ふたりの15年
暴力描写などに注意。殴る蹴るは無いですが。
できればこちらを先にお読みください。
http://ncode.syosetu.com/n3147y/ -本編
http://ncode.syosetu.com/n3599y/ -後日談
●0歳
「ほーら、光ちゃん。お隣の美奈ちゃんよー、幼馴染よ」
「あら、しがみ付いた。恋に落ちたのかしら」
「あら、あらあら? 離さないわねぇ。本当に恋かしら」
「将来結婚させたら面白いんじゃない?」
「俺らの嫁が勝手に子供の将来を決めてるんだけど」
「うちの美奈はやらん」
●1歳
「みなー」
「あぅ?」
「最初の言葉が“美奈”って筋金入りよね」
「地味にショックだわ」
●2歳
「美奈、愛してる」
「あいしてゆ?」
「発音が淀みないわね」
「あの子アニメより昼ドラとか映画よく見るんだもの」
「ああ、美奈ちゃんが輝いて見えるわ」
●3歳
「ほら、言ってみて。愛してる」
「あーしてる」
「あ・い・し・て・る」
「あいしてりゅ」
「美奈ちゃんほんと天使みたい」
「違うわ、あなたの子が悪魔みたいなのよ」
●4歳
「美奈、大人になったら結婚しよう」
「結婚ってなに?」
「一緒になるんだよ」
「……?」
「どうしましょう。ありがちな光景なのに」
「何故か穿った目で見ちゃうわね」
「ええ……」
●5歳
「あのねー、今日、ケンくんにお菓子もらった」
「うん。捨ててね」
「? なんで?」
「汚いから」
「ちょっ、怖っ! 息子が怖いわ!」
「どうしてああなったのかしらねー」
●6歳
「別のクラスだとフォローしにくいね。休み時間は行くから」
「うん?」
「6歳にして横文字使い出したわよ……どうなのかしら、あれ」
「頭いいのね。最近は何見せてるのよ」
「ずっとBSで自然とか科学の番組見たり、ニュース見たり、あとプロジェクトXかしら」
「……すごい子供ね」
●7歳
「光輝、優勝おめでとう。すごいねー」
「そんなのどうでもいいよ。それより美奈、銅賞おめでとう」
「うん……?」
「自分の優勝より美奈の銅賞の方が価値が上なのね……」
「流石だわ」
●8歳
「……美奈、美奈、美奈」
「ひいいっ」
「喧嘩……では、ないわね」
「まあいいんじゃないかしら。好きにさせておきましょう」
「……まあ、そうよね。あーあーうちの子怖い」
●9歳
「ねえ……どうして、他の男の子と、喋ったりするのかな」
「だっ、だって、無視とか駄目だし……」
「そんなことないよ」
「無くないっていうか、光輝も女子を無視するの、やめてあげてよ」
「最近、美奈ちゃんを尊敬するわ」
「よくあれで拒めるものよね……」
「そのうち既成事実握りそうね。今から謝っておくわ、ごめん」
「いいえ、いいのよ」
●10歳
「ただいま」
何とも言えない顔で帰ってきた美奈を、母親は首をかしげて出迎えた。
「あら、お帰りなさい」
小学五年生になる彼女は、隣の家の光輝に溺愛されながらも健気に頑張る、そこそこ真面目でしたたかないい娘だ。
美奈は生返事を返して2階の自室に駆け上がっていく。
彼女が右手を庇っているのに気づくと、あら、と呟く。
「光輝くんが見張ってるから、怪我する筈は無いんだけど」
まさかその光輝にやられたとは露知らず、彼女は手当て手当てと呟きながら救急箱を探しに行った。
――美奈の右手首には、握り締められたような痣があった。
誰にされたのか聞いたが、頑なに口を噤むばかり。
「……お父さんには言わないでね」
「わかったわ」
何か事情があるのだろう。過保護な父に言えば制裁しに行きかねないので、母親は素直に頷いた。
翌日、彼女は隣家の光輝に偶然会った。
「こんにちは、おばさん」
「あら、光輝くん、こんにちは。……そういえばうちの美奈、右手に怪我してたみたいなんだけど、何か知らない?」
「右手に? ……ああ、少しクラスの男子と、恋愛沙汰で揉めたようで。大丈夫です、解決しました。守れなくてすいません」
「あら、いいのよ。あの子もそんな年頃なのねえ」
完璧な笑顔を浮かべる光輝から、真意を読み取ることなど出来なかった。
真相はと言うと、確かに嘘は吐いていないのだが、やったのは光輝だ。
美奈が告白され、その後のことだ。
左肩にも似たような痣が出来ていることだろう。更に、耳にもほんの小さな傷が出来ている筈だ。
――ねえ、美奈、どうして呼び出しに応えたりしたの?
