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1・美味しい食べ方


二十年前に書いた話です。

モーニングだったと思うのですが、応募して落選したので、ずっと忘れていました。

今回は、『無敵怪盗』→→『お盆の森』→→『浮雲うきぐも九十九番地』の順で思い出しました。

この話を、退職して3年以上経つ親戚の先生に話したら、「面白いから載せてみ」と言われました。

 

うけるかどうかは別として、妖怪ものが好きなので、書く側としては凄く楽しいです。


保持妖怪は、『無敵怪盗』と『お盆の森』にも登場するので、どんな妖怪たちなのか、載せてみるのも悪くないかな~と思いました。


当時のタイトルで載せました。ストーリーの修正もしていません。




 「今日は、『人間の美味しい食べ方』を勉強します。皆さん、予習してきましたか?」


 五香松ごこうまつ先生の問いに、右手が五つ上がった。


 「では、世眠よみんくん」


 名前を呼ばれた児童は、嬉しそうに立ち上がると、


「首をちょん切って、両耳を引き千切ります」


 誇らしげに答えた。


しかし、ほとんどの女子が反対した。


「えー、ちがうよー!」


「何で切るの?後始末は、どうするの?」


「ありえなーい!血がつくー!」


 教室が大騒ぎになる前に、先生は次の子を決めた。


「そうですね、違います。では、三宝さんぼうちゃん」


 あてられた女子は、にこやかに立ち上がって答えた。


「目の玉に、鉄のストローを突き刺すんです。そこから、脳みそを吸い出します」


ブーイングがなかった。


教科書の模範解答より支持されるのは、おもしろ回答だ。


「いいな、それ!なんか、イケてんじゃん。でもよぉ、目ン玉じゃなくて、頭の天辺にぶっさせばよくね?」


三宝の隣の男子が、挙手もせず喋った。


すると、他の子供たちも、めいめい勝手な意見を述べ始めた。


「斧で叩き割れば?一番てっとり早いわ」


「馬鹿ね、後片付けが大変よ。舌を引っこ抜くの」


「わい、一度でええから、足を食うてみたいねん。俊足の奴な。遅いのは、いらんわ」


「あたしは、手がいい。最近の下界は、外人も、うようよいる。国によって味が違うのよ。選び放題ね」


いまや黒板を見ている児童は、一人もいない。いや、一人だけいた。


先生は、溜息を吐きたいのを、ぐっと我慢して制した。


「はいはい、静かにー。静かにしなさーい!どれも不正解です。これ以上喋ると、罰掃除させますよー」


いましめは、てき面だった。


五香松先生の罰掃除は、浮雲小学校で有名だ。


もはや、伝説級の罰ゲームである。



                『保持妖怪とは』



黒板の真ん中を、その六文字が陣取った。


「第一章を開いて」

 

チョークを置いた先生が、ぐるりと教室を見回して、空恐ろしい笑みを投げ掛けた。


「知っているのに白を切った皆さん………ええ、そう、あなた達ですよ。飛び切りの宿題を出しますからね」


ゲッーーという悲鳴が、二つほど上がった。他は全員、青ざめていた。


「三、四年生の復習をします。教科書を一から読みましょう。では、覚子かくこさん、最初の行をどうぞ」


指名された少女は、しぶしぶ立ち上がり、声に出して読み始めた。


「保持妖怪は、由緒正しき古来妖怪と異なり、人間の記憶を食す変異妖怪である。我々の食べ物は記憶なり。人肉を食す事は禁ずる。故に、あやめてもならない」


 読み終わった時、少女は、ほっとした。


この美少女だけは、初めから教科書を開いて、微動だにせず俯いていた。


「ありがとう。覚子さん」


先生は微笑むと、改めて教室を見渡した。


「いいですか、人を殺してはいけません。私たちは、そう、言うなれば、怪盗に近いのです。人の記憶を盗み、それを食する妖怪、それが私たち保持妖怪です」


子供たちは熱心に聞き入っていたが、中には小声で不平を言う子もいた。


「ちぇっ。人食い鬼に生まれときゃ良かったぜ」


 我が強い女子などは、堂々と言った。


 「つまんなあーい。親戚のお兄ちゃまが教えてくれたのに~。人を呪い殺すの、すっごく面白いんだって~。私も、怨霊の一族に生まれたかった~」


この日、六年三組では、格別素敵な宿題が出された。たった一人を除いて、全員に。







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