第3章14話 幸か不幸か
テミスの街での依頼を終えて、ルナリスの街に帰ることになった俺たち三人は、馬車の待合広場にいた。広場の石畳が朝露で少し濡れてて、馬のいななきが響いてくる。風が冷たくて、朝の空気が体に染みる。俺の手には、ベラトリックスからもらった大地と調和の指輪が嵌まってる。黄色の宝石が朝陽にキラッと光って、なんか力が湧いてくる気がする。地の聖女の祝福ってやつだな。ありがたく貰っておくか。あと、これ失くしたら処刑されそうだし、気が抜けないな。
俺が一人で今後のこと考えてると、ルーナがすり寄ってくる。彼女は薄紫のオフショルダーブラウスに白い膝丈スカート、白銀のサンダルを履いてる。ブラウスが肩を大胆に露出してて、動きやすそうな感じだ。小動物みてえに甘えてくるのが可愛いんだが、大きさは成人女性だ。俺の腕に彼女の体が当たって、柔らかい感触が伝わってくる。
「どうした?」
俺が尋ねると、ルーナは答えずにただ抱きついてくる。ぎゅっとしがみついて、そのまま離れようとしねえ。仕方ねえなって思いながら、俺は彼女の銀髪を撫でてやる。指に絡まる髪がサラサラで、甘い香りが鼻をくすぐる。そこに、遅れて一人がやってきた。
「アクイラ!」
「テラ…………」
そこにいたのはテラだった。彼女は赤いクロップトップに黒のフレアスカート、膝下のレザーブーツって格好だ。トップが腹と肩を露出してて、鍛えた体が朝の光に映えてる。大荷物を抱えてる様子から、テミスの街を出ていくつもりらしい。足音が石畳に響いて、ちょっと緊張した空気が流れた。
「テラ、お前もこの街から出るのか?」
「うん…………僕も…………ルナリスに行く。パーティに入っても…………良いかな?」
俺は少し考える。テラは昔俺とパーティを組んでたし、信頼できる奴だ。戦力としても、昔以上に強くなってて頼りになる。今の俺たちのパーティは、前衛の俺に後衛のセレナ、回復職で近中距離のルーナの三人だ。前衛がもう一人欲しかったところに、テラはぴったりだ。
「いいよ。歓迎する」
ちょうど馬車がやってきた。馬の蹄が地面を叩く音が響いて、荷台がガタガタ揺れる。馬車が止まると、馬具の軋む音が静かに響いた。俺たち四人は馬車に乗り、ルナリスの街へと帰る。道中は特に何も起こらず、馬車の揺れに合わせて少し眠気がくる。窓から見える景色がのんびり流れて、ちょっと落ち着いた気分だ。無事にルナリスの街に到着すると、俺はテラに聞く。
「そういえば、テラはどこに住むんだ?」
「……………………決めてなかった」
行き当たりばったりだな。でも、まあいいか。俺の家にはルーナ用に用意した部屋が一つ空いてる。結局、ルーナが俺の部屋で寝るせいで使われてねえんだ。
「俺たちは数人で一緒に住んでてな。空き部屋もあるから、お前さえよければ来いよ」
「うん……ありがと」
俺たちは四人で家へと帰る。街の喧騒を抜けて、木造の家が見えてきた。家の周りには少し草が生えてて、懐かしい匂いがする。家に着くと、リーシャとエリスが出迎えてくれる。リーシャはエメラルドグリーンの長袖ブラウスに深緑の膝丈スカート、黒いローヒールだ。ブラウスの裾がふわっと広がって、落ち着いた雰囲気が漂う。エリスはライトブルーのノースリーブブラウスに白いフレアスカート、茶色のショートブーツって格好で、元気な感じが溢れてる。二人とも私服で、普段の戦闘姿とは違った柔らかい印象だ。エリスは俺の顔を見るなり飛びついてきた。
「おかえりなさい、アクイラさん! もう帰ってこないのかと思いました!」
「大袈裟だな」
