第6章12話 出自
三人で廃墟に突入するとそこには白目をむいた男の人たち。そして私たちに気付くと襲い掛かってきた。でも、その人達は私たちを倒せない。
「この人たちは操られてる人。だったら!! 清らかなる水よ、我が仲間に癒しをもたらし、あらゆる状態を回復せしめよ。聖水癒受!!」
私の放った清らかなる水は男達の体を蝕む魔力を打ち消し、体力を回復していく。でも……この人数全てに効果を発揮するには時間がかかり過ぎる。エリスさんやジェンマさんはすでに対処に動いているけど、私たちの力じゃ倒しきれない。
「エリスさん! ジェンマさん! 私が彼らを治します!! 時間を稼いでください!」
私はロッドを構えて、聖水癒受を彼らに放つ。そしてエリスさんとジェンマさんはそれぞれ応戦してくれた。
「銃よ、我が魔力を込めて、弾丸を装填せよ。魔弾装填」
「大地の恵みよ、我が鎚に宝石の輝きを纏わせよ。宝石鎚化」
それぞれ応戦しながらも致命傷を与えないように頑張ってくれている。私も頑張らないと。
「清らかなる水よ、我が仲間に癒しをもたらし、あらゆる状態を回復せしめよ。聖水癒受!!」
しかし、治しても治してもきりがない。私は疲れてしまい、地面に膝をつく。するとジェンマさんがハンマーを構えて言った。
「大丈夫? ルーナさん」
「はい……ごめんなさい……」
「休んでてください」
エリスさんに下がらせられる私、ジェンマさんと二人で少しずつ後退しながら撤退。私の回復を待ってくれるみたい。でも、今は少しでも前に出なければ。
しかし、エリスさんやジェンマさんのお二人では、大量の操られてた男の人たちを抑えることはできず…………ついに私たちにその攻撃が襲い掛かった。
「きゃああああああああ!!??」
「凍てつく水よ、我が周囲に集い、強固なる氷の結界を築け。氷結結界」
薄い氷の幕がすべての攻撃を防ぐ。一瞬で凍り付く膨大な魔力は…………
「クリスタラ!!」
振り向くとそこにはクリスタラが極大の氷の斧を引きずって現れた。後ろにはセレナもいる。
「援軍は私だけではありません。ただあのマッシブラとカイラ様は別ルートで現れますのでご安心を…………先に進みましょう。この人たちは殺してはいけないのですね?」
私は頷くと、クリスタラは頷いた。
「セレナさん。感知魔法を」
「はい! 風よ、我が周囲の脈動を感知せよ。風脈感知」
「ありがとうございます、隠れている敵は?」
「いません!!」
「…………ご協力感謝します。氷の斧よ、我が手に集い、凍てつく風で全てを凍結せよ。氷斧凍風」
クリスタラが巨大な氷の斧をただただ横薙ぎ払いするだけで、そこから生まれた風が一瞬で広がり、周囲で洗脳された人たちの手足が凍り付く。
「これで全員拘束完了ですね」
「すごいです!! クリスタラさん!!」
セレナが目を輝かせて喜ぶ。確かにすごいけど、この人に毎日扱かれている身としては更に恐怖を…………いえ、今はアクイラさんを助けに行けるのだから、感謝しなくては。
「ではアクイラさんを助けに行きましょう!」
私たちは廃墟の奥へと進んでいく。その道中は操られた人たちが襲い掛かってくるけど、そのすべてはクリスタラによって蹂躙される。私の回復魔法は魔力温存をかねて使用禁止。クリスタラはぽんぽん上級魔法を撃ててずるい。というよりちょっと怖い。
氷の魔法は一気に廃墟の奥まで道を作る。そして私たちはついに……
「アクイラさん!!」
そこには倒れたまま身動きが出来ないアクイラさんがいた。倒れているアクイラさんの上にはリーナさんが座っていた。
そしてその隣には黒髪の女性。あれが魔の九将。
「ルーナ! それにセレナとエリスも! クリスタラさんもいらっしゃいましたか」
アクイラさんは意識があるみたい。よく見ればアクイラさんのすぐそばで紫色の焔の首輪をつけられている女の子もいる。彼女がもう一人の妖精族…………いつもアクイラさんと一緒の子…………むぅ。
「アクイラさん! 大丈夫ですか?」
「……………………大丈夫だ! 今はそいつを何とかする方が先だ!」
アクイラさんは一度…………リーナさんの足を眺めてから返事をしていましたね。ええ、そこは眺めの良さそうな良い場所ですね。
「アクイラさんすぐ助けますね」
「え? いや、先に魔族を倒そう」
「いいえ、最優先です」
そんなこんなのやりとりをゆっくり見ていた黒髪の魔族。
「もういいかしら?」
「ええ、構いませんよ」
その瞬間、紫色の剣と巨大な斧がぶつかる。魔族とクリスタラが接近戦を始めたのだった。
「援護します!」
「あたしも!!」
セレナとエリスさんもボウガンと銃で援護射撃をしつつ、戦闘。私とジェンマさんでアクイラさんともう一人の妖精さんに助けに行く。
「いやすげえなあの二人」
アクイラさんがつぶやいて振り向くと今まで見たことないくらいの動きの良さで斧を振り回している。
「ええ、私も驚いています」
そして私がアクイラさんの前に行くと、メイド服を着た女性が私たちの間に立った。茶髪に緑色の目の女性。彼女は操られていない。
「リオニアさん!!」
アクイラさんが女性の名前を叫ぶ。またアクイラさんの知り合い。そう言う関係の人じゃなくても私の知らない間にどんどん関係性が増えてる。
「掃除屋リオニア…………申し訳ございません。アクイラ様の解放はリーナ様が殺されてしまいますので、ここはおとなしくしていただけますか?」
そう言ってリオニアさん? は箒を構える。箒? 箒で何をするのでしょうか。
「アクイラさんは助ける…………リーナさんも殺させない」
「銀髪に蒼い瞳の少女、水の聖女ですね。たとえ聖女様でも、出来ないことはあるんですよ。大地の力よ、我が箒に宿り、砂埃を巻き上げよ。砂塵箒」
その瞬間、リオニアさんの箒が砂嵐を起こし、私たちに襲い掛かる。その威力はすさまじく、アクイラさんや妖精さんはもちろん、私とジェンマさんも巻き込まれる。
「砂埃!? でもこの程度なら!!」
視界は見えないけど戦えない訳じゃないはず! しかし、この砂埃の恐ろしいところはこんな事じゃなかった。気配!?
