6.下界実習前 2 前代未聞の型破りな獲物選び
「きーめた!私、これにする!」
三宝が、背のすらりとした男性を指差した。
見ると、なかなかのハンサムだ。どことなくマツジュンに似ている。
「やっぱり、獲物は顔が決め手ね」
満足そうに頷くと、親友を見つめた。
「かっこいいでしょ?」
「男の人だよ?それに、二十歳過ぎてると思う」
「キリッとした表情が素敵」
「先生、三歳から十三歳までの獲物を選びなさいって言ったよ?教科書にも、ほら、ここ!」
覚子は、【正しい獲物の選び方】と書かれた箇所を、三宝の顔の前に広げて見せた。
『 人間の子供を、大きな獲物と呼びます。
大きな獲物には、皆さんに役立つ純真無垢な記憶が、たくさん詰まっているからです。
その一方で、大人は、小さき獲物です。
酷く汚れた、汚染された頭脳から、微々たる純粋な記憶を盗み出すには、熟練の技が必要です。
フレッシュな記憶を盗みましょう。
保持できる記憶のバリエーションも豊富になります。
三歳から十三歳までの獲物を選びましょう。
中には意地の悪い獲物もいますので、日照鏡で、しっかり見極めて決めましょう。』
しかし、この注意書きは、三宝の心を少しも動かさなかった。
「私の決意は変わらない」
目を輝かせる親友を見て、覚子は肩を落とした。
「三宝ちゃん………」
「あたし、こっちがいい!」
もう一つの水桶を覗き込んでいた塞翁 水南が、声を上げた。
水鏡に映っているのは、四歳くらいの女の子だ。
「わい、こっちゃにすんで!」
水南の横にいた西助が、十歳くらいの女子を指差した。
「じゃあ、私、そっちにする」
妹の水芹も決まった。
「カッコ、決まった?」
覚子は、誰でも良かった。
「この子」
ちょうどその時、水面下に映った人物を選んだ。
「へー………」
三宝は首を傾げて、ありのままを口にした。
「獲物選びのセンスないね。どう見たって、内気な子。つまんないよ?休みの日も、家で読書してそう。下界を見て回れないよ?実習中は、獲物と行動するんだから。家にいる子より、外で遊ぶ子の方が、断然おもしろいよ」
「でも、ちゃんと子供だから!」
この点は、強調したかった。
この日、大人を選んだ児童が、三宝の他に十人もいた。
前代未聞の型破りな獲物選び【ステイ先選び】を即断した児童たちは、教頭先生から雷を落とされた。
しかし、六年一組の担任、男雛先生の執り成しと、三宝の非常に優れた嘆願書が校長先生の心に響いたようで、規格外の『獲物決定』が許可されたのだ。