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皇帝とその妃、若かりし頃

性描写・暴力描写にご注意ください。


皇帝と皇妃の過去話。いつもの如くヤンデレです!








 ディオとベラ――ベラニーラが出会ったのは、学生時代のことである。


 同腹妾腹の数多い兄弟たちの中でも群を抜いて優秀であったディオだが、その性格から問題視もされていた。


 何かさせれば数秒で逃げ出し、神出鬼没で居場所も掴めない。

 気さくだといえば聞こえはいいが、まともな皇族としての話し方もなっていない。

 専ら仕事や勉強よりも遊びを好み、更には女性を弄んでは捨てる。

 かといって何でも“できない”訳ではなく、やれば何でも出来てしまう。

 とにかく皇帝たりえる威厳というものが全く無い。カリスマ性はあるといえばあるのだが、それを発揮しようとする事も無い。

 

 学校では「サボれるから」という理由で魔法科に属している。

 授業は最低限しか出ず、大抵は自分の研究室で寝ているか女を連れ込むか、あるいは親友(だと勝手に認定した相手)に絡んでいるかだ。


「エーノーンー、遊ぼうぜー、暇だ暇」

「邪魔です」


 エノン・レーヴィンは法学科に所属する、公爵家の次男だ。身分としても友人づきあいには問題が無く、また自分に対して媚を売らないため気に入っていた。

 大抵は図書室の定位置で本とノートを広げているエノンの向かいに座り、適当にエノンの脇に積んである本を取って読んでは「使うので」と奪い取られ、紙を貰って折って芸術作品に仕上げてみたりと暇を潰す。


 何をしても、物足りない。


 ずっと昔から持っている、飢餓感。それを誤魔化すように、ただ娯楽だけを飲み込んで、惰性で過ごしているかのような毎日だった。



 そんなある日の事だ。


 何時も通りにエノンにちょっかいをかけ、昼寝でもするかと机の上に腕を組んだ時だ。


「エノン、ちょっといいか?」


 澄んだ響きとは裏腹な、やや雑な口調の声が聞こえた。

 くい、と顔を上げる。

 そこには胡桃色の長い髪に、気の強そうな紫色の瞳の少女が立っていた。


「……何だ?」

「税金関係で聞きたいんだけど。暇じゃないならいい」


 珍しいこともあるな、とディオは軽く目を見開く。

 エノンは兎に角勉強ばかりしていて、男女共に知り合いが少ない。

 容姿は悪くないし、勉強以外では意外にも融通が利くのだが、やはり勉強ばかりのイメージが先行して人が寄り付かないのだろう。


「なあ」


 声を上げると、ようやく少女はディオに気づいたようだった。

 紫の瞳と、ディオの赤い瞳。その視線がぴたりと合うと同時に、何か――


(……何だ?)


