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炎焔の鎧  作者: なとな
第5章 妖精の島
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第5章5話 綺麗な花には毒がある

 聖女の儀式が終わり、俺はしばらくテミスの街をさまよった。夕暮れが街を赤く染め、石畳の道に長い影が伸びてる。空は茜色から深い藍へと変わりつつあり、遠くの教会の尖塔がシルエットになって浮かんでる。行く宛もなく、ただ時間を潰すためだ。足音がコツコツと響き、冷たい風が頬をかすめるたび、ルーナの神聖な姿が頭をよぎる。あの白いローブに包まれた小さな体、銀髪が揺れる姿が、まるで幻のように脳裏に焼き付いて離れねえ。彼女が聖女になったのは俺のせいだって気持ちが、胸を締め付けて息苦しい。気づけば、街の中心部にある広場まで来ていた。噴水が水を吐き出し、細かな水しぶきが夕陽に反射して虹色に輝いてる。周囲には花壇が色鮮やかに咲き乱れ、赤や黄色の花々が風に揺れて甘い香りを漂わせてる。人々のざわめきが遠くに聞こえ、少し落ち着くが、心の奥の重さは消えねえ。


「お嬢さんの居場所はこの近くか」


 遅かれ早かれ、火の聖女と風の聖女から祝福を貰わないといけないもんな。それに、水の聖女からも……。気が重い。だるい。何もする気になれない。でも、祝福を貰って生き延びないといけない。処刑されるくらいなら、あの時アスカリで死んでれば、ルーナは聖女にならずに済んだ。彼女の小さな手が俺を救った瞬間を思い出すたび、罪悪感が胃の底に沈む。生かしてもらった以上、何が何でも生き延びて、最低限、ルーナが俺を生かして良かったと思えるようにしなきゃいけない。だから俺は……どんな手段を使っても生き延びるしかないんだ。足元の石畳を蹴り、冷えた空気を吸い込んで気持ちを切り替える。


「とりあえずお嬢さんのとこに行こう。ルーナが後悔しないように」


 俺は広場近くの大きな宿に向かった。貴族向けの高級宿で、外観は白い石壁に金の装飾が施され、夕陽に照らされて輝いてる。入り口には豪華な赤い絨毯が敷かれ、両脇に立つ衛兵が鋭い目で通行人を睨んでる。宿の看板には「金貨10枚」と刻まれ、庶民じゃ手が出ねえ場所だ。周囲には馬車が停まり、貴族らしき連中が従者を連れて出入りしてる。空気が金と権力の匂いで重い。


「ここがお嬢さんがいる場所か」


 中に入ると、ロビーは大理石の床にシャンデリアが輝き、高級感が漂ってる。壁には金箔の装飾が施され、暖炉の火がパチパチと音を立てて部屋を暖めてる。貴族や富豪がソファに腰掛け、葡萄酒を傾けながら談笑してる姿が目に入る。受付に向かい、部屋番号を確認する。いきなり傭兵が伯爵令嬢の宿泊先に尋ねるのも変だが、仕方ねえ。


「その、ここに泊まってる伯爵令嬢アカンサ・モルス様に面会したいんだけど……」


 受付の男に伝えると、彼は一瞬驚いた顔をした後、笑顔で対応してきた。黒い制服に金のボタンが光り、胸ポケットには宿の紋章が刺繍されてる。貴族相手に慣れた動きで、慇懃な態度が逆に胡散臭い。


「かしこまりました。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「俺はアクイラだ」


 名前を告げると、男は名簿を手に取って確認し、俺を見て答えた。指先が紙をなぞる音が静かなロビーに響く。


「少々お待ちくださいませ」


 彼が奥に引っ込むと、数分後に戻ってきた。足音が絨毯に吸い込まれ、静寂が一層際立つ。


「お待たせしました、アクイラ様。アカンサ様のお部屋へご案内いたします」


 受付の男の後に続き、長い廊下を歩く。赤い絨毯が足音を吸い込み、壁には絵画や金の燭台が並んでる。燭台の火が揺れ、影が壁に踊る様子が妙に不気味だ。アカンサの部屋の前で、彼が鍵を開け、俺に入るよう促した。扉を開けると、豪華な調度品が目に飛び込んできた。広い部屋には大理石の暖炉が暖かく燃え、金縁の鏡が壁に掛かり、赤いベルベットのソファが柔らかそうに置かれてる。天蓋付きベッドが中央に鎮座し、薄いカーテンが風に揺れてる。窓からは夕陽の残光が差し込み、柔らかな光が部屋を満たし、高級感が溢れてる。床には厚い絨毯が敷かれ、足を踏み入れるたびに沈む感触が心地いい。

