第6話 世眠のライバル と 教室でプロポーズ
トイは、覚子が、九十九番地にやって来た一カ月後に、やって来た。
そして、転校初日、教室は、色めき立った。
顔が小さく二重瞼で、整った鼻は、高過ぎず低過ぎず、爽やかな印象を与えた。
小柄だが、悔しい事に、誰がどう見ても、見誤ることなく美男子なのだ。
「わあっカッコイイ!!」
女子が、口々に、きゃあきゃあ騒ぎ立てたので、男子は、面白くなかった。
特に、世眠は、気に食わなかった。
覚子の隣の席になったからだ。
トイは、生前、妖怪だった。
理由は分からないが、未練が残ったせいで浮雲に迷い込み、九十九番地に辿り着いたらしい。
元が妖怪なので、そう心配もいらないだろうという事で、子供のいない夫婦の養子になって、九十九番地で暮らし始めた。
元々《もともと》が妖怪だから、クラスの皆は、気兼ねなく話し掛けたが、トイは、いつも素っ気なかった。
どれだけ誘っても、クラスの輪に入ろうとしないので、話し掛ける男子はいなくなったが、女子に対しては、驚くほど紳士的だった。
トイの方から親しく話し掛けるわけではないが、重そうな荷物を抱える女子を見つけたら、「僕が持つよ」と言って荷物持ちを代わった。
体操服を忘れた、先生に叱られると言って嘆く女子に、「僕のを使ってよ、洗濯してあるから綺麗だよ」そう言って、自分が先生に怒られた。
こういう具合なので、女子には、モテまくった。
素っ気ない態度も、女子に言わせれば、ツンデレらしい。
この単語は、三宝が広めた下界ワードの一つだった。
ますます面白くない世眠は、トイに決闘を挑むわけでもなく、覚子に、ちょっかいをかけた。
世眠は、昼休み、自主的に飛行練習をしていた覚子を見つけて、校庭のド真ん中で叫んだ。
「おーい、パンツ丸見えだぞー!」
見えてもいないのに、気を引きたいが為の大嘘だった。
校庭で遊んでいた男子は、それを聞いて爆笑した。
女子は、「世眠くんのスケベ!」「ヘンタイ!」と怒った。
覚子は、顔を真っ赤にして着地すると、泣きながら保健室に逃げ込んだのである。
そんな事があって、世眠は、すっかり嫌われた。
逆に、トイが、覚子の信頼を得て、友達になった。
更に、三宝まで、覚子の親友の座をゲットした。
覚子に、『カッコ』と、あだ名を付けたのは、本当は、世眠が最初だった。
世眠に言わせれば、三宝は、それをパクったのだ。
付けた本人は呼べず、パクった方が呼べるとは、どういう事か、世眠は心底悔しかったが、胸の内は、次郎にも明かさなかった。
そして、三宝が、覚子と打ち解けた翌朝、世眠は、ありったけの勇気を搔き集めて賭けに出たのだ。
お昼休み、三宝と覚子と、トイは、仲良く机をくっ付けてお弁当を食べていた。
そこへ世眠は、割って入ったのだ。
それも、とんでもない切り出し方だった。
世眠は、覚子を見据えて、心を込めて言った。
「好きだ」
突然の告白に、三人は呆気に取られたが、すぐに、トイが鋭い眼差しを世眠に向けて、覚子を庇った。
「じゃあ、どうして、カッコに意地悪したの?」
聞かれて、世眠は、真っ赤になったが、昨晩一生懸命考えた台詞を、一思いに叫んだ。
「カッコが、初恋だからに決まってるだろ!!嫁に貰いてえくらい、本気で好きなんだよ!!」
再び三人は、ポッカーンっとした。
告白した日にプロポーズする小学生が、どこにいるのか、ここにいる。
トイが、やれやれという風に肩をすくめた。
「好きな子に意地悪しちゃうって、稚拙すぎるよ」
指摘されて、世眠は、全身が真っ赤になった。耳も首も、茹で蛸だ。
「う、うるせーよ!可愛すぎて緊張するんだよ!」
世眠の大声を聞きながら、覚子も、顔が真っ赤になった。
(え、世眠くんて、私のこと、好きだったの?え、いつから?よ、お嫁さんって、私、プロポーズされたの?)
まるで、覚子の心の声に答えるかのように、世眠が、トイに突っ掛かった。
「悪いか!?一目ぼれなんだよ!!浮雲に来た時、めちゃくちゃ、可愛かったんだぞ!!」
(ええええーーー!!)
覚子が、色んな意味で、びっくり仰天していると、トイが、冷めた目をして言った。
「それなら、泣かせちゃ駄目でしょ?ああ、もう、ほんと仕方ないな。ちゃんと、カッコに謝って、仲直りしてから、改めて告白しなよ。こんな皆がいる所で可愛い可愛い言って、カッコまで、真っ赤じゃないか」
クラスの女子は、愉快そうに成り行きを見守っていたが、トイの言葉で、くすくす笑い始めた。
男子は、からかおうとしたが、三宝が銀目を光らせて、白い牙で威嚇したのを見て、ひっと小さく悲鳴を上げると口を閉じた。
覚子が戸惑っていると、世眠が、ぱっと頭を下げた。
「ゴメン!!」
その一言が、覚子の胸には、温かく響いた。
「泣かせてゴメン、今度、焼鳥おごるから許してくれ」
項垂れる世眠を見て、覚子は、思わず笑ってしまった。
「ふふっ、私、結構食べるよ?」
覚子の穏やかな声を聞いて、世眠は、がばっと顔を上げた。
「許してくれるのか!?」
「うん、もう怒ってないよ。でも、世眠くんに恋愛感情はないから、ごめんね」
初めて覚子に微笑みかけられた日、世眠は、失恋した。
女子も男子も、気の毒そうに世眠を見遣った時、ちょうど、キーンコーンカーンコーンと、チャイムが鳴った。
仲直りは上手くいったが、世眠は、しょんぼり肩を落としてた。
そんな幼馴染を見て、三宝は、困った顔をした。
(初恋が実らないって本当なのね。世眠には悪いけど、私は、カッコの味方だから。まあ、諦めるのを頑張って!ファイト!)
一方トイは、少しだけ世眠を見直した。
(告白って相当な勇気がいるよね。結構、根性あるんだな)