 強く、胸を打つ何か。ぞくりと背筋に走る甘いもの。

 そのときはまだ、それが何なのか分からなかった。


「俺が教えてやるよ。エノンは勉強中だしな」


 そして気づいたら、そう口に出していた。



 彼女――ベラニーラ・アーミルは商工学科に所属する、14歳。つまりディオと同い年だ。

 宿屋の娘であり、将来は家業を継ぐ予定で勉強しているそうだ。


「ふーん、あんたがあの放蕩皇子なんだ」

「そうそう……まあ面と向かって言われるのは初めてだけど。度胸あるな」

「それくらいで怒る? あ、そうだ。酒税ってさ」


 平民でありながら、貴族の娘たちよりも遠慮がなく、媚びる様子もない。

 柄は悪いが、学業に関しては真面目で努力家。あまり要領は良くないが、堅実に積み重ねている事を示すような付箋だらけのノート。


「ありがとよ。頭いいんじゃねーか、何で遊んでんの?」

「何でも出来るからつまんねーの」

「そう? なら、また教えてくれ」


 屈託の無い笑顔。

 ――それがあまりにも新鮮である事に気づく。

 誰も、自分に対してそんな笑顔を浮かべたことは無かった。

 普通なら、多かれ少なかれ打算を含んでいるものだ。


 ちなみにエノンの笑顔は見たことが無い。


「いいよ」


 何故か、心が躍る。偽物の笑いを浮かようとする努力は必要無く、ただ、心から微笑んでディオはそう答えた。




 それからディオは、ベラニーラ……ベラに勉強を教える事が多くなった。

 図書室で、自習室で、あるいはどちらかの部屋で。

 ふたりきりになる事も多く、男女の関係となったのもごく自然な流れだった。

 ディオは言わずと知れた遊び人だし、ベラもまたそれなりに遊んでいる。

 だから双方、いつもの事だと思っていたし、ディオは他に何人か彼女が居て、ベラも一応キープしている男は居た。

 いつもの割り切れるような関係だと思っていたのだ。


 けれど。


「ディオ」


 図書室に行くと、エノンが迷惑そうな顔で声を掛けてきた。彼から声を掛けてくるのは珍しいな、と意外に思う。


「お前最近、他の女に会っていないだろう。こっちに文句が来るから別れるかどうにかしろ」

「……あ」


 そこで初めて気づいた。

 最近、他の女と全く会っていない事に。



 1人の女に溺れるなど、今までにないことだ。

 ベラの胡桃色の髪を撫でつけながら、首を傾げる。


「なあ」

「何だ?」

「……他の女、全部フったって?」

「そうだけど」

「いいのか?」


 いいのかと言われれば、分からない。

 しかし大多数の女が居なくなっても、全く惜しいとは思わなかった。


「いいだろ、別に。どうせ最近会ってなかったし」

「ふーん……」


 ベラと共に居ると、物足りないとも思わなくなった。飢餓感が充足感で覆い隠される。

 恐ろしいことに、キスひとつしなくても横に居るだけでそう思えてしまう。


「ディオ」


 ベラは紫の瞳で見上げて、甘さというものに欠如した口調で言う。


「溺れるなよ。どうせ別れなきゃいけないんだ」

「……何で?」


「あたしは平民で、あんたが皇族だからだよ」


 分かったか、という言葉に答えることは出来なかった。




 中庭のベンチに座って、ぼんやりと目を閉じる。

 ちらつくのはベラの笑顔と、柔らかな髪と、紫の瞳と、所々薔薇色に染まる白い肌と。


「病気か」


 想像するだけで心臓が跳ねる。

 とりあえずそう結論付けて顔を上げると、遠くに彼女らしき胡桃色の髪が目に入った。


 あ、と呟く。


 立ち上がって駆け寄ろうとした事に、違和感すら持たなかった。

 ――しかし。


「ベラニーラ」


 茶髪の男が彼女に話しかけたのを見て、思わず足を止めた。


「何だよ。抱かせろっつーんならお断りだ」

「そういう事じゃない。あの件、考えてくれたか?」


 ごくり、と唾を飲み込む。目の奥がずきずきと痛むような感覚がする。

 手にちくりと痛みが走り、握り締めていた事に気づいた。


「卒業してから、お前の妾になれって話か? あたしは――」


 それ以上、耳に入れたくなくなかった。

 ただ彼女に背を向けて、気づかれないように逃げ出した。



「お前、どうしたんだ」


 数日後、久しぶりに見たエノンがそう言った。

 何故か気の毒そうな顔をしている。


「クマが出来てるぞ」

「……そりゃお前だろ」

「お互い様だ」


 そういえば数日も寝ていない。

 一体自分がどうしてしまったのかと思いながら、図書室の机で腕に頭を乗せ、ディオはぐったりと伏せて眠り始めた。


 夢にまでベラが出てきた。


 重症だ、と目が覚めてから彼は呟いた。




 商工学科が期末考査でベラにはあまり会えない。

 そう言い訳をしながら、あの時彼女と話していた男について調べた。


 どうやら男爵家の長男で、卒業と同時に跡を継ぐことになっているらしい。


「妾……か」


 呟きながら、眉を顰めて床を蹴りつける。

 どうしようもなく、腹が立って仕方が無かった。


 数日間の期末考査が終わると、ベラが研究室に来た。

 ノックの音が響くのを聞いて、ぱっと顔を上げる。


 そしてドアを開けて、何故か頭からびしょ濡れになっている彼女を見て首をかしげた。


「なんか拭く物あるか」

「あるけど……どうした?」

「気にすんな」


 タオルを貸し、ついでに魔法で乾かすのを手伝う。

 ベラは黙り込み、ただ唇を噛み締めていた。



 図書室に行くと、やはりエノンが勉強している。

 その向かいに座ると、今度は少し怒ったような顔をしている。

 珍しいと思う前に、その言葉に思考が停止した。


「ベラニーラが嫌がらせを受けていると聞いた。お前、女の始末はちゃんとしろ」

「……は?」

「水を掛けられたと――おい、室内で走るな」


 気づけば駆け出していた。

 ぐちゃぐちゃの思考のまま、ただ、彼女のもとに。

 

 

 混乱しながらも、彼は緻密で正確な魔力操作でベラの居る場所を探し当てた。

 明らかに、普通なら近寄らないような校舎の裏側。

 それが意味するものなど、1つしかない。


 ディオは唇を噛み締め、その方向を睨みつけながら駆ける。


「ベラ!」


 辿り付くと、そこには蹲っているベラが居た。はじかれたようにディオを見て、唇を噛む。

 駆け寄って、その体を抱き締めようとする。

 しかし――彼女は黙ってディオを押しのけようとするかのように、腕を突き出した。


「別れよう」


 ディオは目を見開く。

 ベラはただ、真っ直ぐにその目を見ながらも、その腕から逃れようとするかのように立ち上がる。スカートを払い、手を握り締めて。


「お前には、もっと相応しい奴がいる。分かってるだろ――ディオ?」


 首を傾げる彼女の前で、ディオは。

 ――収束する感情。そこにはもう以前のような生ぬるさもなく、


「おい……?」


 彼は口元を歪めて、ただ、感情に身を任せた。




 目が覚めると、ベラは両手足に嵌った枷に眉を顰めた。

 囚人に使うような無骨なものではないが、ぴったりと巻きついている革のリストバンドから伸びた鎖は到底切れそうにない。

 体を動かそうとして、ずき、と足腰に鈍痛が走るのを感じた。


(……いや、どんだけヤったんだよ、筋肉痛って)


