第6章13話 完全蘇生
俺は目の前でリオニアさんが倒れる瞬間を見た。ルーナの勝利だ。彼女はゆっくりと俺の元に来て、俺とリーナさんに向けて手を翳す。
「ごめんなさいリーナさん、貴女の呪いと一緒に延命治療も解きます。…………清らかなる水よ、我が仲間に癒しをもたらし、あらゆる状態を回復せしめよ。聖水癒受!!」
俺とリーナさんの下に魔法陣が出現し、優しい光が彼女を包み込む。すると彼女から紫色のオーラがあふれ出し、そのまま消えていった。リーナさんの白銀のドレスが戦闘で裂け、白いレースの下着が露わになる。同時に俺は立ち上がり……
「ルーナ!! 後ろ!!」
俺の声に反応して振り返るルーナ。そこには白銀の光の鎧を着たリーナさんがいた。
「あんた…………正気か?」
「ええ、正気ですよアクイラ様…………しいて言うなら、ここで貴方を倒すことが私とリオニアに残されたたった一つの道」
たった一つの道? これはリオニアさんがリーナさんを助けるために戦っていたのではないのか? 何かがおかしい。俺はちらっとクリスタラさんとルクレティアの戦闘を見る。クリスタラのシルクブラウスが破れ、青いブラが露わになり、ルクレティアの紫のドレスも裾が裂け、黒いレースのパンツが覗く。
まぎれもなく彼女も魔人族だ。これまでの魔の九将と引けをとらないどころか、戦闘力だけなら上位だ。クリスタラさんの冷気を一瞬で相殺しているのも恐ろしい。
「リーナさん…………貴女は傭兵じゃないだろう? 戦えるのか…………俺と!!!」
「私は傭兵でもなければ戦士でもありません」
リーナさんが無詠唱で光の剣を生成し、俺に突き刺そうとする構え。だが、間合いさえ間違えなければ…………!?
「な!?」
「光の剣ですよ?」
光の剣は俺の脇腹を突き刺す。剣先は壁の向こうまで伸びていた。
「伸びるのかよ…………」
「いいえ、光は差すものですよ?」
「くっ!!」
俺は光の剣先に立たないように注意する。むけられたら最後、差される。それが彼女の剣だ。
「私は傭兵でもないのに、二つ名を頂いております。”白銀の薔薇”、せめてこの名だけでもアクイラ様の冥府への旅路に添えさせて頂きます」
「俺の華は…………結構いるな、どうしよ」
この瞬間、周囲の女性陣から冷たい視線が向けられる。なんなら戦闘中だったクリスタラさんとルクレティアにまで冷めた目で向けられる。なんでだよ。良いだろ俺はハーレム形成に成功したんだぞ。
「くそ、脇腹から血が止まらねえ…………炎の守護、我が身を囲みて鎧となれ。炎焔の鎧!!」
俺は火で傷をあぶり、止血をする。痛いが仕方ない。それにどちらにせよ戦うなら使うしかないしな。問題は彼女と本気で戦えるかどうかだ。俺は…………人を殺すかもしれない。
リーナさんの光の剣が炎の鎧を突き差す。威力までは殺しきれていないが、怪我はしない!! 俺はそのまま光の剣を掴んで、見たが、急に光を短くされて短剣にされ、俺の腕から剣が離れる。
「なっ!?」
「光の武器は初めてですか?」
初めてなのはそうだな。…………しかしあの武器はどうしたものか。防ぎ方が分からない。鎧のおかげで防げているが、彼女を攻撃していいのか…………わからない。
「後ろがお留守ですよ!!」
「!?」
リーナさんが剣先を伸ばすと、俺をすり抜け、クリスタラさんの援護をしていたエリスを…………差した。エリスのセーターが裂け、薄ピンクのブラが露わになる。
「エリス!!?」
俺はあわてて振り向くが、光の剣はそのまま振り上げられ、エリスの左腕は切り落とされてしまった。
「あああああああああああ!!」
エリスの悲鳴がこだまする。俺は慌てて左腕を拾ったが……エリスは苦痛でうずくまってしまった。
「大丈夫かエリス!!」
「だ…………大丈夫で…………す」
エリスは腕をかばいながら後退する。ルーナが治療をしてくれているが…………腕は戻るのだろうか。俺は光の剣の持ち主の方に視線を向ける。
「リイイイイイイイイイイイイイナアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
「まあ、名前を呼び捨てだなんて……まるで恋人のようですね」
「ふざけてんじゃねえぞ!!」
俺はリーナに向けて炎の拳を向ける。今の俺なら、この女をためらいなく殴り飛ばせる。炎を絶やすな。絶対にこの女を倒す! 彼女にどんな目的があるかわからないけど、俺が終わらせる。
「セレナ!!!!」
「わかった!!! 風よ、我が呼び声に応えて、突風を巻き起こせ。突風召喚!!」
セレナの風が俺の焔の鎧にまとわりつき、紅は蒼に変わる。
「蒼炎焔の鎧!!!!」
蒼き高温の焔が伸び、光の剣と鍔迫り合いをする。炎と光がぶつかるってどういう感じかわからないけど、剣と鎧を象っている以上、そういう魔法と割り切ろう。
リーナさんの光は、炎さえあれば…………俺は無事だ。だから彼女の剣はすべて俺が受け切らないと、エリスのように切断される。