 そのベッドの上で、アカンサが横になってた。緑色の髪が白いシーツに広がり、金色の瞳が半分閉じてて、夢の中にいるみたいだ。彼女は白いリネンのナイトガウンを纏ってる。シンプルだけど上品で、華奢な体に柔らかく寄り添ってる。胸元には繊細なレースが飾られ、長い袖はゆったりしてて、手首にもレースのトリムが付いてる。ナイトスカートも白いリネンで、足元まで覆う長めの丈だ。裾にレースが施され、トップスと調和してる。首には小さな金のペンダントが下がり、緑の宝石が光を反射してる。足元は素足で、ベッドの上でリラックスした姿が絵画みたいに美しい。シーツが彼女の体に軽く絡まり、柔らかな曲線が透けて見える。

 その光景に見とれた。アカンサの自然な魅力と上品さに、心が奪われる。夕陽が彼女の髪に反射して緑を鮮やかに輝かせ、金の瞳が微かに開くたび、俺を捕らえる。言葉が出ねえ。喉が乾いて、息が少し荒くなる。

 彼女がゆっくりベッドから起き上がり、俺を振り向いた。シーツが滑り落ち、白い肩が露わになる。微笑みを浮かべて口を開く。


「よく来たわね……アクイラ」


 その声は天使みたいに美しく、心に響いた。柔らかくて甘い響きが、部屋の静寂に溶け込む。俺はハッとして、慌てて返した。


「こっちが、来てやった…………だろ!」

「ふふ……相変わらずね」


 アカンサが微笑む。その笑顔は純粋で、まるで俺を魅了する魔法だ。こいつが天性のサディストだって知ってても、ドキッとする。危険な魅力を持つ女だ。彼女の髪が軽く揺れ、ペンダントが微かに光を跳ね返す。


「まぁ、立ち話も何だから座りなさいな」


 彼女がベッドの端に座り、隣をぽんぽんと叩いて促す。シーツが少し乱れ、白い太ももがチラリと覗く。俺は言われた通りに座った。柔らかいマットレスが少し沈み、彼女の体温が近くに感じられる。ベッドの弾力が心地よく、アカンサの香水の甘い匂いが鼻をくすぐる。アカンサが俺を見て、微笑みながら口を開く。


「火の聖女様の件ね? 教えて欲しい? じゃぁあ…………我慢比べでもしてみる?」


 彼女が悪戯っぽく笑いながら、俺の肩を軽く叩いた。ナイトガウンが少しずれて、白い肩がさらに覗く。柔らかい感触が一瞬伝わり、心臓がドキッとした。


「……我慢比べって何だよ…………」


 少し慌てて聞き返すと、アカンサがニヤリと笑う。その表情が俺をドキッとさせる。「我慢比べよ。あたくしがこうやって近づいても、動じずにいられるかしら?」彼女がさらに近づき、俺の耳元で囁くように言った。香水の甘い香りが強くなり、彼女の体温がすぐ近くに感じられる。


「何!? や、やめろって……」


 少し緊張して彼女を睨むと、アカンサがベッドの上で膝立ちになり、ナイトスカートを捲り上げた。白いコットンペチコートが現れ、シンプルだけど彼女の細い脚を際立たせる。俺は思わず目を逸らした。心臓がバクバクして、顔が熱くなる。


「あら? どうしたの、顔が赤いわよ?」


 彼女が余裕そうな顔でからかう。それがまた俺を焦らせる。


「からかうな!」


 少しムッとして言い返すと、アカンサがクスクス笑いながら距離を取った。肩を叩かれた感触がまだ残ってる。


「ふふ…………はいアクイラの負け。あたくしに動じちゃったでしょ?」

「ちっ、今回は何も言ってねえだろ」


 ちょっと恥ずかしくなったのは事実だ。でも、目の前にこんな魅力的な女がいるんだ。健全な男ならドキドキするのは当然だろ。俺は少し緊張して彼女を見つめた。彼女の白い肌が夕陽に照らされ、柔らかな光沢を帯びてる。


「ふふ……どう? あたくしの魅力、すごいでしょ?」


 挑発的な笑みを浮かべるアカンサ。俺はゴクリと唾を飲んだ。彼女が俺に近づき、肩に手を置いてきた。柔らかい感触が一瞬伝わり、心臓がバクバクしてる。


「きゃっ!」


 驚いた声を上げるアカンサ。俺は慌てて手を引っ込めた。彼女の体温と鼓動が一瞬感じられた気がして、頭が少しクラクラする。


「もう……強引なんだから……」


 そう言いながら、満更でもねえ様子。俺は彼女の首筋に近づきそうになったが、グッと我慢した。白い肌が目の前にあって、くすぐったそうな彼女の反応が頭に浮かぶ。


「んっ……くすぐったいわ」


 身を捩らせるアカンサを想像して、俺は少し笑った。すると彼女が俺の肩に軽く手を置いてきた。ピリッとした緊張感が走り、意識が遠のく。頭がクラッとし、体が重くなる。


「それでは一名様ごあんなぁい」


 アカンサの声が聞こえた気がした。ドサりと体が沈み、最後に彼女の肩に頭を預けた感覚があった。クソ……この女、やっぱり一筋縄じゃいかねえ……。意識が闇に落ちる中、彼女の甘い香りが鼻腔を満たし、微かな笑い声が遠くに響いた。

彼女は毒花のアカンサ

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