カレンダーに○がある
「この日って予定あったっけ?」
カレンダーの十二月一日が○で囲まれていたので、俺は首を傾げた。
リビングのカレンダーをめくると○が書かれていたのだ。困ったことに○だけで、空欄には内容が書かれていない。
「さあ? 知らないわよ。私が○したんじゃないし」
晩ごはんを作りながら、妻の由紀が答えた。
結婚して一年になる由紀とは二人暮らしだ。由紀が違うと言うなら、俺が○をしたことになる。しかし、全く覚えがない。
職場のスケジュール帳を開いてみた。十二月一日に○がされていた。同じく、空欄には内容が書かれていない。
スマホのスケジュールを見ると、十二月一日に『タイトルなし』で予定が入っていた。しかも、気になるのが、午後十一時五十一分の予定時刻になっている。どういうことなんだ。自分がしたこととはいえ、こんな細かい時刻指定まで打ち込むなんて、気味が悪い。
あと三日で一日になるというのに、まるで思い出せない。
翌日、出勤した俺は、早速、職場の仲間に聞いて回った。しかし、誰もが皆、首を傾げるばかりだった。
更に翌日になった。LINEで片っ端から、友達や親戚まで聞いてみたが、回答は「知らない」だった。
遂に当日の一日になってしまった。念のため、すぐに対応できるよう、家で過ごすことにした。
スマホが鳴った。知らない番号だったので無視をしていたが、何度も鳴るので、カレンダーの○のこともあり、出ることにした。
『失礼ですが、飯島さんの番号でお間違えないですか?』
そうだと答えると、電話の向こうの女性は続けた。
『今日、十一時からだったのですが、来られていないので、事故か、もしくは日にちの勘違いをされているのか確認をしたくて。食事の用意もしてしまっていたので……』
あまりに分からない内容に俺は面食らった。
「なんのことですか? 今日はなにか予定があったんでしょうか?」
数秒の沈黙の後、女性は続けた。
「今日は亜梨沙の一周忌法要です。一年前の今日、自殺をした亜梨沙をご存知ですよね? 案内状にも出席に○をされてますし」
そうだ。思い出した。
俺は亜梨沙と付き合っていた。由紀と二股を掛けていた。
一年前の今日、由紀と結婚式を挙げ、同じ日の夜中に亜梨沙が自殺をした日だった。
案内状など知らない。もちろん、出席に○をしたことも。カレンダーの○も。スケジュール帳の○も。スマホのスケジュールも。
女性は黙っている。後ろから、かすかに、ただお経の声が聞こえるばかり。
読んでくださって、ありがとうございました。
「小説家になろうラジオ大賞」の応募作品です。