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炎焔の鎧  作者: なとな
第6章 絶望
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第6章8話 不穏な乙女

 目が覚めると俺はルーナに膝枕されていた。


「あ、アクイラさん起きた?」

「……ルーナ? ……俺どのくらい寝てた?」


 俺は起き上がりながらそう聞くと、ルーナは指を三本立てた。


「わかんない」

「なんで三本立てた?」


 その後クリスタラさんに聞けば一時間ほどらしい。まあルーナが登り切るまでだしそんなもんか。


「ははは! 目が覚めたなアクイラ! 私はアクイラより二分早く起きた! 私の勝ちだ!!」


 謎のマウントを取ってくるマッシブラさんは俺の元に歩いてきた。


「アクイラ? いいか? 今後はクリスタラを怒らせるなよ?」

「いつもマッシブラさんの方が怒らせているのでは?」

「私はいいんだ」

「いや、よくはないだろ」


 俺がそういうと、マッシブラさんはまた大笑い。そして彼女の全身が凍り付いた。なるほど、身をもって教えてくれたんだな。


 すぐに解凍はされたがマッシブラさんは身を縮めて震えている。


「それではルーナ様の休憩が終わりましたら次の修行ですからね?」

「ああ、はい。お願いします」


 俺はそう言ってクリスタラさんに頭を下げるとルーナも俺に倣い頭を下げた。


「アクイラさん、そのまま私も膝枕してください」

「え? ああいいぞ?」


 ルーナに言われるがまま彼女の頭を俺のひざの上に乗せた。


「…………ずっとこうしていられたら良かったのに…………」


 ルーナの言葉には俺達にはもうない未来への願望が語られる。どんな立場になるにせよ。その先に進むには脱走するしかない。


 でも、彼女が聖女である責務を放棄するとは思えない俺は、険しい道のりになると理解してても彼女の不自由な未来を応援することにした。


 ルーナが自分を犠牲にしてまで助けてくれたなら、俺もお前の選択を尊重したい。この先俺たちがずっとは無理でも、なるべく多くの時間を共有できるように。


 ルーナが俺にぴったりくっついている。なるべく彼女が休めるように俺は身体を揺らさないようにしていると、ルーナがこちらに視線を向ける。


「アクイラさんの匂いがします」

「あまり良い匂いじゃないだろ?」

「んー…………癒される」


 あまり俺にはわからない感覚だが、確かに俺もルーナの匂いを嗅ぐとそういう気持ちにはなるな。…………俺もルーナの頭に顔を押し付けて彼女の匂いを嗅ぐと、ルーナはくすぐったいのか少し身じろぎした。


「アクイラさん……恥ずかしい」

「ああ悪い」


 俺が頭を上げると彼女は俺の胸に顔を埋めた。


「でも……もう少しこのままがいい」

「……わかった」


 俺はルーナの頭を撫でながらゆっくりと時間が流れるのを感じていた。そして、クリスタラさんはそんな俺達を見て微笑んでいた。


「そろそろ休憩は大丈夫そうですね?」


 あ、微笑んでたのは和んでいたとかじゃなくて痛めつけてもよさそうって判断だったのかもしれねぇ…………。


「それでは次の修行です…………魔力コントロールをして頂きます。特にアクイラさん? 魔法の使える幅が極端に少ないとお聞きしましたよ?」

「えと…………まあ確かに俺は一つしか魔法が使えませんがそれは…………」


 俺の魔法が一種類しか使えない。それは邪炎の力をアカンサの毒で封印しているからであって、本来はそんなことなどない。それに今はジェンマやアウロラもいるから魔法が使えない訳じゃないんだ。だが、彼女になんて伝えよう。


 そう思っていたが、クリスタラさんは俺に耳打ちをする。


「貴方の事情はアカンサさんから聞き及んでいます。それ含めて邪炎のコントロールを常時可能にするのが目的です」

「!? それは…………」


 できるならこっちからお願いしたいくらいだ。邪炎の力は魔の九将(マギス・ノナ)相手にも優勢で戦えることが以前の戦いで確認できた。それも完全開放じゃない状態だ。もしあれをコントロールできるなら…………


「俺、強くなれますか?」

「勿論です。もし完全な状態でコントロールできるようになりましたら…………アクイラさんにでしたら私を好きにしても良いですよ?」

「え!? いや……その……」


 そう言ったクリスタラさんはわざとらしく胸を押し当ててくる。俺を一方的に蹂躙できる女性を…………カイラさん相手にそう言う事はよくあるのだが、カイラさんじゃない女性は相手して貰えないと思ってたから…………正直、やるしかないなと思ってしまった。


「やる気になったようですね。それではまずは三人とも身体に魔力を纏ったまま、ここで野営の準備をしてください。まだ日中ですが夜営は時間が道具なしでの夜営の準備は時間かかりますからね。あ、夕方からはカイラさんたちも合流しますので寝床は七人分用意してください。余裕があると良いですね十人分にしましょう。食事もです。それではお願いします」


 クリスタラさんはそれだけ言うと、俺たちを放置して氷で何かを作っている。ボードゲームだ…………一人で遊んでる……………………


「何を見ているのですか? またお相手しましょうか?」

「すぐに夜営の準備をします!!!」


 俺たちはルーナが果物や野草取り、俺とマッシブラさんで狩りの準備を始め、日が沈むころにはある程度の人数を許容できる寝床と食事を用意出来た。


 そしてカイラさんたちがやってきたのだが…………もう一人見慣れた人影。


 紅い髪に黄色い瞳の美しい女性。カラスティア領主の妹で、カラスティア道中を共にしたリーナ・アルゲンテアだ。


「アクイラさん、またお会いしましたね?」

「えぇ……そうですね。どうしてここに?」

「どうしてって…………」


 俺の質問に対してなぜか考え込む彼女は空を見上げる。そして何かを思いついたように口を開いた。


「運命ですね」


 本気でそう思ってるとは思えない彼女の発言に俺は苦笑いをする。しかし、彼女は異性を魅了するような魔法が扱える可能性がある。近寄らないが吉だろう。


 俺とリーナさんが話していると、ルーナが露骨に不機嫌になった。


「アクイラさん、その女と知り合いなんですか?」

「一応カラスティア領主の妹でリーナさんだ。まあ聖女であるお前の方が身分は高いけど無下に扱う相手でもねーよ」

「むぅ…………身分じゃなくてアクイラさんとの親密度の方が重要」


 ルーナは俺にしがみ付き、彼女に威嚇をするが、リーナさんはニコニコとするだけ。

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