――言ったよね……他の男と喋らないでって。
――それに、他の男の愛の言葉なんか、聞かないでよ。
――可愛い耳を、噛み千切られたくなかったらね。
親に言えよう筈も無い。
10歳にしてしっかり目覚めている光輝に悩まされつつも、逞しく育つ美奈であった。
●11歳
「よかった。同じ委員会だね」
「クラスの人脅してたじゃ……いや、ごめん、ごめん何も言わないから」
●12歳
「ねえ、美奈。これどう思う?」
「ひいいいい凄く手錠ですどこから手に入れたああああ!!」
●13歳
「修学旅行、京都だってね」
「う、うん……」
「班、一緒だね」
「うひい」
「迷子にならないでね。暴れるかも」
「脅すな!」
●14歳
「進学先、何処にした?」
「あ……え、えーと、●●高校……」
「同じだね」
「や、やっぱり××にする」
「うん、同じだね」
「着いてくる気満々!? 大人しく○○受けてよ!」
「何で? 美奈のいない高校生活なんて、2秒で中退だよ」
「親を悲しませるなあああ!!」
●15歳
「……新入生代表、おつかれー」
「うん。ステージから見てたよ、美奈」
「う、うん……すごいガン見だよね……」
「美奈以外なんて見る価値もないから」
「ええー……ねえ、光輝」
戸惑うような目。そんな顔も愛らしいと思いながら、光輝は躊躇のひとつもせずにその頬に手を伸ばした。
「……他に、似合う女の子、いると思う……こ、高校生になったし……その、幼馴染だからって、そんな、」
そして躊躇いがちな言葉に、一瞬光輝の思考は止まった。
いま、なにをいった?
「勘違いしてるだけじゃ、ないかな……ほら、刷り込みって――ッ!!」
美奈の白い首を、光輝は右手でぎゅうと握った。それ以上喋るなとばかりに。苦しさに美奈は涙を浮かべ、血が上ったのか赤い顔でぱくぱくと口を動かす。
ああ、かわいい。
光輝は唇を歪め、甘い声音で、聞き分けの無い子供に言い聞かせるように言う。
「こんなに、愛してるのに。生まれてずっと、ずっと、愛してるのに……美奈は、わかってくれないのかな。俺は、美奈だけだよ」
「っ……は……っう、……くるっ……し、」
ぱ、と手を離す。力が抜けたようで、崩れ落ちる体を光輝が支えて、ソファにそっと寝かす。
苦しげに咳き込み、上下する胸をじいっと見つめる光輝の目は、熱い。
「美奈」
美奈ははっと顔を上げて、光輝が持っているものを見て顔を青くした。
「ひっ、ちょ、そ、それはっ」
「刻んで、あげるよ。信じられないなら、体に。ねえ、美奈」
君のせいだよ、と呟いて。
翌日美奈は、右腕の内側に文字通り刻まれたハートマークを押さえ、じくじくと痛むそれに涙目で包帯を巻きなおしたのであった。
→生存ルート
→死亡ルート