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世眠と三宝の番外編1;月取り大波乱(大幅に改変)

大変なミスをしていました。

二人が、保持妖怪である事を忘れて書いていました。

今頃、気が付きました。すみません。

ストーリーを改変しました。



 世眠と三宝の悪名と、その腕白っぷりは、早くから知れ渡っていた。


 月取り大波乱が起きたのは、下界の中秋の名月と重なった。

 その晩は、浮雲九十九番地に昇る月も、破裂しそうなほど丸く満ちて、黄金の輝きを放っていた。


 催された月の宴に、大人たちは浮かれや騒ぎ、老舗焼鳥の記憶酒も、夜桜の記憶団子も飛ぶように売れた。


 子供連れは多かったが、どの親も我が子を思い出す暇がなかったようだ。

 そんな中で、子供たちは目をしょぼしょぼさせて、欠伸をしたり。椅子に座って眠ってしまった子供も、たくさんいた。

 三宝は、世眠の傍らで、大きな木にもたれて、こっくりこっくり船を漕ぎ始めていた。しかし、三宝は叩き起こされた。


「おい!三宝!おい!起きろ!おい!」


 三度目の「おい!」で、三宝は目を開けたが、すぐに目蓋が落ちそうになった。


「ううう……にゃによぉ」


 叩き起こされた三宝の機嫌は悪く、仏頂面になった。


「あれ見ろ!」


 緑眼を輝かせる世眠の右手が、空へ伸びて、人差し指で満月を示した。


「食おう!」


「にゃに言ってるの?お月さまは、食べられましぇん」


 三宝は、あまりにも眠かったので舌をかんだ。


「おれ、知ってる、食い方!」


その言葉に、三宝は心を動かされた。急に、ぱちっと目が開いた。


「どう取るの?」


世眠は、ぺちゃ鼻の下をこすって、真っ白い歯を見せ、にやっとした。


「来い!」


三宝の右手を取って、宴を抜け出した。

どんちゃん騒ぎの真っ只中、こそこそと抜け出す二人に気付いた者は、いなかった。


大五郎池だいごろういけに行くぞ」


「えっ、今から?遠いよ」


 飛びながら、三宝は、不安になった。


「月を食いたくないのか?すんげえ美味いんだぞ。近所のばあちゃんに教わったんだ。ほら、木の柿のばーちゃんさ」


 自信満々に言う世眠を見て、三宝は信じ始めた。


「それ、本当?」


「ああ。昔、じーちゃんが、ばーちゃんに食わせてくれたって言ってたぞ。月を取ったら、防霊試験管ぼうれいしけんかんに入れるんだ。修福しゅふくコルクで蓋をしたら、氷水に一晩つけて、朝になったら、月のプリンが出来上がってる!すげえだろ?」


 「そうなんだ!それ、私も食べたい!」


 三宝は、すっかり信じてしまった。


「ああ。二人で食べようぜ。行くぜ、三宝!」


 世眠が意気込むと、今度は、三宝も力強く頷いた。


「うん!行こう!」


 二人は、浮雲小学校の真下に広がる出城ヶでじろがおかを目指した。


 丘とは言うが、ものすごーく深い森で、どんなに空高く飛べる保持妖怪でも、そう易々とは抜けられない。

 ちょっとした要塞の役目を果たしていた。

 浮雲小学校の子供たちは、教えられた秘密のルートを通って登校している。


 五歳の世眠と三宝は、まだ入学前であったが、三歳の頃から、この森を遊び場としていたので、易々と抜けられた。


 浮雲小学校の大五郎池だいごろういけは、広さも深さも九十九番地一である。

 三宝が、こわごわ池を覗き込んだ。


「ふかーい」


「まかせろ!おれが取る!」


 勇ましく虫取り網を構えて、飛行した。

 満月は、池の中央に映っていたからだ。


「とおっやああ!」

  

掛け声よく、満月を掬い………上げられるわけがない。


バッシャン、バシャンッ!


 何度も何度も挑戦するうちに、濡れた網が水を含んで、少しずつ重くなり始めた。


「はあ………はあ………はあ………」


静かな夜、息切れだけが辺りに響いた。この時、まだ五歳であった。


「とうっ、ていやっ、そおっれ!」


バッシャン、バシャンッ! バッシャン、バシャンッ!