 肉体関係はもう今更だが、ディオはさして性欲が強い方でもないらしく、暫くいちゃつけば満足できるようだったというのに。

 元々ベラは女子にしては体力もある。それが筋肉痛になる程といえば、相当のものだ。


(何なんだ……)


 遊び人のディオは、あまり人に好きだとか愛しているといった事は言わないと有名だ。それが、記憶にある先程までの彼は。

 また、痕を付けると見せびらかすような女がいるため、キスマークも絶対に付けなかった筈だ。ベラと付き合ってからも、それは変わらなかった筈だったのに。


 視線を送ると、一糸纏わぬ肢体の所々には花びらのような赤い印が咲き乱れ、耳にはまだ、腰に響くような囁きが残っている。愛していると、何度も何度も言われた。


 更に、流石に体は拭き取られて綺麗になっているようだが、記憶にある限り避妊すらされていない気がする。

 避妊の方法は主に薬で、そのあたりはしっかりしていた筈だというのに。飲んでから1時間効果が続くいつもの薬を、飲んでいた様子は無かった。


 しかも昼下がりだった筈が、窓を見る限りもう夜中らしい。


「起きたか?」


 暫く頭を悩ませていると、ドアが開いてディオが現れた。

 何故か一仕事終えたような爽やかな笑顔を浮かべている。


「何のつもりだよ」

「ん? ああ、ちゃんと薬は飲ませたから大丈夫だ。妊娠はしないさ」

「は? ……じゃなくて、これだよ。手と足」

「そりゃ、逃げないようにだろ」


 意味が分からない。

 睨みつけるが、ディオは全く意に介さずに楽しげな笑みを浮かべてベッドに腰掛け、ベラの白い腹を撫でる。


「子供はまだいらないな」

「……何、言ってんだよ! 別れるって――」


「別れねーよ」


 優しげに動いていた手が、すうっと首に伸びる。

 浮かぶ笑顔とは裏腹に、混沌を湛えたような瞳に射抜かれる。

 締め付ける手にゆっくりと力を入れながら、ディオは額に軽い口付けを落とした。


「な、にすんっ……だよ、お前」

「泣いても喚いても嫌がっても、別れねーし離さない」

「は……!?」


 段々と苦しみに歪んでいく顔を、熱を孕んだ目で見る。


「別れるのは、俺かベラが死ぬ時だけだ。……誰にもやらない。妾になんかさせないし、ベラを苛めていいのは俺だけ」

「っ……!」

「そういう顔だって、人には見せたくない」


 手を離したかと思うと、今度は唇を重ね合わせる。

 枷のついた手と手を繋ぎ、指を絡めながら口付けを深めていく。

 音を立てて幾度も唇を吸い上げ、舌を絡め、零れる唾液を舐め取る。

 暫くして離れると、ベラは情欲の色をちらつかせながらも気丈に睨みつけた。


「……ああ、そうだ」


 ベラの体を愛しげに撫でながら、思い出したように彼は言う。


「あの男爵家の奴と、嫌がらせをした女子、明日には退学処分だよ。俺がやったんだけどな」


 そして顔を引き攣らせたベラに、再び濃厚なキスを落とした。




 そしてこれがただの前哨戦でしかないことを、ベラは在学中、そしてその後も思い知る事になる。

 四六時中とにかく纏わり付かれ、僅かにでも他の男に笑顔を見せれば数々の“お仕置き”という名の法的にギリギリな行為ばかりされ、家のことがあるからと言えば病気で寝たきりだった弟を治療して問題を消し、平民だからと言えば皇子の身で駆け回って平民と貴族間の差を無くし。


 そんな事もあり、平民の地位を向上させた彼は民衆の人気を得て皇帝となる。

 逆に貴族の反感を買い、この国には滅多にない反乱を起こされたりもしたが――


「俺、早く帰ってベラを可愛がるんだ……つー訳で行ってくる!」

「ちょっ陛下! 待っ――陛下あああああ!」


 ――と前線で暴れまわって鎮圧したので、むしろ彼の名声を高める事になった。


 彼の息子とエノンの娘が学校に通うようになると、古参の教師達は「陛下が帰ってきたようだ」と懐かしんだという。









息 子 よ り マ シ(酷い)

ベタですねーベタベタですね。遊び人が本気になると怖いよ!



あとポッキー話も追加すれば全て放出した事になります。

また思い出したように更新する事もあるかもしれませんが、その時はどうぞよろしくお願いします。

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