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炎焔の鎧  作者: なとな
第5章 妖精の島
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第5章6話 人工島

 次に目を覚ました時、俺は森の中にいた。頭がぼんやりしてて、目の前が霞んでる。意識が戻ると、周囲には誰もいねえ。目の前には洞穴がぽっかり口を開け、脇には焚き火がパチパチと燃えてる。オレンジの炎が揺れ、薪の焦げる匂いが鼻をつく。冷たい風が木々を揺らし、葉擦れの音が静かに響いてる。俺が凍えないように誰かが火を用意したんだろうが、一体どういう状況だ?


「どういう状況だ?」


 確か、昨日はアカンサに首筋を吸われて……そこで思い出した。意識が遠のく前の彼女の声、「それでは一名様ごあんなぁい」。あのサディスト女の仕業だ。


「毒花のアカンサ……毒魔法か」


 つまり、この状況はアカンサのやったことだ。せめて説明くらいしてくれりゃいいのに。いや、俺が彼女を襲ったのが先か。挑発したのはあいつだけどさ。首筋に残る微かな痛みが、昨夜の記憶を呼び起こす。アカンサの甘い香りと、硬くなった乳首の感触が頭にちらつく。


「どうしようか」


 俺は呟きながら、とりあえず焚き火にあたった。パチパチと薪が爆ぜる音が耳に心地いい。火の暖かさが冷えた手を温め、気持ちが少し落ち着いてくる。さて、本当にどうしようか? このまま待ちぼうけでもいいが、アカンサのことだ。何か企んでるに違いない。森の奥から鳥の鳴き声が聞こえ、風が木の葉をざわつかせる。この静けさが逆に不気味だ。


「まあアカンサの拉致なら、セレナたちへの連絡も抜かりないだろうし……俺はここでするべきことを探さないといけないか」


 そう決めて、周囲を見渡した。森は深い緑に覆われ、木々の隙間から薄い陽光が漏れてる。目の前に流れる川の水面がキラキラ光り、近くには野草やキノコが点在してる。食糧確保から始めるか。寝床の確保と拠点作りも必要だ。食事は一日くらい何とかなるだろうし、水は川がある。ひとまず川に近づき、冷たい水で顔を洗った。水が頬を叩き、口を濯ぐと、澄んだ味が喉を潤す。少し頭が冴えてきた。

 さて、寝床だ。この洞穴を拠点に使うか? とりあえず中を覗いてみることにした。洞穴の入り口は狭いが、中に入ると意外と広い空間が広がってる。人が十人くらいなら暮らせそうな広さで、天井も高く圧迫感はねえ。壁には天然のヒカリゴケが生えてて、淡い緑の光で中を照らしてる。これなら火も必要ねえな。よし、ここを利用しよう。寝床の準備を始めるか。洞穴の隅に積もった藁を集め、編んで重ねた。その上に葉っぱや柔らかい草を敷いて枕を作り、簡易的なベッドを完成させる。さらに、周囲の木から枝とツルを切り取り、ハンモックを編んだ。洞穴の壁に引っ掛け、寝られる場所を整える。これで一応完成だ。


「次は食事か……」


 何を食べるか考えなきゃな。川に魚でもいるか? 野草やキノコも使えそうだ。俺がそんなことを考えていると、不意に背後から声がした。


「あら? 今日は何を食べさせて下さるの?」


 驚きながら振り向くと、そこにはアカンサが立ってた。緑色の髪が森の自然に溶け込み、金色の瞳が洞穴の薄暗い中でも鋭く輝いてる。華奢な体つきなのに、自信と覚悟が感じられる姿だ。彼女は緑のレザージャケットを着てて、体にピッタリフィットしたデザインが動きやすそう。前面にはポケットがいくつも付き、毒草や調合道具が整理されてるのが分かる。同じ緑のレザーパンツは細身で、ウエストに小さなポーチがぶら下がってる。毒針や小道具が入ってるんだろう。ジャケットの下には白いリネンシャツが覗き、長袖の襟元は紐で結ばれててシンプルだ。足元は茶色の革ブーツで、足首をしっかりサポートしてる。靴底には滑り止めが施され、森の地形でも安定して歩けそう。腰には革ベルトが締められ、ポーチや道具が吊るされてる。手には革手袋をはめ、背中には小さな革バックパックを背負ってる。完全にサバイバル仕様だ。彼女がバックパックを調整する瞬間、ジャケットの裾がずれて、白いシャツが捲れ上がり、緑のレースの下着がチラッと覗いた。