俺は苦笑する。エリスは頬を膨らませて抗議してきた。
「だって、アクイラさん全然連絡してくれないんですもん! 心配しましたよ!」
「悪かったって」
俺は謝りながら、エリスの頭を撫でる。彼女の黒髪が指に絡まって、柔らかい感触が心地いい。エリスは嬉しそうに笑う。そんな俺たちの様子を、ルーナが羨ましそうに見てるのに気付いた。
「ルーナ、どうした?」
俺が聞くと、彼女は恥ずかしそうに答える。
「私も……撫でて欲しい」
俺は苦笑しながら、ルーナの頭も撫でてやる。銀髪がサラッと指を滑り抜けて、彼女は嬉しそうな表情を浮かべる。目を細めて俺を見つめる姿が可愛くて、思わず手を伸ばして彼女の肩を軽く叩いた。ルーナが「ん……」と小さく呟いて、俺にすり寄ってきた。
俺たちはリビングに移動する。ソファーに座って、リーシャたちにテラを紹介した。
「リーシャ、エリス。こいつはテラ。俺の昔の仲間で、今日から一緒に住むことになった」
「地剣のテラ…………よろしく」
テラが手を差し伸べる。最初にリーシャが手を握り返す。
「私は突撃のリーシャだ。アクイラとは友人でね。パーティは組んでいないが、ルナリスの街にいる間はこちらの部屋を借りてる予定だ」
「私は華の射手エリスです! リーシャと一緒にパーティを組んでます」
お互い握手を交わす三人。テラは二人の顔を覚えると、小声で呟く。
「よろしく」
テラが俺の方を向いて質問してきた。
「それで…………誰がアクイラの奥さん?」
「ああ、リーシャだ」
「いや…………君の奥さんにはなってないが?」
リーシャが困惑した様子で言う。
「じゃあエリス?」
「違いますよ! 私はアクイラさんの友人です!」
エリスが慌てて否定する。テラは首を傾げて俺を見た。
「じゃあ誰?」
「私」
「アタシ!」
ルーナとセレナが手を挙げる。嫁二人か……ここまで来たら、リーシャとエリスもどうですか? なんて言えねえよな。俺は思わず苦笑いしてしまった。テラは呆れたようにため息を吐く。
「アクイラ……お前とんでもない女誑しだな」
「そうだな、俺も本当にそう思うよ」
俺はテラに笑いながら返す。
「お前はどうする?」
「僕は…………」
テラはその先を口にしなかった。その夜、みんなで食事を楽しむ。テーブルに並んだスープやパンがいい匂いを漂わせて、賑やかな笑い声が響く。風呂の時間になると、俺は一人で修練場に向かった。仲間が増えるってことは、何かあった時に失うものも増えるってことだ。強くなることを止めちゃいけねえ。
セレナとの合体魔法で蒼炎焔の鎧を、テラとの合体魔法で翠炎焔の鎧を手に入れた。でも、これは俺の力じゃねえ。もっと強くなれるはずだ。炎焔の鎧しか使えねえなら、それだけを磨き上げてやる。防御魔法の範囲を超えるくらいに鍛えねえと。
修練場で汗を流してると、誰かが近づいてくる足音が聞こえた。夜の静寂に響く音が、ちょっと緊張感を帯びてる。
「アクイラ」
俺を呼んだのはテラだった。彼女は薄緑のノースリーブトップに黒の膝丈スカート、黒のロングブーツって格好で、夜風に髪が揺れてる。月明かりに照らされた姿が、どこか儚げだ。俺はテラに近寄る。彼女は申し訳なさそうな顔で俺に近づいてきた。
「どうした?」
「一年前のことを話したい」
「お前がしゃべりたがるとはな。聞くよ」
俺は修練場のベンチに座るよう促す。二人で並んで腰掛けた。木のベンチが少し冷たくて、夜の空気が肌に触れる。テラはゆっくりと語り始める。一年前、俺とテラがパーティを解散した時の話だろ。
「アクイラは気付いてたよね。僕がアクイラのことがずっと好き」
