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炎焔の鎧  作者: なとな
第4章 復讐
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第4章11話 姉弟 家族

 アスカリの街は寒風が吹き荒れ、巡回は難航してる。俺はトーナメントの勝利の余韻に浸りながら、ヴァルカンと闘技場の中央に立つ。石畳の冷たさが足裏に染み、血と汗の匂いが鼻をつく。観客席のざわめきが耳に響き、俺の血が騒ぐ。俺は厚手の灰色コートを脱いで脇に置き、深紅の長袖シャツと黒いズボンで構える。闘技場の空気が冷たく、息が白く漂う。


「それでは灼熱の拳アクイラVS火炎剣士ヴァルカンの試合始め!」


 審判の声が闘技場に響き渡る。俺とヴァルカンは同じ火属性の魔法使いだ。ヴァルカンは赤い長袖シャツに濃緑のズボン、厚手の黒コートを羽織ってて、長剣を手に持ってる。剣士として名を馳せる奴で、長い剣先を熱して戦うのが得意技だ。観客席が静まり、緊張が空気を支配する。近くを歩いてた売り子の娘が寒風でよろけ、薄い灰色の長袖シャツが引っかかり、シャツが大胆に開いて薄桃色のブラジャーが露出する。彼女が叫びながらコートで隠すが、観客席が一瞬ざわつく。俺とヴァルカンの視線が完全にそっちにいく。


「お前…………やっぱ胸派か?」

「若い娘なら尻でもいい」


 お互いに何かを認め合い、構えた。

 

「炎よ、我が剣に宿りて熱を込め、敵を焼き尽くさん。炎刃焼断エンブレイズカット


 ヴァルカンが剣に高熱をまとって斬りかかってくる。剣先が赤く輝き、熱風が俺の顔を撫でる。俺はそれを横に避け、拳をぶつける。石畳に足音が響き、観客がどよめく。


「炎の守護、我が身を囲みて鎧となれ。炎焔の鎧(エンフレクス・アルマ)

「炎よ、我が身を包み、不屈の鎧となれ。炎焔の鎧(エンフレクス・アルマ)


 俺とヴァルカンは同時に同じ魔法を詠唱する。俺が炎の鎧を拳に展開し殴りかかると、ヴァルカンも炎の鎧を展開して受け止める。炎がぶつかり合い、火花が散る。熱気が闘技場を包み、観客席が沸く。


「炎の鎧はお互い様だな」


 ヴァルカンがそう言うと、俺も頷く。お互いに距離を取り、攻撃を続ける。俺の燃える拳にヴァルカンの熱された剣がぶつかり合い、互いの鎧が火花を散らす。リーチじゃヴァルカンに軍配が上がるが、鎧の使い込みは俺の方が上だ。拳が空気を切り裂き、熱が石畳を焦がす。


「俺の拳の威力をなめるなよ」


 俺はそう言ってヴァルカンの炎の鎧を連続で殴る。拳が鎧に叩き込まれるたび、鈍い音が響き、炎が揺らぐ。その攻撃に耐えきれなくなったのか、ヴァルカンの炎の鎧が砕け散り、破片が石畳に落ちて熱を帯びる。そしてそのまま熱せられた拳をくらわせる。拳が奴の腹にめり込み、熱が体を焼く。


「ぐはっ!」


 ヴァルカンがその場に倒れ、気絶する。俺は審判に向かって勝者だと伝える。観客席が拍手で沸き、ヴァルカンがゆっくり立ち上がる。奴が俺の手を取って握手をする。


「完敗だよ」

「いや、俺の方こそ危なかった。優勝してきてやる」


 そう言いながら決勝に進んだ俺は、イオンさんにボコボコにされた。見えない相手には勝てねえよ。イオンさんは黒い長袖シャツに灰色のズボン、濃藍のコートで無言のまま俺を圧倒しやがった。ちなみに俺がヴァルカンに出した命令は今度奢ってもらうこと、イオンからは「今度一緒に依頼を受けよう」と筆談で言われた。正直、イオンの場合、俺が助けてもらう側だから助かる。

 俺は一応キャプテンオクトとセリカの婚約を破棄できたからヨシとするか。この後、俺はオクトが教会側から生涯の婚姻をしない約束をする制約魔法の使われた紙のサインを確認し、それを受け取って保管することにした。誓約書の紙が手に重く感じるが、これで一件落着だ。俺は闘技場を後にし、アスカリの冷たい石畳を歩いて民家に向かう。寒風がコートをはためかせ、遠くの観客席のざわめきが薄れていく。

 その夜、俺はとある民家であの女を呼び出した。厚手の灰色コートを羽織り、深紅の長袖シャツと黒いズボンで室内に入る。暖炉が小さく燃え、木の床には微かな埃が舞ってる。誰も住んでねえはずのこの家は、想像以上に綺麗だ。持ち主が定期的に掃除してるのがよく分かる。懐かしさが胸に込み上げ、俺は部屋を見渡す。壁に掛かった古い絵や、隅に置かれた小さな木馬が目に留まる。十年以上前の記憶が蘇り、胸が締め付けられる。


「アクイラ? 私なんかに何か用? それに…………わざわざもう誰も使っていないこの家に」


 セリカが現れる。彼女は黒い毛皮のコートに藍色のメイド服を着てて、暖炉の光がその姿を柔らかく照らす。藍色のスカートが少し揺れ、暖かい室内でコートを脱ぐと、スリムな体にメイド服がぴったりと沿ってる。俺はオクトに書かせた誓約書をセリカに見せる。


