【超短編小説】黒豚
空は突き抜けるように青く、柔らかい風がおれを揶揄う。
筵の下で白い石が鳴いておれの耳を楽しませるがそれは悪夢だとわかっている。
ボンテージベルトを身につけた女たちは無表情で、おれは彼女たちに欲望を感じない事で自身の存在すら危うい気持ちになった。
板の間にある無惨絵の襖が開く。
おれたちは頭を下げる。
衣擦れの音は女のか細い喘ぎ声のようで妙な湿度を感じた。
「面をあげよ」
掛けられた声にゆっくりと頭を上げる。
壇場には紋付上下を着た男が目を見開いておれたちを睨め付けていた。
口を開くことは許されず硬い時間だけが転がっていく。
遠くで鳥の鳴き声が聴こえた後に銃声がそれを追いかける。
弛緩しかけた緊張が再び麻縄のように神経に食い込み、壇場の紋付男が白洲に座ったおれたちに向かって茶色い紙袋投げつけた。
「開けよ」
紋付男の命に従っておれたちが紙袋を開けると、入っていたのは肉だった。
豚肉か牛肉か、それとも人肉か?
何にせよ肉は火が通り過ぎで黒く硬かった。
「食べよ」
おれたちは一斉に肉を貪る。
粗塩まみれになった肉は味のしない布みたいで、飲み込める程度の柔らかさになるまで数回噛んでから唾液と共に喉の奥へと押しやった。
白洲に咀嚼音だけが響き、時折りむせ返る咳がそのリズムを乱した。
全員が肉を食べ終わったとみるや紋付男が立ち上がり上衣を脱ぎながら怒鳴った。
「俺の腹がその肉のように黒いと言うのか」
おれたちは黙っていた。
紋付男は気の触れた犬のような声で吠えながら割り箸で腹を割いて胃腸炎を取り出すと
「どうだ、黒いか」
と叫んで死んだ。
おれたちはその黒い胃腸炎の揺らめきを見ながら黒ずんで行く太陽を感じた。
ボンテージベルトの女たちは巨大化すると、全てをその膣に吸い込み世界は補完された。




