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頭の悪い男

作者: 中村Q大

好きな人は顔が良くてスポーツマンで勉強が出来る、

王子様みたいな人がいい。

と、思っていたがやはり現実と理想はギャップがあるらしい。

そのギャップをひどく感じる昨今である。


最近、私は同じ学校に通う彼氏と別れた。

私の自己紹介をしておこう。

名前は、朝霧塔子としておこう。

まだ未成年だから仮名としておく。

朝もやの中、湖に浮かぶ禁断の塔が如く、神秘的で近寄りがたい女でありたい

と、自分では思っている。

そう私は本来であれば近寄りがたい存在のはずなのだ。


自分で言うのも何だが、私は見た目が良い女だと思う。

際立って美人ではないが色白で鼻筋も通っており、目や鼻のパーツの配置が

微妙に良く小綺麗にまとまっている。

要するに顔が小綺麗なのだ。

勉強も運動も人並み以上に出来る。

これは客観的に見ても人並み以上である。

なぜなら成績で数字として結果が出ているからだ。

身長も小さすぎず、女としては大きい方だが180センチメートルもある訳でもない。

性格も悪くないと自負している。

自分で言うのだからこと性格は判断しづらいが、友達は男女共に多い方だ。

特に私を返して交際がある男友達、女友達の仲は気を遣う。

男は良い方に誤解するし、女は嫉妬する。

これを上手く回避しつつ、付き合っていくのは本当に至難の業である。

とはいっても、そこは学友。

いつ、なんどき、お世話になるかも分からないし、窮地に立たされるかも分からない。

友達は非常に大切なものなのだ、と痛感している。

そんな良い女を自負する私が、先ほど述べたように彼氏と別れた。

英断だと思う。


その彼は私と同級生で、名前は和久井健太(仮)と言う。

やはり仮名だ。

彼は私以上に人柄が良く、サッカー部に所属していてレギュラーの座を射止めている。

故にとても爽やかで好青年である。

友達の数が異常に多く、特に男から好かれる男で、先輩後輩問わず懐かれている。

そんなだから女子生徒にもてない訳もなく、彼を狙う女子生徒は非常に多い。

なぜならば彼の人気は本校に留まらず他校にも広がり、試合に行けば他校の女子生徒と本校の女子生徒から黄色の声援が乱れ飛ぶ。

モテモテとは彼の事を言うのだろう。

そんな彼と私は、とある縁で交際することになる。

和久井君の彼女となれば、女子生徒から殺意が向けられ身体的な事件が起きても不思議ではないと予想される。

だが、そこはそこ、彼女は私である。

絵に描いたような美男美女である。

驚くまでもなく、私以上に和久井君の彼女を務められる女がいるはずもなく、皆納得してくれた。

私だから仕方がない、諦めるしかない、むしろ祝福したいと泣く女子生徒もいた。

誰からも愛され、運動に謳歌する好青年であるが、

一つだけ問題があった。

馬鹿だったのである。


語弊がないように、彼の名誉の為に言っておくが、いくら馬鹿とは言え、

普通に学習は出来るし、何らかの記憶の障害でもない。

中途半端な馬鹿なのだ。

学年のテスト結果が張り出されればいつも下位を争っている。

反対に私は常に1位だ。

東方不敗とか藤崎詩織と言われても何ら不思議ではない。

彼との関係でほころびが生じたのは、こういった所からだった。


彼と同級生でありながら、普段の勉強の話やテストの話が噛み合わないのだ。

まったくと言ってよい程、噛み合わないのだ。

私は彼に勉強を教えるのは苦ではない。

そう、勉強が出来るからだ。

オールラウンドで勉強が出来るから、人に教えていたとしても私のテスト勉強の時間がそれに費える事は無かった。

むしろ、和久井君に勉強を教えて下位から上がって来てもらいたかったし、実際勉強も教えていた。

なのに散々たる結果が日常茶飯事であった。

ほころびは勉強だけではない。

会話の端々に彼の頭の悪い所が出てくる。

会話しているようで、会話をしていない。

勝手にラジオが喋っている感じだ。

勝手に流れてくる放送に、適当に相槌を打つ、それが和久井君との会話だった。

彼と会話をしていると、いつの間にか私の脳がデッドチューンされ、思考するのを辞めてしまうのである。

彼のレベルに会話内容を下げていると、最初の方は彼の会話に合わせるようにあらゆるキーワードを駆使して会話を行うのだが、その反応すら、会話のキャッチボールとして成立しなくなるので、最終的に相槌だけで済ませてしまう。

こと恐ろしいのは、私が適当に相槌を打って会話の内容なんてまるで覚えていないのに、彼はその会話に満足している点にあった。


私は本気で、この人とはコミュニケーション取れないと思った。


見た目の良さ、人の評判の良さだけでは

お付き合いできないと思った。

価値観といったらステレオタイプになってしまうが、ある程度、妥協できる価値観は必要だと思う。

私が彼と別れた事で、彼がフリーに戻り歓喜した女性もきっと多い事だろう。

彼とはいわゆる性行為の類は行っていない。

今思えばやはりフィーリングが合わなかったのだろう。

たぶん彼は彼なりに私を口説こうとしてきたのだろう。

ただ、私がそれを理解出来なかった。非常に残念である。

彼の部屋に二人きりでいた事もあったし、映画館の暗闇で一緒にいた事もあった。

そう言えば、唇がとか、目がとか、やたら腰に手をまわしてきた事もあった。

が、それまでである。

彼は自分が馬鹿なのをもう少し自覚した方がよい。

はっきりとセックスしたいと言えば、別に拒む理由も無かったのである。

結局の所、私に響かなかったのは事実だ。

彼は気遣いも出来るし、優しいし、振る舞いは満点だ。

ただ、惜しむべきは頭が悪かった、それに尽きる。


2018年投稿 2014年再投稿

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