「準備万端じゃねえか!!」


 思わず突っ込んでしまった。こいつ、俺の行動を完全に読んでやがる……。


「ふふん。当たり前じゃない」


 アカンサが得意げに笑う。俺は溜息をついた。本当に食えねえ女だ。でも、とりあえず礼を言っておくか。


「ありがとう……で? ここはどこだ?」


 見渡す限り大自然だ。木々が密に生え、遠くには山の稜線が見える。人里離れたどこかだろう。


「ここは歴代の聖女様方の魔法によって造られた人工島よ」

「聖女は魔法で島まで作るのか。すごいな」

「この島は聖女様とその付き人、そして祝福を受けた人物だけが入れるように結界が張られているのよ。貴方は地の聖女の祝福の指輪をつけているでしょ?」

「ああ、これか」


 俺は左手中指にはめた指輪を見た。大地の聖女ベラから貰った祝福の証だ。金のリングに緑の宝石が嵌め込まれ、微かに光ってる。これのおかげで入れるってことは、セレナたちは入れねえのか。


「それで、ここで俺は何をすればいいんだ?」


 アカンサに尋ねると、彼女が答えた。


「サバイバルよ。ゴールはこの島のどこかにいる火の聖女ヴァルキリー様に勝つこと。それが今回ヴァルキリー様から貴方に祝福を捧げる条件となったわ」


 火の聖女ヴァルキリー。ルナリスの街に常駐してる聖女だ。面識はあるし、つい最近も儀式で会ったが、他人行儀で親しくねえ。


「あいつって聖女なのに上級傭兵ランクルビーまでランク上げてる戦闘狂だろ?」


 聖女は本来、聖職の務めで依頼をあまり受けねえ。それなのにランクが上がってるってことは、魔獣討伐が趣味って言ってもいいくらいだ。ルナリスで会った時も、赤いローブの下に剣の柄が見えてたのを思い出す。


「まあそうね。真正面から勝てる相手ではないわ。特に同じ属性の貴方はね。それからサバイバルだけど、ギブアップ宣言はあたくしにお願い。この島にいる間は一緒にいてあげるから、いつでも可能よ」


 アカンサが俺の肩に身を寄せてきた。緑の髪から甘い香りが漂い、柔らかい体温が伝わる。俺は彼女の手を取り、そのまま抱き寄せた。革ジャケット越しに細い腰が感じられる。唇を重ねようと近づくと、彼女の唇が紫に変色した。慌てて離れる。


「あら? ギブアップ宣言かと思って、つい眠らせようとしてしまったわ。ごめんなさい?」


 アカンサが悪戯っぽく笑う。こいつ、本当に性格悪いな。


「とりあえずメシか。お前の分も用意すればいいのか?」

「お願いするわ。もし満足させてもらったら……毒なしでキス……しましょ?」


 アカンサが上目遣いで言う。金の瞳が潤み、頬が少し赤らんでる。整った顔がこんな表情をすると、ドキッとする。美人だな、こいつ。正直、ドキドキしないわけがねえ。


「じゃあ飯だ」


 俺が言うと、彼女が嬉しそうに笑った。俺はアカンサのために食事を作ることにした。洞穴の外に出て、川で魚を捕まえる。小さな網を即席で作り、浅瀬で泳ぐ魚を掬った。野草とキノコも周囲から集め、アカンサのポーチから塩を拝借して味付けだ。焚き火に鍋をかけ、魚と野草を煮込む。キノコの香りが立ち上り、シンプルなスープが完成した。


「出来たぞ」

「まあ、現状じゃこれが限界ね」


 アカンサがスープを口に運ぶ。俺も隣で同じものを食った。魚の旨味とキノコの風味が効いてて、悪くねえ。


「あたくしの好み……覚えてたのね」


 彼女が微笑みながら言う。俺は食事を続けつつ答えた。


「ああ、好きだったよな、キノコのスープ」

「ふふ……ありがとう」


 アカンサの笑みが美しい。食事を終え、俺たちは洞穴で休むことにした。簡易ベッドに横並びで寝転がる。彼女の体温が近く、革の匂いと甘い香りが混じる。俺は彼女の肩に手を回し、軽く胸を触った。ジャケット越しでも柔らかい感触が伝わる。


「んっ……何?」

「少し触るくらい、いいだろ」


 俺が彼女の胸を揉むと、アカンサが小さく身じろぎした。革の感触と柔らかさが混じって、たまらねえ。


「もう……我慢できないなら、言いなさいな」


 彼女が笑いながら言う。俺は手を離し、彼女を見つめた。


「ねえ……ご褒美のキス……してあげる」


 アカンサが甘えた声で言う。俺は彼女を抱き寄せ、唇を重ねた。柔らかい感触が伝わり、甘い吐息が俺の興奮を高める。舌を絡ませ、熱いキスを交わす。


「んっ……ん……」


 長いキスの後、口を離すと唾液が糸を引いた。アカンサが潤んだ瞳で俺を見つめ、囁く。


「おやすみなさい」


 唇が紫に変色し、俺はまた眠らされた。毒ありじゃねえか……でも、まあ苦しくねえし、いいか。意識が遠のく中、彼女の笑顔が頭に残った。

■人工島(エルフローナ島)

・地の聖女の力と水の聖女の力で島を作り、火の聖女と風の聖女の力で島を護る。

・現在はアクイラ、アカンサの二人とどこかにいるヴァルキリー、合計三人の滞在を確認。

・聖なる力で作られた空間故、魔獣や魔族は観測できない。

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