第3章13話 大地と調和の指輪
目が覚めると、俺は広いベッドの上にいた。ふかふかのマットレスが体を包み込んでて、宿屋の粗末な寝床とは全然違う。隣にはルーナとセレナが寝息を立ててて、壁にはテラがもたれかかりながら座って寝てる。部屋の空気が静かで、微かに花の香りが漂ってくる。ここ、どこだ?
起き上がって声の方向を見ると、ネレイドさんがそこにいた。彼女は豪華な部屋の扉の近くに立ってる。青いノースリーブトップに黒の膝丈フレアスカート、黒のロングブーツって格好だ。トップの胸元が少し開いてて、細い鎖骨が目に入る。
「おはよう、アクイラ君」
「おはようございます。…………勝ったんですね」
「ああ、君があの半人魔将フェリシアスを倒したんだよ」
ネレイドさんが教えてくれる。どうやら俺は気を失ってたみたいだが、その後俺が倒したらしい。頭がまだぼんやりしてて、記憶が曖昧だ。
「……いや、俺だけじゃないですよ。イオンもいましたし……ネレイドさんとテラがいなければ勝てませんでしたから」
俺は三人の魔将を偶然討伐してるだけの、中級傭兵に過ぎねえ。俺一人じゃ勝てるはずもねえよ。
「そういえば、俺はどれくらい寝てました?」
ネレイドさんは顎に手を当てて考える仕草をする。
「二日だな」
そんなに経ってたのか? 体がだるくて腹がペコペコだ。
「腹減ったな」
「アクイラ君、君はもう二日も寝てたんだ。何か食べてきた方がいい」
俺は少し考えて答える。
「ここに食事を運んでもらえますか? ルーナが目覚めた時に、俺がいた方がいいので」
俺は隣で眠るルーナの頭を撫でてやる。銀髪が指に絡まって、寝顔が可愛すぎる。ネレイドさんは食事の手配とベラトリックス様に俺が目覚めたことを伝えてくると言って、部屋を出る。そうか、ここは地の聖女の館か。豪華な内装や調度品が納得だ。
ドアがノックされて、運ばれてきたのは食事と地の聖女だった。いや、運んできたんじゃなくて、文字通り運ばれてきたんだ。給仕の娘たちがベラトリックス様を担いで入ってきた。ここのメイドちゃんたち、止めろって。
「何してんですか、アンタ」
「食べて…………頂けるとお聞きしまして」
ベラトリックス様は頬を染めて恥ずかしそうに言う。彼女は深緑のロングドレスを着てて、金の刺繍が豪華さを際立たせる。胸元が少し開いてて、華奢な体が印象的だ。俺はその言葉を無視して、運ばれてきたスープとパンを食べ始める。温かいスープが腹に染みて、生き返る気分だ。しばらくすると、テラが目を覚ます。
「目覚めたのか…………アクイラ」
テラが心配そうな表情でこっちを見る。彼女は赤いノースリーブトップに黒の膝丈スカート、黒のロングブーツだ。トップが肩と胸元を露出してて、鍛えた筋肉が汗で光ってる。俺は少し気恥ずかしくなる。
「ああ、心配かけたな。俺は大丈夫だ」
テラは安心したのか、胸を撫で下ろす。
「アクイラ……僕ね、アクイラが死んじゃったらどうしようかと思ったの」
確かに俺もそう思ったし、一瞬死んだ気さえしてた。だが、こうして生きてるんだ。
「いつもより口数が多いな…………」
「うるさい…………でもさ……アクイラが生きててよかったよ」
テラが笑う。その笑顔に少しドキッとするが、すぐに頭を切り替える。食事を終える頃、ルーナとセレナも目を覚ました。
「アクイラさん!」
「アクイラ!」
二人は当然みてえに飛びついてくる。ルーナは白いシルクのブラウスに青い膝丈スカート、白銀のショートブーツだ。ブラウスに月と星の刺繍が施されてて、動きやすそうだ。セレナは緑のクロップトップに茶色の膝丈スカート、編み上げブーツって格好で、腹が露出してて活発な雰囲気が漂う。起きたばかりの体を揺らされるが、柔らかい感触に免じて許してやる。
「目覚めないかと思った!」
「アクイラ死んじゃったのかと思ったよ!」
「ああ、悪かったな。でもこうやって生きて帰ってきただろ?」
