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12. 輝龍《きりゅう》の横やり 《空港 編 4》

空港 編、終了です。





桜に見入る旅客たち、その中で、馬面の大男だけは違った。


「あいつらだ!義姉ねえさん、逃げよう!」


 そう言って後ろを振り向いて、やっと気が付いたのだ。

 周囲を見渡しても、義姉あねの姿が、どこにもない。


義姉ねえさん!!義姉ねえさん!!!義姉ねえさん!!」


 気が狂ったかのように叫び、走り探した。

その時、金髪の刀自とじが、男を呼び止めた。


「同行、願えるかねえ?」


卒然と現れた和服姿の女を見て、男は腰を抜かした。


「なっ、あっ、あんた」


女は、花魁のような派手な頭だった。

着物は、漆黒の生地で、模様は白椿。

袖の部分は、左に金の登り龍。右に赤い桜が散っていた。

銀色の帯には、葵の花が咲いている。金の帯締めで、見る者を、あっと驚かせるような見事なバラの形に結んでいた。


雅な立ち姿は、見惚れるほど。歳は四十そこらに見えるが、当てにはなるまい。


輝龍きりゅう!!」


古来妖怪に属する者で、この大妖怪を知らない奴がいたら、そいつは潜りだ。


「騒がないで貰いたいねえ。それに、その名は、とうに捨てたよ」


 大妖怪の娘、輝龍きりゅうは、人間を味方して、父親との縁を切った。

 有名な話である。


 今は、山鹿やまが霧子きりこと名乗り、奉公屋の仕事をしている。

 依頼を失敗したが為、妖怪に殺された八重やえ夫婦の一件を許せぬ思いが、名を捨てるきっかけとなった。


「私のターゲットですよ、霧子さん!」


百九十センチの背後に、ぶすっとした顔つきで、お冬が立っていた。


「おや、すまないねえ」


お冬が、姉の親友を咎めるような目つきで見つめた。


「私は、姉さんじゃないんですよ。援護はいりません。私の桜吹雪を無断で使って!本当に倒れた飛行機もあるじゃないですか!私は、映像だけで済ますつもりだったんですよ!」


「あれは、無人だったからねえ」


 輝龍きりゅう改め、霧子が足を動かすと、カランコロンと、赤い高下駄の黒い鼻緒に付けた金の鈴が、心地よく鳴った。


「そういう問題じゃありません!私は、皆に幻を見せている間に、こいつらが搭乗する便だけ、実際に欠航にするつもりだったんですよ!それなのに、本物の自衛隊まで呼んで!この後どうするんですか?」


憤る親友の妹に、霧子は微笑んで言った。


「ずらかろうかねえ」


「またそんな無責任なことを!」

 

お冬が眉間に皺を寄せると、霧子が急に真面目な顔つきをして言った。


「お冬、このまま京へ行きなさい」


「行けるわけないでしょう?私の依頼主は、ナナツちゃんですよ!依頼内容は、西助の奪還です」


「京には獲物情報班がいるからねえ。行ってごらん。私は、このまま東にのぼるから、あの元気な坊も、連れてってあげよう。この大男は、砂花すなばなにでも突っ込んでおこう」


 砂花と聞いて、男が悲鳴を上げて飛び上がった。


「ひいいいっ、やっやめてくれ!あそこには行きたくねえ!」


 待合室へ戻ろうとした男を、お冬が桜の花びらで囲った。


「逃げるんじゃないよ!こっちは、気が立ってんだ!」


 男を一喝して、霧子を見据えた。


「勝手ばかり困ります!」


「それじゃあ、出発しようかねえ」


お冬が返事をする前に、お冬と男の体は、別々の風に包まれた。


 輝龍きりゅうの亡き母は、風の長老の娘だった。

 その力を、しっかり受け継いでいる。名を変えた所で、血は変わらない。


「ブレイズ・センセーション!」


透き通った美しい声が木霊すると、光り輝く一陣の旋風と共に、二人は消えていた。


「毎回だよ!私の獲物を横取りする!何度言ったら分かるのかねえ!私は、姉さんとは違うんだ!」


怒り心頭に発して地団駄を踏むお冬の横を、背の高い外国人が通り過ぎて行った。


瞬間移動させられて着いた場所は、清水寺の仁王門の真ん前だった。


そして、グルグル巻きにされた女と、半目覚めの西助も一緒だった。


 観光客が入り乱れる赤い大門の中央から、眼下に見下ろす京の街並み美しく。

 その向こうに広がるなだらかな愛宕山あたごやまは、三人を歓迎して見える。

 爽やかな五月の風が、深緑の青葉を吹き抜け語る。

 この都こそが、下界なのだと――――と、まあ、そんなこんなで、お冬の帰宅は、大いに遅れた。その間に、夜桜は、大惨事となっていた。


 

京都のくだりは、京都にいた頃、実際に行って書いた話なので、多分あってると思うのですが。

間違ってたら、すみません。


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