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黒宰相謀反未遂顛末

転生後の後日談のようなもの








 現皇帝ディオ・メレーデンス・エレゲイアはぽかんと口を開けたまま固まっていた。

 目の前に立つ人間が発した言葉が、あまりにも信じがたかったためだ。


「ま、待て、もう一回言ってくれ」

「エノン・レーヴィン宰相が、む、謀反を!」


 言っている方も信じられないという顔をしている。

 開いた口が塞がらないとはこの事だった。




 エノンはディオの学生時代からの親友である。

 頭は固いわけでもないしそれなりにユーモアもある。目の下のクマさえ消えればそれなりに綺麗な後妻を迎えられるだろうに、仕事を愛するあまりにそれも考えないようだった。

 そう、彼は仕事が好きなのだ。

 仕事狂いと言ってもいい程に。


「書類は!? ……もう無いのか! 分かった、視察に行ってくる!」

「閣下ああああっ、そろそろ休んでくださいってば!」

「うるさい仕事持ってこいっ!!」


 あまりに仕事が好きすぎて、こんな調子なのである。

 普通の公務員では満足できない仕事量らしく、ただ仕事だけを求めて出世してあっという間に宰相にまで上り詰め、常にあるクマのせいで黒宰相と呼ばれるまで働き詰めの男。


 彼にあるのは仕事欲だけだ。

 宰相である今、出世欲も消えうせた。食欲と睡眠欲もあるかどうか定かではない。娘が居るから、一応性欲の方はあったのかもしれない。しかし物欲は極めて薄いだろう。

 と、誰しもが思っていた。




「嘘だろ!? 嘘だよな!? だって仕事できなくなるだろ!」

「い、いえ、もしかするときっと今度は皇帝として更に大きな仕事をしてみたくなったのでは」

「……納得しちまったじゃねえかオイ!」

「そ、それより問題は――」

「分かってる。言うな」


 突然真顔に戻ると、ディオは椅子を跳ね飛ばすように立ち上がる。


「臨時公務員を200人ほど雇え! 仕事が回らなくなる!」


 1人で200人の働きをする男、エノン・レーヴィン。

 その彼の謀反は、色んな意味で城に激震を走らせたのであった。



 更に、父親と繋がっている可能性があるため、現在皇太子と同じ学校に通うエノンの娘が連行される運びとなったが、なんとその彼女が何者かに攫われた。

 黒髪に銀色の目をしていたらしく、血縁関係があるとも見られ、どちらかといえば共謀者により救出されたと見る者の方が多かったが――


「まさか。俺がしっかり見てたんだから、天地が引っくり返ってもありえない」


 という皇太子の言葉で一応疑わない事になった。というか疑ったら容赦なく鉄槌が下されそうな雰囲気であった。

 確かに、彼はエノンの娘、ミリシアナとほぼ1日中行動を共にし、目を離してはいない。離れる時間であっても、彼女に持たせている道具で密かに監視している。

 魔法の使用は感知できるし、他人と接触しても分かるようになっている。

 無論彼は疑いを持って監視していた訳では無い。どちらかといえば、悪い虫が付かないようにだ。


 ここ数日間の記録を見ても、ミリシアナはただ実験などを繰り返し、時折レポートを書いたりノートに何か書き留めたりしたくらいだ。あとはコウキに構われている。

 ちなみに音声は入らないが、行動はある程度文章化されて出てくる。

 そしてその最後の記録に、俄かに周囲が沸いた。


「き、求婚されたのですか!?」

「ああ、うん」


 何て間の悪い――と、彼らが思ってしまった事は責められないが。

 コウキ皇太子殿下は、とてつもなく邪悪な艶笑を浮かべた。


「会ったら、お仕置きかな」


 その場に居た全員が一瞬体を強張らせ、背筋に走った寒気に思わず手を握り締め、ついでに件の彼女に全身全霊で同情してしまったのは言うまでもない。




 その後彼は単身で、ミリシアナの魔力を追跡して転移するという離れ業をその場で開発して見事に救出してきた。

 連れ帰られた彼女が嫌にげっそりとしていたのは気のせいではないだろう。


「エノン・レーヴィンには魔法で洗脳された痕跡がありました。今は正気のようです」

「そう」


 エノンは未だに牢に居るが、既に正気に戻っている。問題は、真犯人を見つけなければいけないという事だ。

 洗脳の痕跡については立証された。ならば、それを誰がやったのか。

 無論コウキとミリシアナは知っているが、流石にその犯人を捕えるのは難しい。長期的に見れば不可能でもないかもしれないが。

 ――現時点、国からすれば内憂か外患か、そのどちらかも分からないのだ。不安要素を抱えたままにしているのは良くない事態である。


「と言う訳で、対策を考えました」

「ほう?」


 コウキが考えた手段というのは非常に大胆、かつバレればとてつもなく危険な物であった。


 まず、ミリシアナが攫われた場所が魔王城(榮魔殿)だというのは既に知れ渡っている。

 うっかりというか、普通に口に出してしまったためだ。

 犯人については秘匿してあったが、こういう事にした。


「古の魔王の復活。彼はまだ力を取り戻していないため、国から崩そうとエノン・レーヴィンに洗脳を掛け、その娘を攫った。しかし今回は俺が命からがら助け出した」

「命からがら、ねえ。平然としてるけどな」

「民からすれば分かりません。次に各地に俺とミリシアナで作った魔法生物を彷徨わせ、ある程度の危機感を持たせます。一つ一つ俺たちで討伐し、魔王城に向かいます」

