第6章14話 園剣魔将セプティムス
クリスタラさんの斧捌きと、ルクレティアの紫剣はぶつかり合う。彼女ほどの冷気でも、ルクレティアは簡単に蒸発させてしまっている。
「クリスタラさん! 俺も戦います」
「…………………………………………足手まといにならないですか?」
「えっと…………善処します」
「わかりました」
俺はルクレティアに接近する。彼女はまだ余裕そうだ。
「アクイラ…………数々の同胞を打倒した人間…………ずっと尋ねたかったの…………ずっと」
「何を?」
俺は少しだけ不安になる。彼女が何を聞きたいのか気になった。
「貴方は本当に人間なの? いえ、人間族?」
「!? 人間以外に何に見えるんだ?」
俺の正体って言っても、アスカリで生まれて姉が一人いる。幼いからあまり覚えていないが、普通の一般家庭だったはずだ。もしそうでないというなら、セリカの所にあう必要があるかもな。
実は言うと、少しだけ気になっていた。俺の邪炎はどこから来た力なのか。それは人間族とは異なる力なのか。
「見えるというよりは…………聞こえるのよ。そもそも魔族は簡単に人間が倒せる相手じゃないの」
「今までに、一度でも簡単に倒せた魔族なんていねーけどな」
「…………そう言う事にしておいてあげるわ」
ルクレティアはあまり納得できていない様子だが、俺の攻撃を避け続ける。
「炎の守護、我が身を囲みて鎧となれ。炎焔の鎧!!!」
「火属性ですか……そうですか、炎の力よ、我が剣に集まり、燃え盛る波動を放て。炎衝波刃」
互いの焔がぶつかり合う。ルクレティアは紫剣から炎の衝撃波を飛ばし、俺は炎の鎧を腕に集中させそれを防いだ。そして俺の後ろから大きな斧を引きずったクリスタラさんがものすごい勢いで前にでて斧を床に振り下ろす。
「私もいますよ魔姫! 冷気よ、地を覆い、触れる者すべてを凍結せよ。氷結凍床」
斧から床に冷気が広がり、ルクレティアの足元まで一気に凍結させていく。ルクレティアは、その魔法にも動じず剣を床に突き刺すと床から氷結を防いでいく。
彼女も熱気で対抗しているのだろう。しかし、炎対氷や炎対炎じゃ決着はつきにくい。アウロラは浪費しているし、ジェンマもここまでの戦いで疲労してそうだ。
セレナも先ほどの戦いで疲れているみたいだ。もう俺に残された力はない。炎焔の鎧のみで戦うしかないのだろうか。
しかし、俺とクリスタラさんの相性は悪く彼女の冷気の妨害になりかねない。素直に下がったほうが良いのか。
「クリスタラさん…………俺が戦うから下がっていてくれないか?」
「あら? 私にも勝てない貴方が?」
煽られているが事実でもある。彼女はまぎれもなく俺より強いが、しかし相性が悪すぎる。火と氷延々とぶつかり合い、お互い一歩も引かない。先に疲労したほうが負けと言えるだろう。
だったら、間に俺を挟み、ルクレティアが疲弊したところでクリスタラさんに出て貰おう方が合理的だろう。俺はクリスタラさんに下がるように伝え、ルクレティアの前に立つ。
「アクイラ……こっちにきさないな。貴方はこちら側の人間よ」
「あ? 魔族側になって何のメリットがあるんだよ! 大体魔将を倒し続けた俺なんて恨まれてるんじゃねーか?」
しかしルクレティアは不敵に笑う。彼女の声は…………ココチヨイ。アア オレ ハ マゾクガワ ニ ネガエッタラ、モット コノ ココチヨイ コエ ヲ キケル ノ ダロウ カ。
コノ ココチヨサ オボエ ガ アル。コレ ハ リーナサン ノ ミリョウ ダ。
「!? あぶねえ!! 魅了の正体は…………声か」
「あら、見破られたわね。そう、私の声は相手を魅了するの」
ルクレティアは紫剣で俺に切りかかる。俺はそれを炎の鎧で防ぐが、もう体はほぼ動かない。
「ぐぅ…………」
「思ったより弱い…………でも何故? どのように他の魔の九将を?」
ルクレティアは紫剣で攻撃しながら俺を冷静に分析している。確かに俺単体の力で倒せる魔の九将はいないのだろう。それくらい彼らは強い。
ルナリスの洞窟にいたヴァルガスやセルヴァスの集落の外れにいたアウレリウスですら、カイラさん単体で倒せなかったほどだ。妖精の島にやってきたイグナティウスも火の聖女単独討伐が叶わなかった相手だ。
全部、仲間がいたから勝てた。今だっている事にはいるが、状況が悪すぎる。
「……………………でも貴方の魔力に違和感があるわ」
「!? さて、心当たりがないな」
実際にわからない。おそらくアカンサに毒されて封じられている邪炎の事だろうが、俺にもわからないのだ。
「まあいいわ、貴方はもう動けないし、私の勝ちよ」
ルクレティアは紫剣で俺の体を一閃した。俺はその場に倒れこむ。
「あぐ……」
「アクイラ!!」
セレナが俺のもとに駆け寄ろうとしたが、クリスタラさんがそれを妨害する。
「近づいてはいけません、何か来ます!!!!」
その瞬間だった。俺とセレナの間に十字の切れ込みが入り、空間がゆっくりと裂ける灰色の髪だけがわかる全身包帯で顔まで覆った筋肉質の推定男と思われる人型の何かが現れたのだ。
十字架に張り付けられている。いや、よく見るとその十字架は剣だ。足の先が刃になっている。刃は赤く滴る液体を垂らしていた。
「リキルツィン、けけなあそねお?」
不気味な声で喋るそれはルクレティアの方に顔を向けて話しかける。
「あら? セプティムス。あちらは人間よ。挨拶なさい」
ルクレティアが親し気に話しかけるそれは、俺たちの方に顔を向ける。包帯だが、おそらくこちらを向いている。
「エルねトホウのスプツィミシ。ウヲクヲホサョイスプツィミシだ」
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何を言っているんだこいつ。わかることは、感じる魔力からこいつも魔族。おそらく魔の九将の一人だろう。これはまずいな。たった一人でも劣勢だったのに。
「せめてカイラさんとマッシブラさんさえいれば!」
俺がそう呟くとセプティムス? がこちらに反応する。
「オアヨ? ホッサブヨ? せあちよとよ、エルがめいソエさそぞ?」
何かを言っている。何を言っているんだ? だが不気味だ。
「セプティムスが、その二人なら倒したって言っているわ」
「…………え?」
カイラさんとマッシブラさんの二人を倒したって言っているのか。俺は不意にクリスタラさんの方に視線を向ける。
「どういうことですか?」
クリスタラさんは気まずそうに声を出した。
「貴方たちの救援信号を確認した私たちはその信号と同時に強力な魔力を感じたの。私はカイラ様とマッシブラにその相手を頼み、セレナさんと二人でここに向かったのです。おそらく私が感じ取ったのは…………この魔族」
クリスタラさんはセプティムスに視線を向ける。つまり、カイラさんとマッシブラさんを同時に相手して…………無傷なのか? 包帯まみれでわからないけど余裕そうな奴が相手に加わったって事か。
てゆうか、あの剣の血は二人の血って事か?
カイラさんもマッシブラさんもアクイラより強いのでつまりそう言う事です。