私はとっさにロッドで後ろからの攻撃を防ぐと、箒から仕込み刀を取り出し、斬りかかってくるリオニアさん。
「どうして!? アクイラさんを解放してもあの人を解呪すれば!!」
「できません…………できませんよ。リーナ様は呪いと一緒に延命措置もされています。あの呪いのおかげで延命しているのです。あの呪いは解いちゃいけないのです」
!? 解呪したら…………死んじゃう!? もし致命傷の傷とか何かなら私の魔法でも蘇生できなくはないけどそれは賭けでしかない。
「それでも!! わたしにとってアクイラさんの方が!!! このままあなた達にアクイラさんを預けていて!!! アクイラさんが助かるとは思えない!!! 流れの聖なる水よ、我が杖に宿れ。聖なる鎌を形作り、鎌としての姿を与えん。聖水鎌化!!」
「聖水の鎌!?」
私はリオニアさんの攻撃を避けながら、水の鎌を振り回し、切りつける。でも、私の攻撃はリオニアさんに防がれてしまう。
そして再び襲い掛かる砂塵。視界は悪くなり、気配も読みづらくなる。まずは砂埃をなんとかしたいけど室内では雨も降らせられないし、どうしよう。
鎌で応戦するも、限界がある。相手は私よりも経験のある傭兵でもあるみたい。ジェンマさんはどうしたのかな。
「そうだ! 水を周囲に漂わせれば砂埃も!!! 何かそう言う魔法…………ないなら創る!! …………水の精霊よ、霧を纏い、大気を湿らせよ。湿霧召喚!!!」
私の周囲を霧が包み込む。次第に砂埃は湿気を纏い落ち着いていく。これなら戦いやすい!!
「魔法創造!? なるほど、貴女は噂以上の魔法使いのようですね」
「そっちこそ!!」
「…………さすがマルチェリア様のご息女様ですね」
「!? 母を存じているみたいですが…………私の出自を口外する前に、貴女を止める必要がありますね」
何故かリオニアさんは母を知っていて私との関係性も把握しているみたい。だったら…………ここで黙らせないと。
「…………これ以上喋られたら困りますね。流れよ、清らかな水の塊よ。相手に落ち注ぎ、その力を示さん。水塊落下」
私の頭上に水の塊が生成され、そのままリオニアさんに向かって落ちていく。しかし、彼女は仕込み刀で水球を真っ二つに斬ってしまう。以前テラさんと訓練をした際に、テラさんほどの実力者でも叩き割るように壊されたのに、綺麗に裂かれた。
「……ふっ!!」
リオニアさんがさらに接近してくる。鎌と仕込み刀が交差する。
「貴女を拘束します! 私の大切な人の為に!!」
「貴女を殺します! リーナ様の為に!!!!」
お互いの武器が交差し、力比べになる。そして……鎌が砕けた。
「!?」
私はとっさに後ろに飛び退く。鎌じゃだめだ…………。
「流れの力よ、我が杖に宿れ。水の刃を鋭くし、剣としての姿を与えん。水刃剣化」
私の武器は水で剣を作り出す。鎌よりも使いやすいけど、リオニアさんの剣術は相当な腕前だ。気を引き締めないと……。
「基本戦闘スタイルはロッドに水の魔法で形態変化を加える近接型。でも多様な水魔法の扱いと創造まで…………でしたら」
リオニアさんは仕込み刀を一度納刀して箒に戻す。
「大地の砂よ、刃と化し、敵を切り裂け。砂塵乱刃」
リオニアさんの周りに砂が舞ったかと思えば、その砂は無数の刃と化し私に襲い掛かる。私はとっさに水魔法で壁を作るけど……切り裂かれてしまった。これはまずいかも……でも諦めない!!
「貴女を沈める!! 清浄なる水よ、聖なる力で敵を清め、挟み込め。聖水双撃」
莫大な量の聖水がリオニアさんの左右に現れ、一瞬でリオニアさんを挟み込んだ。
「がはぁっ!?」
「…………敗因は相手が私だから。勝機を逃したのは貴女の言葉のせい」
倒れるリオニアさんが、せめて傷つかないように受け止めてから床に寝かせた。
ルーナ視点って難しいね。知ってる事と知らないことがアクイラと違いすぎる。