「さあ、始めましょうか」
リーナさんが剣を振りかぶる。俺が受けるしかない! せめてマッシブラさんがいてくれたら…………そういえばカイラさんとマッシブラさんはどうしてここにいないんだ? いや、今はそんなことを考えている場合はないか。
「蒼い炎と白銀の剣…………最後に勝つのは……………………貴方ですアクイラ様」
「え?」
俺の拳は、リーナさんの腹部を貫いた。
「お見事です」
「……リーナさん?」
リーナさんは口から黒い血を流しながら、にこりと笑う。彼女の腹部を貫いた蒼炎焔の鎧は、リーナさんの身体を燃やす。ドレスまで焼き尽くし、全裸になってしまうが、彼女は身体を隠そうとしなかった。
「ありがとうございますアクイラ様…………私を…………私を元の場所に返してくださり、ありがとうございます」
「あんた…………死んでいたのか」
「ええ、私リーナ・アルゲンテアは…………遠い昔にあの魔族に殺されています。彼女の焔と音が私を現世に繋ぎとめた。意思と関係なく操られていた…………ルクレティアの意に反する事はわかるようにできなかった…………だから…………もう一度殺してくださりありがとうございます」
「リーナ様!!! 嫌です! リーナ様!!!」
リオニアさんが燃えるリーナさんに手を伸ばす。しかし、その手は彼女に触れる前に消えてしまう。
「リオニア……私はやっと自分の死に場所に辿り着いたわ」
リーナさんが剣から手を離すと、そのまま地面に倒れる。俺は慌てて彼女に近づこうとしたが、彼女が俺に向けて手を向ける。
「アクイラ様……最後にお願いがあります」
「……なんだ?」
「リオニアを…………お願いします」
お願いしますって言っても、彼女は消えゆくリーナさんを見て泣いている。焔が強かろうが抱き締めようとしていたので俺は止めているが、手足はまだ暴れてリーナさんの元に向かおうとしている。
「離してくださいアクイラ様! リーナ様が! リーナ様が!!!」
しかし、リーナさんの身体は燃え続ける。俺達にはもうどうすることも出来ないのだろうか。するとルーナが彼女の前に立った。
「リーナさん…………その身体は本物で魂も本物で間違いありませんか?」
「……ええ、それは間違いありません。私リーナ・アルゲンテアは……ここに死にました」
「わかりました、肉と魂が本物なら…………私がすべてを癒します。今までの魔法ではだめですね…………私以外に浄化の力が…………」
浄化の力、となるとアウロラか。彼女を探すと紫の焔の首輪で魔力を封じられてぐったりしているアウロラが視界に入る。
「ルーナ! あそこに倒れているアウロラの首輪なら外せるか?」
「! できる。清らかなる水よ、我が仲間に癒しをもたらし、あらゆる状態を回復せしめよ。聖水癒受」
ルーナの聖水がアウロラの力を封じる焔をかき消し、アウロラは自由になった。
「話は聞いていたわ…………私は暁の妖精アウロラ…………私たちで…………彼女を完全蘇生させる。それが貴女の目的ね水の聖女」
「はい…………私と…………アクイラさんの契約妖精ならきっとできます」
二人が魔力を練り始める。
「何を?」
リーナさん達が二人を見て驚いている。だが俺はもう驚かない。この二人ならやってくれる!!
「清らかなる水よ、我が仲間に癒しをもたらし、あらゆる状態を回復せしめよ。聖水癒受」
「暁の陽よ、その光で全てを照らし、正しき姿に戻せ。暁光復元」
二人の魔法は重なり合い、一つになる。ルーナの聖水はアウロラの光で更に光り輝き黄金の液体となった。
「綺麗な光…………たとえ蘇生が叶わなくても最後がこの記憶なら…………私、幸せかな?」
リーナさんが金色の液体を見て驚いている。俺も驚いた。黄金の聖水なんて初めてだ。
でも、二人の力なら! 俺はアウロラに祈りを捧げる。黄金の聖水はリーナさんに触れると、彼女の中に流れ込むように溶け込んでいった。
そうリーナさんは完全に人間として蘇生したのだ。
「肉体は癒せますし魂も損傷していませんでしたのでなんとか」
「ま、妖精と聖女の力の合わせ技だし出来ないことないでしょ」
俺たちは…………もっと早く話し合うべきだったのだろう。そうすればこんな危険な事にもならず…………そうすればエリスも腕を失わなかった。
部位欠損はルーナも初めてなので治療に入るみたいだが、自身はないらしい。リーナさんも自分を殺して貰う為にとった選択とはいえ、かなり後悔しているようだ。確かに、俺はエリスの腕が失われなければきっとリーナさんに手を出さなかった。
俺がもっと甘い男だったら誰かが殺されていたかもしれない。だが、彼女はこれ以上の被害を抑えるためにそうするしかなかったのだろう。
まだ戦闘力のある俺とセレナとジェンマは…………クリスタラさんの援護に向かうのだった。
絶対に許さないぞ…………紫剣魔姫ルクレティア!
結局カイラさんとマッシブラさんはどこに行ったのでしょう。