「ふむ」

「あとは古の勇者の物語を辿りましょう。折角名前も被っている事ですし、手柄のひとつでもあれば、代替わりの時にも苦労が無いでしょう。父上の名声は高すぎますし」

「自作自演じゃねーか」


 苦笑する父親に、コウキはふっと笑みを零す。


「――それにミリシアナも同行します。英雄であれば、もう文句は出ないでしょう」

「お前それが本音だろ!」


 エノンの謀反(未遂)から、貴族達に娘を薦められミリシアナについて苦言を呈され、の繰り返しが腹に据えかねているらしい。

 どう見ても邪悪な笑みを浮かべる息子に、ディオは苦笑を浮かべて肩を竦めた。




 各地の森などに“魔物”らしきものが次々と発見され、人々は恐怖の底に叩き落された。かつての魔王城付近から空が翳り、地から瘴気が立ち昇る。

 無論魔物については人を傷つけないように制御された魔法生物であり、空が翳っているのは城に設置した魔法道具で人工的に曇天を作っているからであり、瘴気に到っては色付けしたただの無害なガスである。


「聖剣を授ける」


 そして今、かつて勇者を召喚したというイ・ソーマ大神殿で、法王リュエシアナ・ミミーによってコウキ皇太子に聖剣が授けられた

 リュエシアナはクェンティア・ミミーの弟の孫であり、女性としては初めての法王となる。腰まで伸びた銀髪が美しいアーヴ族の女性であった。


 またその次に、ミリシアナ子爵令嬢に聖杖が授けられる。盛大なマッチポンプに「いいのかそれは」と青ざめていた彼女だが、魔法生物を作る時は妙に楽しげにしていた。

 そんな彼女も、勇者と精霊の伝説になぞらえた少し露出の高い衣装を纏って杖を受け取っている。精霊のいとし子とまで呼ばれた彼女だが、伝承に残るミーナ・ハルベルンとほぼ同じ容姿をしている事もあり、民衆からの期待も高い。


「私は父を陥れ、民までも傷つけようとする魔王を許す事はできません……! たとえこの命果てようと、殿下と共に魔王を倒します!」


 そんな彼女の渾身の演技に涙した者も多いという。



 旅は至極順調であった。各地の魔物を薙ぎ倒し、2人という少人数でありながら負け姿は1度たりとも見せず、民衆は2人の活躍に沸いた。

 やがて魔王城の懐である元榮帝国地域へとたどり着き、人の目が無くなる。


「……疲れたー」


 そこで魔王城に転移し、2人は一息ついた。

 あとは城に仕掛けておいた仕掛けを解き、空を晴れさせ、瘴気を消すだけ。

 簡単なものである。


「そうだね」


 ふあ、と欠伸をする。2人は例のベッドに倒れこみ、そのままぐっすり眠った。


 翌朝、適度に怪我をしたように見せかける魔法を掛け、体を汚してから道具を壊す。空は晴れ渡り、陽光に魔王城が輝く。ついでに浄化されるようなエフェクトも出た。


 転移で帝都の外に戻り、わざわざ門から戻った。民衆に讃えられつつ、どこかぎこちない笑顔で手を振るミリシアナと、完璧な笑顔で手を振るコウキが対照的でもあった。







「という訳なんだけどね」

「マジか。……お前も親父も大それた事するよな」


 とある町の酒場で、懐かしげに語り合う黒髪の男が2人。

 片方は整った顔立ちで銀色の目をしており、周りの目を集めている。

 もう片方は平凡そうだが、黒髪に黒い目で肌は焼け、体つきもそこそこ逞しい。


「母親を困らせちゃいけないわよ、ミツキ」

「分かってるって。あーあ、報われないなー」


 そして横で何本目かのワインを開けている女性は、薄い茶色の髪に眼鏡を掛けた美女。

 ――上からミツキ・ヤシロ、ミツヨシ・ウジハラ、そしてその妻カリーナである。


「ま、飲もうぜ。何回目の失恋記念だ?」

「うるっさいな!」


 カリーナはある意味、ミツキが母親以外で唯一気を許す女性だ。ミツキは母親以外の女性をとことん拒絶する性質なのである。女嫌いと言ってもいい。

 しかしカリーナは竹を割ったような性格で、また既婚であるし、なんだかんだで夫に対して一途である。慣れるまで時間は掛かったが、彼女には普通に接する事が出来た。


 ミツヨシとカリーナがミツキに出会ったのはもうずっと昔の事である。

 ――ミツキが最初に両親を喪った頃の事だ。

 ふらふらと彷徨い続け、行き倒れた所をミツヨシとカリーナに拾われた。


「まあまあ、飲みなさいよ。飲むのが1番よ」

「自分が飲みたいだけのくせに……」

「何が悪いってのよ。ほら、あたしだけ飲むのも悪いでしょうが」


 カリーナはジョッキをミツキの前にどんと置いた。ミツキは溜息を吐き、一気に呷る。

 始めこそ、ミツキの父にトラウマ気味なミツヨシには怖がられたが、カリーナがこうして2人に酒を飲ませまくったり、話を聞いたりと世話を焼いてくれた。

 以来、互いに寿命の無いような身であるため、友人としての付き合いがある。


 両親が生まれ変わるたびに、傷心のミツキを慰めるために3人で酒を飲む。

 そんな付き合いが長く続いていた。


「つーか今度は美奈の方の記憶があるんだよな。どうだった?」

「相変わらず! もー、何で父さんから逃げないんだか……」

「女心ってのはあんたらには理解できないわよ」


 ぴしゃりと言い放つカリーナに、男2人は肩を落とした。








何故か仲良くなった人たち

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