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炎焔の鎧  作者: なとな
第6章 絶望
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第6章7話 氷雪のクリスタラ

 食事が終わり、次の修行が始まる。体力づくりとして崖登りが始まるのだが、俺とマッシブラさんはなんとなく登り切ってしまい、ルーナはまだ崖下で登攀中だ。遠くで彼女の純白のドレスが風に揺れ、銀髪が陽光にチラチラ輝くのが見える。

 クリスタラさんは氷で階段を作ってしまい、先に崖の上にいた。彼女のシルクブラウスが風に張り付き、胸の膨らみがくっきり浮かぶ。青白い瞳が俺たちを穏やかに捉える。


「お二人ともお早いですね。往復しますか? それともここで筋肉トレーニングを行いますか?」


 トレーニングか。なんかひどい目に合いそうな気がするな。俺とマッシブラさんは目を合わせる。


「往復でお願いします」

「私もだ」

「では……これを」


 クリスタラさんが手を振ると、俺とマッシブラさんの手足に氷の重りがつけられてしまった。


「え? これは?」

「プレゼントです」


 クリスタラさんが微笑むと、俺たちの足元を凍らせ、隆起させて坂を作り、俺たちは崖下まで滑り落とされる。俺は彼女の太ももに目をやり、透け感のあるアーマー越しにスラリとした肌を想像する。手を伸ばそうとするが、氷の重りが邪魔だ。


「あらあら? 貴方たち二人には詠唱しなくても勝てそうですね」


 クリスタラさんが崖から落ちる俺たちに向かって手を振っていた。鬼畜かあの人!?


「くっそおお!! だったら俺だってアンタと戦ってやる!! 炎の守護、我が身を囲みて鎧となれ。炎焔の鎧(エンフレクス・アルマ)

「いいな! それ!! 私も乗った!!」


 俺は炎の鎧を召喚し、手足の氷を一瞬で溶かして登り直す。マッシブラさんは怪力で氷を砕く。……怪力で氷を砕く? まあいいか。そして再びクリスタラさんの前に立つ俺たち。


「クリスタラさん? どれだけ強いか手合わせお願いできますか?」

「強い奴! 戦える! アクイラ込みのハンデなら!! クリスタラの全力の三分の一くらいならいける!!」

「…………え?」


 待って、クリスタラさんってそんなに強いの?


「仕方ありませんね。マッシブラは武器を持ってきてください。私も斧を使います」


 クリスタラさんが手に持っていた棒に氷の斧の刃を生成した。本当に一切詠唱をしようとしない。本来、詠唱することで魔力を高め、魔法をより強力にする事が出来る。俺も詠唱破棄はできるが、すぐに効力が切れたり、威力が足りない場合もある。そのため、魔法名を呼ぶ簡易詠唱も存在するが、クリスタラさんはそんな素振りも一切見せない。魔法の発動は声に出すことが多くバレやすい。実際にマーレアさんのような特級傭兵ランクダイヤモンドでも、詠唱することで光速の魔将アウレリウスに後れを取ったことがある。それでも詠唱するリスクを取る程度には、詠唱込みの魔法を優先するのが当たり前なくらいだ。だが、詠唱をしないまま、強力な魔法を行使する彼女を見て俺は背筋まで凍り付いた。


「行くぞ! マッシブラさん!」

「大地よ、我が盾に力を与え、土を押し出し突進せよ。地盾突進テラ・ラドウィナ・シールド


 マッシブラさんが盾を押し出し、一気に土を山にしてその山を勢いよくクリスタラさんにぶつけようとすると、クリスタラさんが氷の斧の刃を山に突き刺すと、山は一瞬で凍り付き、氷の塵となって消え失せた。


「あら? 戦いはまだ始まらないのですか? 私から行きましょうか? 待ちますよ?」

「なんだあの余裕! 俺も行くぞ!!」


 俺は展開した炎の鎧を拳に集め、巨大なガントレットにしてクリスタラさんに殴りかかる。本来なら倒すべき相手に使う火力だが、彼女相手に手加減は不要と判断した。


「火で私に勝てるのは火の聖女くらいでしょう」

「え?」


 俺の炎の鎧は一瞬で消え去り、代わりに俺の腕は氷に包まれてしまった。右手の感覚が一切ない。


「アクイラ!! 早く火を灯すんだ!!」


 マッシブラさんの声に我に返り、俺は魔法を詠唱する。


「炎の守護、我が身を囲みて鎧となれ。炎焔の鎧(エンフレクス・アルマ)!!」


 しかし、炎は右腕に灯ることはない。魔力を通すことが出来ない。まるで俺の腕ではないみたいだ。


「遅かったか! クリスタラに凍らされたら魔力すら通らない!!」

「先に言ってくださいよ!?」


 俺は右腕から炎を出そうとするが、氷は一向に溶けない。それどころか徐々に凍り付いてきた。


「腕にだけ気を取られて足元がお留守ですよ?」

「え?」


 足を見ると、展開していた炎の鎧がかき消され、凍り付いていた。


「アクイラ下が……れないな! ではこのままいくぞ!! 大地の力よ、我が盾に土を集め、密度と大きさを増強せよ。地盾強化テラ・シルド・アウグメンターレ!」


 マッシブラさんの盾に土塊が集まり、その巨大な盾で殴りかかる。


「俺だってまだ左手が使える!! 来いアウロラ!!」


 俺が祝福の証で眠る夜明けの妖精アウロラを呼び出すと、彼女は赤い火属性の剣となって俺の手元に現れた。剣の柄を握ると。


「暁の陽よ、その光で全てを照らし、正しき姿に戻せ。暁光復元オリエンス・ルクス・レストラーレ


 光を浴びた俺の身体から氷が溶け、手足が自在に動く。アウロラの剣が熱くなり、俺の欲望を煽る。


「あらあら……これ以上苦しまなずに済みましたのに」


 クリスタラさんが氷の斧を持ち替え、柄の部分を俺たちに向ける。


「氷雪のクリスタラ……準備運動を開始します」


 柄の先から冷気の弾丸を放つクリスタラさん。


「なんでもありかよ!!」

「気をつけろ!! あれは超大型魔獣を瞬殺する冷気だ」

「殺される!?」

「死にはしません。ただ、一週間ほど寝込みます」


 俺はアウロラで氷の弾丸を切り裂こうとするが、冷気に触れた瞬間、剣が氷漬けとなる。マッシブラさんが盾で攻撃を防ぎながらクリスタラさんに迫る。しかし、彼女は一歩も動かない。まるで攻撃して来いと言わんばかりに……ならお望み通り!!


「暁の陽よ、その光で我が剣を照らし、我が剣に宿り力と成せ!! 暁光剣強化オリエンス・ルクス・グラディウス!!」


 剣となったアウロラに炎属性の魔力が宿り、火属性の魔力を纏うクリスタラさんに向かって俺は斬りかかった。


「ルーナ様もそろそろ登りきる頃ですし、準備運動はここまで」


 俺とマッシブラさんは冷気で凍りつき、動けない。クリスタラさんが崖下を見やり、ルーナがまだ登攀中の姿を確認する。


「それではルーナ様が登り切るまで……おやすみなさい」


 クリスタラさんが微笑み、俺たちは冷気の余韻に震える。

聖女の付き人はみんな強者でマッシブラさんも素のアクイラより強いと考慮するとクリスタラさんはバケモノですね。

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