彼女は俺の目を見つめる。瞳が潤んでて、夜の闇に映える。俺は彼女の頬に手を伸ばす。テラはその手に自分の手を重ねてきた。温かい感触が伝わってくる。
「まあ、嫌われてねえとは思ったさ」
あの頃から、テラの行動はよく分からなかったが、好かれてる確信はあった。
「僕は……アクイラが好き。あの時も今も…………でも、アクイラが好きなのは僕じゃなかった」
「…………そうだな」
テラの言ってることは分かる。俺は特定の誰かを愛して特別扱いしたことはねえ。別に誰も愛せねえ訳じゃねえんだ。
「誰から聞いた?」
「…………君の幼馴染」
アイツかよ……まあいいか。俺は一呼吸置いて話を続ける。
「それで? 俺が誰も愛してねえのに女誑しでうんざりしたって?」
「それも…………あるかな。でも、僕じゃ代わりになれなかったから…………それがちょっと辛かったかな」
テラが寂しそうに言う。一年前、俺にもっとも近かった女はお前だったんだぜ。
「今回ついてきた理由は?」
「…………今の君は…………誰かを愛そうとしてる。昔と変わらないところもあるけど…………変わろうとしてる。だから一緒にいたい。僕を…………愛して欲しいと思った」
テラが切なげに言う。彼女は俺の手を強く握る。俺は彼女の瞳を見つめ返して、微笑んだ。
「俺はさ…………人並みに女を愛してるつもりだよ。失うのが怖いんだ。失わねえ方法が分からねえ。弱かったから失った。学がねえから失った。富がねえから失った。でも、運があったから…………出会えたんだろ。お前さ、俺と出会えたのは幸運か不運か、答えは出てるか?」
「そうだね…………不運かな?」
テラがそう言って、俺たちは唇を重ねた。彼女の柔らかい唇が触れて、温かい吐息が混じる。俺はテラをベンチに押し倒す。彼女をぎゅっと抱きしめると、テラは抵抗せずに俺の背中に手を回してきた。俺たちは口づけを続ける。しばらくして唇を離すと、テラは顔を赤くして俺を見つめてる。
「アクイラ……大好き」
俺は彼女の首筋に軽くキスをする。テラが小さく息を漏らす。俺はそのまま彼女を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「俺もだ」
テラが嬉しそうに微笑む。俺は彼女の頭を撫でて、もう一度軽くキスをする。彼女が少し照れた顔を見せたけど、俺を受け入れてくれる。やがてテラは俺の首に腕を回して抱きついてきた。俺は彼女の背中に手を回して抱きしめ返す。そのまま彼女を抱き上げると、お姫様抱っこで寝室へと向かう。
「テラ、好きだよ」
俺は彼女をベッドに寝かせて、その横に座る。もう一度キスをして、お互いを抱きしめ合った。彼女のトップを脱がせると、白い肌が現れる。鍛えた体が月明かりに映えて、きれいだ。俺も服を脱いで、彼女のそばに横になる。テラの手を握ると、彼女が俺の手を握り返してきた。
「少し眠いな」
俺が言うと、テラが小さく頷く。
「うん……僕も」
俺たちはそのままベッドで抱き合って、眠りについた。夜の静けさが部屋を包んで、穏やかな時間が流れる。
■アクイラパーティ
・アクイラ、ルーナ、セレナ、テラ
■リーシャパーティ(半アクイラパーティー)
・リーシャ・エリス
■カイラ親衛隊
・カイラ、レン、ナリア、ミズキ、ユウキ
■地の聖女ご一行
・ベラトリックス、シルヴィア、ネレイド
■風の聖女ご一行
・ゼフィラ、マーレア、レグルス
■火の聖女ご一行
・ヴァルキリー・アカンサ・グレイス
■イグニスパーティ
・イグニス・ヴァルカン・ゼファー
■ソロ・休養
・イオン




