表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

第一話


 ()()において平凡でとりとめのない平凡な人間であった男は、転生を果たしたことを悟った。正確には転生ではないとか、それは転移の類だとか、細かい話はこの際置いておく。


 これといった突出する才のない、強いて言えば保身において多少の知恵が回る程度の人間。それが彼の自己評価であった。

 改めて周りを見回すと、広い和室に多くの人間がいた、彼らは皆一様に和服を隙なく着こなしている。和室全体には重い泥のような緊張感が漂い、思わず冷汗が頬を伝った。


「このままでは我が鳴上家の破滅だ」


 老獪さを滲ませた老人が口を開いた。

 重苦しい空気が伝播する。


「まさか()()が復活するというのか!何かの間違いではないのか?」


「議論は疾うに済んでおるぞ!」


「まさか、信じられない」


「このままでは我が家だけでなく、日本国の危機だ!」


 そっちのけで口論をかわす老人たちに、頭の整理が追いつかない。


 ――いったい何が起きているんだ……?


 ()()()()()()この有様だ。こちとら自分の名前さえわからないのに。ここで「あのう、これってなんのあつまりですか?ははは」などと声を出せばそこかしこから視線が集まり、お前は頭が沸いているのか? などと言われてしまうかもしれない。

 そんなこと、想像しただけでも()()()()

 こちとらただの小市民だ、視線が集まるだけでも十分に恐ろしいというもの。存在感を消し、固唾をのんで見守っていると、ふと視線を感じる。


 冷汗をだらだらとかきながら顔を上げると、先ほどまで怒号の飛んでいた室内はしんと静まり返っていた。


 ――集まる視線。


 空気が泥のように重苦しく両肩に圧し掛かる。心臓が早鐘のごとく鳴り響き、胸と胃に鈍痛が奔る。


()()


 どこか、縋るような言葉。


 方々でこちらを呼ぶ声が上がる。


 ――まさか、やめてくれ。


 暗然とした胸中に反して皆がこちらを――自分を見ていた。


「このままでは我が鳴上家、ひいては日本国の危機です。当主様が不在の今、あなた様にご決断いただきたく」


 緊張感がえげつない。

 若様とは自分のことか、いかにも偉そうな立場をさす二人称に戦慄が奔る。

 ごくりと唾を飲み込む。喉が痙攣を起こしたかのようにうまく機能しない。周りを見回す、ゆっくりと時間をかけながら。

 ほんの少しの時間稼ぎのつもりのそれ。しかしこの部屋に集まった人々はそうは思わなかった。

 皆目をしっかりと合わせると重々しく頷く。「わかっています」。「信じています」。そんな声が聞こえた気がした。


 ――違う、そうじゃない。


 胃は絶えず鈍痛を発し、冷汗は滝の如く頬を伝う。


 ――頼むから誰か、この状況を説明してくれ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