第8話 下界実習前1 獲物《にんげん》選び
浮雲小学校の全児童は、一年生の時から、下界実習を楽しみにしている。
なぜなら、六年生が自慢するからだ。
「下界には、ペンギンがいるんだぜ。奴ら、鳥のくせに飛べねーで、泳ぐだけ。おまえら、見たことねーだろ?」
「私は、リムジンに乗ったのよ。え?リムジンが何かですって?ふう、これだから、お子ちゃまは困るわ。全くの無知ですもの」
「あたしなんか、もっと凄いわよ。海外旅行に付いてって、ラスベガスでカジノを体験したんだから。は?ラスベガスが、どこか?そんな事も知らないの?情けない!下界の世界地図を広げなさいよ。何?持ってない?五年生なのに?」
こんな風に、下界実習を終えたばかりの六年生たちは、必ず得意げに自慢する。
それを、下級生たちは、黙って聞くしかない。
「ちぇっ、今に見てろよ。俺なんか、もっと凄いの見つけてやるからな」
高瀬川 世眠が、そう息巻いたのは、一年前だ。
そして、本日、四月十一日こそが、待ちに待った『獲物決定』。
ステイ先選びである。
「ついに来たぜ!俺たちの時代が!」
登校早々、教室の真ん中で、世眠は叫んだ。
他の子供たちも、一時間目が始まると、そわそわし出した。
そして、昼休みになるまで、ずっと浮足立っていた。
お弁当箱が空になる頃、賑わいはピークに達した。
東校舎三階の各教室から、うるさいくらい活気に満ちた話し声が廊下に漏れ出した。
「私、水族館に行ってみたーい!」
「あたし、動物園!」
「わい、たこ焼き食うてみたいわァ。あれ、タコ入ってるんやて」
六年三組の教室も、普段の十倍、賑やかだった。
いよいよ、五時間目のチャイムが鳴った。
普段は、五香松先生に叱られるまで座らない児童たちが、今日はハヤテのごとく席についた。
「毎回、そうして貰いたいものね。では、起立、礼!」
「よろしくお願いします!」
みなぎる大声が教室に響き渡った。
そして、各班に、二つの水桶が配られた。
獲物を映す水鏡、名は日照鏡。
「これは、下界の太陽エネルギーを活用しています。水に触れないよう注意してください」
先生の忠告が、聞こえたかどうか。実に怪しい。
子供たちは、すっかり日照鏡に夢中である。
「カッコは、どれにする?」
下鴨 三宝と同じ班のメンバーは、五香松 覚子と、塞翁 水南、塞翁 水芹、石蕗 西助の五人だ。
水南と水芹、西助は、紫色の水が入った日照鏡を使った。
黄金水の方を三宝が先に選んだからだ。よって、班は二手に分かれた。
「どれにしようかな~。迷うね~」
三宝は、熱心に、鏡を覗き込んでいる。一方、覚子は沈んでいた。
未だに、ついていけないからだ。人間イコール獲物の思考になじめない。
しかし、獲物選びは開始されたのだ。皆の笑顔と、興奮と共に。