 重くなった網を、必死に振り回して叫ぶ、世眠の小さな姿を、三宝は、ぼけーっとした表情で見ていたが、そのうち気が付いた。


「ねえ!世眠!きっと子供じゃ取れないんだよ、小さいから!お月さまの方が、大きいから!今日は、もう帰ろうよ!」


 三宝は、岸辺から声を張り上げた。

 しかし、汗だくになって、もうろうとし始めていた世眠には届かなかった。


「ていっやあああ!」


一際大きく声を上げて、網を持ち上げた時、ぐらりと小さな背が揺れた。

そして、夜の校庭に叫び声が響き渡った。


「ていっ!うっ、わああああ!」


ドッボーン!大きな水しぶきが上がったのを見て、三宝は悲鳴を上げた。


「きゃああああ!」


黒い水中へ消えた世眠は、金槌だ。

そして、それは、三宝も同じだった。


 我に返った三宝は、辺りを見渡したが、棒切れ一本落ちていなかった。

 網は、水しぶきで遠くへ流れてしまったし、そもそも使い物にならない。


 三宝は、小学校へ一目散に飛んだ。当直の警備妖怪を呼びに行ったのだ。

 しかし、運が悪いことに、宴に出かけて誰もいなかった。


「世眠!!!」


 三宝は、池に戻って、勢いよく飛び込んだ。

 助けたい!その一心で、何とか水上に顔は出せた。


「ガボッツ」


一生懸命にもがいて探そうとしたが、逆に沈んでいくのだ。


「だっ、ガッボッ、ゴッ」


湖は、凍えるほど冷たかった。

一分も経たずに、三宝の両目は閉じてしまった。


世眠は、池に落ちた瞬間に気を失っていた。

それで、奇跡的に水を飲んでいなかった。


しかし、三宝は……


「かなりの量を飲んでいます。おそらく、後数秒で死んでおりました」


「生き運が、あったのさ。長居は無用だ。さあ、行くよ、姫子」


「はい。おばば様」


妖怪たちは、夜に紛れ、じきに見えなくなった。


そして、その後、五分と経たない内に、大人たちは二人を見つけた。


「ああ、生きてる!生きてます!」


 高瀬川夫人は、我が子を抱きしめ、目が開かぬほど涙した。


「ありがとうございます!ありがとうございます!」


 下鴨夫人は、冷たい娘の頬に涙でぬれた頬を押し付け、何度も何度も繰り返し言った。

 父親たちも、三宝の姉弟たちも、皆が涙を流した晩だった。


 翌日、木の柿のおばあちゃんは、この大騒動を知って両家へお詫びに伺った。

 面白おかしい作り話で楽しませてやろうとしたので、悪気は全くなかったが、まさかこんな事態になるとは思わなかったのだ。

 これを機に、おばあちゃんは、二度と作り話をしなくなった。


 しかし、世眠と三宝は、こんな失敗で懲りる性格ではなかった。

 次々と騒ぎを起こした。

 あまりにも二人が仲良いので、大人たちの間で噂される事があった。


「なあ、三宝、おまえ、おれのよめになるのか?」


「はあ?ぶっとばすわよ?」


「けど、みんな言ってるぞ」


「ばかみたい。言わせときなさいよ」


「じゃあ、ならないんだな?」


「あたりまえ!私は、下界に住んで、かっこいいカレを見つけるの!」


「じゃあ、おれたち兄妹か?そうも言われてるぜ?おれが、兄ちゃんな。おれの方が、誕生日、一日早いぜ」


「世眠は、弟よ。危なっかしいもん。でも、やっぱり弟じゃない。弟みたいだけど、どこか特別だけど………あ、分かった!幼馴染よ!」


「おさななじみ?」


「うん!特別なかよしってこと!」


「それだ!おまえ、おれの特別だからな」


「うん!私も、世眠が特別だよ!」


 もしも、覚子かくこが浮雲に迷い込み、九十九番地に到達しなければ、二人の未来に結婚という道があったのかもしれない。




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