俺は二人を安心させるように笑顔を向ける。二人は少し照れながら答える。
「ん、生きてる」
「ほんと、無事でよかった……」
そんな俺たちの姿を見て、ネレイドさんとベラトリックス様は微笑んでる。食事を終えた俺たちは、ベラトリックス様に礼を言う。
「悪いな、部屋を借りちまって」
「いえ、このお返しはプロポーズで返していただければ」
「…………? そういえばイオンはどこに行ったんだ?」
俺はベラトリックス様の言葉を無視して、テラに質問する。テラが答えてくれる。
「イオンはしばらく声を出さない生活をするために休暇」
「そ、そうか。そういう休暇もあるんだな」
イオンは休暇か。あの人なら姿を消す魔法だけで俺より強いと思うけどな。そしたらテラは……いや、そもそもずっと疑問だったことが頭をよぎる。
その日、俺たちは地の聖女の館に泊まることになった。日中はルーナが一切離れてくれなくて、ずっと俺にくっついてた。夜、食事を終えて浴場に向かうと、脱衣所でベラトリックス様がタオル一枚で待機してた。彼女の黒髪が肩に流れ、深緑の瞳が俺をじっと見つめてくる。ルーナはまだ俺の腰にしがみついて離れねえ。
「聖女様、御戯れはここまでにしてください」
「なぜです? 嬉しくないのですか?」
まあ、正直一緒に入りたい。セレナやテラ、シルヴィアさんやネレイドさんとも入りたいし、メイドちゃんたちともだ。だが、聖女様と風呂に入るってのは何か危ねえ気がする。そんなくだらないことを考えてると、脱衣所に別の連中が入ってきた。
「あれ? アクイラまだ入ってなかったの? って聖女様早過ぎでしょ」
そこにはセレナとテラ、それにシルヴィアさんとネレイドさんがいた。セレナとテラは俺の前で普通に脱ぎ始める。セレナがクロップトップを脱ぐと、薄緑のブラが露わになり、スカートを下ろすと動きやすい姿になる。テラはトップを脱いで赤いブラを見せ、スカートを脱いで鍛えた体が目に入る。ルーナも俺の服を脱がし始める。みんなくるなら変なことは起こらねえか……いや、現状が変なのは置いといて。俺はルーナのブラウスを脱がし、スカートを下ろしてやる。彼女の華奢な体が目の前に広がる。俺は先に大浴場に向かう。
もう突っ込むのはやめよう。正直、得してるのは俺なんだし。
大浴場で体を洗うために移動すると、タオル一枚のルーナとベラトリックス様がついてきた。俺が椅子に座ると、ベラトリックス様は真後ろに座り、ルーナは前に来る。
「それでは私はアクイラ様の御背中をお流ししますね」
「私は…………前」
ルーナが遠回しに言うのに、俺はクスッと笑う。恥じらいがあるんだな。ベラトリックス様はタオルを手に持って、俺の背中を丁寧に洗い始める。背中に触れる柔らかい手が心地いい。
「おい、タオルで洗えって言っただろ」
「その方が気持ちいいかと思いまして」
そんなこと言ってる間も、彼女の手が背中を滑る。すると、ルーナが俺の肩に手を置いて、前から体を拭き始めた。細い指が肩を撫でて、ちょっとくすぐったい。
「おい、ルーナ」
「私が洗ってるの」
ルーナが真面目な顔で言う。まあ、いいか。彼女の優しい動きに癒される。
「あ、あのアクイラ様。私のもお願いします」
ベラトリックス様が俺の前に座り、背中を見せてくる。俺は彼女の背中をタオルで洗い始める。華奢な肩と白い肌が目の前に広がって、聖女の素肌をこんな間近で見るなんて、取り返しのつかねえことしてる気がする。ルーナが俺の肩を拭き続ける中、俺の手がベラの背中に触れるたび、少し緊張が走る。
「聖女様、こんなことして大丈夫なんですか?」
ベラトリックス様は振り返ってニコリと笑う。
「アクイラ様がいてくれるなら、私は安心です」
その笑顔にドキッとしつつ、なんかまずい雰囲気を感じる。すると、シルヴィアさんとネレイドさんがタオル一枚で現れた。二人の視線がこっちを向いてて、俺の背筋が冷たくなる。これ、やばくねえか?