「もうしたくない結婚をしなくていいんだ」

「えっ? どういうこと?」


 セリカが目を丸くする。状況が呑み込めてねえようだ。


「お前さ、キャプテンオクトに負けて無理やり婚約させられただろ? 今日、俺があいつに勝って生涯独身でいる約束をさせた書類だ。制約魔法も使われていて、この紙がなくならねえ限り破棄できない」


 セリカが目を見開く。俺は続ける。


「もうしたくない結婚をしなくていいんだ」


 その瞬間、セリカの目から涙があふれ始めた。藍色のメイド服の裾が微かに揺れ、暖炉の火が彼女の涙を照らす。彼女の頬を伝う涙が床に落ち、小さな音を立てる。俺が用意したこの書類にはキャプテンオクトの署名があるだけだが、これは正式な誓約書だ。教会も認めてる。セリカは自由になったのだ。


「アクイラぁ……ありがとう」


 セリカが泣きながら俺に抱き着いてくる。俺も優しく抱き返す。彼女の体温がコート越しに伝わり、懐かしい感触が胸を締め付ける。藍色のメイド服が俺の腕に擦れ、柔らかい感触が心地いい。


「一つ聞いていいか? 何故あんな卑劣なトーナメントに出場した? 女が出ればその場でひどい目にあったかもしれないんだぞ?」


 あのトーナメントは試合後にその場で性行為をした選手が過去にいたことから、女性の出場があからさまに減った。どんなに卑劣な命令でもルールはルールで、誰も止められなかった。俺の問いに、セリカが少し俯いて答える。


「…………どうしてもお金が欲しかったの。お嬢様に事情を話したけど、自分で何とかすべき問題と言われてしまい、一番まとまったお金が入る手段だったから」

「なんで必要になったんだ?」

「この家を正式に買うためよ。あと少しで取り壊しが決まったの」

「………………………………そうか」


 その言葉を聞いて、俺は何も言うことはできなかった。俺にとって特別なこの場所は、セリカにとっても特別なのは分かってた。今は借家として借りてる状態だ。暖炉の火が静かに揺れ、部屋に懐かしい静寂が広がる。窓の外から冷たい風が微かに聞こえ、昔の記憶が頭をよぎる。

 それでも、あの日から中は何も変わっていない。十代前半の女の子が好みそうな部屋には、色褪せた花柄のカーテンが掛かり、十歳に満たない男の子が遊んでそうな部屋には、木の玩具がそのまま残ってる。そんな二人の幸せを願うような、優しい大人と呼ぶにはまだ幼さの残る女性の顔が浮かんだ。彼女の青い髪と青い瞳は、まるで澄んだ湖のように輝いてた。俺の胸に温かな思い出が蘇り、暖炉の火が一瞬強く揺れる。

 彼女は水をイメージした淡いブルーのシルクブラウスを着てた。首元と袖口には白いレースが施され、波のようにゆったりとしたデザインで、袖はふんわりと広がり手首で絞られてた。そのブラウスは彼女のスリムな体に優しく沿い、優雅さを一層引き立ててた。スカートは同じく淡いブルーのシルクスカートで、裾には水しぶきをイメージした白とシルバーの刺繍が施され、歩くたびに優雅に揺れてた。特徴的なのは、シルバーとアクアマリンで作られた繊細なネックレスとイヤリング、シルバーのブレスレットだ。そのアクセサリーは彼女の清廉な印象を引き立て、彼女らしい雰囲気を纏ってた。

 彼女の姿を思い出すと、あの日の情景が鮮やかに蘇る。暖炉の火が小さく鳴り、部屋に静かな温もりが広がる。彼女の微笑みは今も胸に焼き付いてて、俺の心を温かくする。

 その彼女こそ、俺たち姉弟の育ての親、先代水の聖女アクアリア様だ。彼女はセリカより少ししか年も変わらないのに、両親に捨てられた俺たちを拾ってくれた恩人であり、俺の初恋だった。彼女のおかげで俺たち姉弟は救われた。そして、アクアリア様はもうこの世にいねえ。あの日、目の前には冷たくなった彼女がいて、血まみれのセリカがいて、俺は何もできなかった。暖炉の火が一瞬弱まり、過去の無力が胸を締め付ける。

 大人になった今なら分かる。あの人は間違ってなくて、セリカも悪くなくて…………俺が悪かった。俺はそんな自分を認められなくて、それでも自分じゃ生きていくことも碌にできなくて、初めてカイラさんから戦い方を教わって、強くなったと慢心した俺はアスカリの街を飛び出した。部屋の隅に置かれた古い椅子が微かに軋み、静寂が重くなる。暖炉の火が小さく揺れ、過去の記憶が頭をよぎる。

 当時十二歳だった幼馴染のアカンサにだけ行く先を告げると、旅立ちの支度を手伝ってくれた。窓の外で風が木々を揺らし、静かな夜が深まる。そして、姉であるセリカに何も告げず、アスカリの街に戻ることもなかった。俺はセリカの肩を抱きながら、暖炉の火を見つめる。今、こうやって姉弟でここにいるのが、まるで奇跡みたいだ。暖炉の火が静かに燃え続け、俺たちの過去と今を照らし出す。

名前: アクアリア

二つ名: 先代水の聖女

一人称: 私

性別: 女性

享年: 17歳

容姿: 青い髪と青い瞳、水をイメージした装い

体型: スリム

出身: アスカリ

身分:聖女

傭兵ランク: 中級傭兵ランクエメラルド

職業: 聖女

武器: 鞭

属性: 水

趣味: 水泳

特技: 情報収集

好きな食べ物: シーフード

嫌いな食べ物: 油っこいもの

家族: アクイラとセリカ(育ての姉弟)

背景: アスカリで一般人として生まれ、聖女となり、アクイラとセリカを育てた後、17歳で逝去

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