場合は趣味程度の物を父さんに習って、やっと少しって感じかな?」
「その魔法具ってのはここにあるのか?」
カノンの言葉で興味が湧いた徹は、直ぐに聞いた。
「ん、ちょっと待ってね?」
言ってから、ズボンのポケットを弄って一つの指輪を見せる。
「…あった。この指輪が僕の趣味で作った魔法具だよ。材料自体が鉱物系の魔物からしか採れないから貴重ではあるんだけどね。まぁ、そこはさっき言った僕の立場を考えて納得してよ。それで、この魔法具は現象操作のペルナが込められてる魔法具で……肝心の使い方だけど…」
カノンは、そう言うと、右手の掌を上に向けそこから小さな水の塊を発生させた。
「…で、片方の手で魔法具の宝石に触れながら意志を伝えれば…」
カノンが説明した後、再び水の塊に眼を向けると、掌の塊を上に下に移動させてから、喉が渇いたのか自分の口に入れてから徹に向き直る。
「こんな感じかな?僕は魔法だけは結構優秀でね?世界でも珍しい元素魔法が使えるんだ。……ああ、君を召喚したのは兵器召喚で、術者の力は関係なしに、条件が整えば召喚できる、特殊魔法の分類だよ。…それと、通貨って言うのも有るね。もっとも、その製法が帝国の特殊加工魔法具によってしか創られない為に、偽造は不可能な上、この大陸でしか使えないっていう不便さもあるけど。」
「それを見せてくれ」
「…はい、これが1フラン。で、…これが1ナタン。…これが1ミラン。これより上は僕の手元の小遣いでは無いから、見せて上げられないけど、大体100単位で通貨名称が変わってくるよ。そして、後でお城のレイちゃんの所に遊ぶに行くから、その序にレイちゃんのお忍びに付いて行って町の様子を見学がてら、どの通貨がどの位の価値があるかを見ると良いよ」
「…これか…」
徹に見えるように並べられた3枚のコイン。それは一見すると日本の百円玉に大きさは似ているが、材質が色々と違うのか、色がバラバラだ。
しかし、この色が通貨の価値なら、原料に成る物の価値が希少さにそのまま繋がるのだろう。
1フランと言われた硬貨は、見た感じ唯の石を磨き上げた物だ。
1ナタンと言われた硬貨は、地球で言う銅の色に似ている。1ミランも、同様に地球の百円に近い色だ。
これ以上のもあるらしいが、カノンの小遣いでは大きすぎる額というのでは仕方ないだろう。
「…わかった。後は戦いに関してだが…」
「ああ、それに関してはさっき言ったレイちゃん…レイム姫が詳しいから、直接教えて貰い…「分かったよ、徹さん。スライム系の状態変化の事。何故か皆が召喚する召喚獣はドラゴンや天馬や鳥型の魔物が多いから、調べるのに時間が掛かったよ」…それで?どうやれば良いんだ」
「うん、頭の中で成りたい物を想像しながら【フォームチェンジ】と念じれば良いってある。恐らくお嬢の兵器召喚に反応したのも、知識があるスライム系の者が色んな兵器に成れたらそれこそ最強の兵器だと言う誤作動じゃないかな?…ああ、魔法に関しては説明した?」
「ううん?コムドに説明して貰う方が早いと思って言って無い」
カノンの言葉にコムドは苦笑しながら「まぁ、お嬢なら仕方ないか…」と一言呟いてから
「じゃあ、魔法に関して説明するね?…その前に、人の姿に成ってくれる?どんな姿か興味あるから」
「あ、僕もあるある!」
「…じゃあ、やってみる」
そう答えた後、カノンに机から降ろして貰い、下に到着すると、頭に自分の体を想像し、【フォームチェンジ】と念じる。
そうすると、明らかに自分の目線が徐々に徐々に高くなって来ているのが分かり、最終的にはカノンやコムドと変わらない背丈になった。
そして、徹は人型に成れたことで、地球のゲームの時にスキルが使えるのか試してみたくなった。
「(浮遊)」
頭の中で、先ほどの様に念じるが、体が浮く様子が無い。
そして、次は…と思っていると、何故か視線が気になって徐に二人を見ると…
「……口調で分かってたけど、想像より少し若いね。僕はてっきりもうちょっとオジサンかと思ってたよ。…ああ、勘違いしないでね?趣味がオジサンって事じゃ無く、あくまで話し方からの想像だから」
と、若干感心しながら徹を見つめるカノンと
「…面白い変化だね。僕はペルナについてはあまり知識は無いけど、その変化は魔物版のペルナってとこかな?…他には何かできない?…ああ、資料には人間と同じく、魔物の体もペルナを使えばその分特別な力が失われ、時間が経たないと回復しなかったり、その時の体調によって、使えないペルナもあるらしいから」
「いや、それがな?今俺が言ったゲームの中の技術を出来るか試そうとしたんだが、何も起きないんだ。これが、お前の言う特別な力が足りない所為か、俺の知ってるゲームの技術が、この世界では使えないのか分からん」
徹の変化に面白そうに微笑みながら他にできる事があるのか聞いたコムドに対し、やってみたが出来ない、他のやり方が分からないと言った感じの受け答えに「う~ん」と言いながら再び考え込むコムド。
その間、カノンは徹の体に触ったり、何故か変身時に自動的に装着していた服に触ったりしていた。
そして、その服を引っ張りながら「ねぇねぇ、この服はどうやって出したの?」なんて聞いている。
「ペルナの事はレイム姫の側近の護衛の方が詳しかったと思うから、序に行って聞いて見ようよ。何か解るかも知れない。…君も色々と聞きたいことが有るだろうしね?」
「それは良いが、城は遠いのか?近くなら良いが、遠くだと移動手段が気になるぞ?」
徹の心配事にカノンが微笑みながら応える
「ああ、それは心配ないよ。僕らみたいな帝国の4大貴族は、領地が広大で、帝都から離れている分、緊急招集の場合なんかの為に、帝都の関係機関に直結する転移魔法鏡を与えられているんだ。それを使えば記録されている場所になら一瞬で行けるから、移動手段の心配はないよ」
「へ~、便利なもんだな。まぁ、今の何もできない俺からしたら、好都合ではあるが…」
「まぁそう言う事だね。…では、行こうか?」
そう言って、コムドとカノンに連れられ、転移魔法鏡がある、カノンの父親の執務室に向かった。