俺はジェスチャーで二人に尋ねる。彼女たちは明後日の方向を向く。え? これ何か間違ったら大変なことになるんじゃねえか? そんなことを考えてると、ベラトリックス様が立ち上がって俺に近づいてくる。
「アクイラ様、私と一緒にお湯に浸かりませんか?」
俺は一旦彼女を止める。シルヴィアさんとネレイドさんを見る。さすがにまずいと思ったのか、シルヴィアさんが俺の耳元に寄ってくる。
「もし…………ここで聖女様と何かするなら、これだけは頭に入れておいてください」
「え? 何ですか?」
「聖女様に触れるのは、神の代理である聖王様だけでいいとされています。現在、その席は空席です。聖王になられるなら……続けてください」
え……つまり、俺は聖王にならねえといけねえのか? 聖王が空席なんて初めて聞いたぞ。教会が聖王の正体を明かさねえのは、こういう事情もあるからか?
「俺が……その、聖王になったら……?」
「聖王国内に限り、何をしても神の教え、神の恵み、神からの天罰として処理されます。他国でも教徒の皆様への行為は同義とされ、それは王侯貴族でも適用されます」
暴君じゃねえか。だが、そう聞くと悪くねえ。俺は魔将や半魔人、合計三名の討伐に主戦力として参加してるしな。
「聖王になる条件は?」
「すべての聖女に認められてください。今、ベラトリックス様に触れることで、地の聖女から認められたことになります」
触れることが条件なら、拒まれる可能性も高い。
「もし四人のうち一人でも認められなかったら?」
「聖王として認められず、一人でも聖女様に触れていた場合、資格なき者による冒涜として、処刑となります」
処刑か……俺は少し考える。テラ、セレナ、ルーナを見る。ルーナの表情が少し暗かった。俺の推測が正しければ、俺はもう処刑から逃れられねえ手遅れの状態かもしれねえ。さっきベラの背中を洗った時点で、聖女の素肌に触れちまった。それに俺には…………俺の視線はルーナの方に向けられる。………………………………決めた。
この試練、強制的に受けさせられてるみてえだ。懸念はあるが、処刑は嫌だ。やるしかねえ。
「分かりました。聖王を目指します」
ベラトリックス様が嬉しそうに微笑む。
「アクイラ様、ありがとうございます。私、嬉しいです」
俺は彼女の言葉に軽く頷く。湯船に浸かる準備をしながら、心の中で覚悟を決める。ベラの素肌を見ちまった以上、もう後戻りはできねえ。
風呂上がり、俺は聖王の件を考える。処刑かぁ。聖王になったら自由がなさそうな上、もうそのレールに乗せられてるんだもんな。
俺はくっついてるルーナの頭を撫でながら考える。仕方ねえ、処刑は嫌だし……ゆっくり目指すか。
聞くところによると、現在聖王は空席で、聖王国はそもそも聖王の存在を公にしねえ。だから周辺諸国に認知されてねえらしい。現状、聖王国のトップは火の聖女、風の聖女、地の聖女の三名で、水の聖女は空席だとか。
そのため、暫定として火の聖女、風の聖女、地の聖女の三人から認められれば、聖王にはなれねえが処刑もされねえらしい。水の聖女さえ現れなけりゃ、とりあえず死なねえし、聖王にもならねえ感じか。まあ、だったら仕方ねえ。まずはルナリスに常駐してる火の聖女からだな。
そして、俺はベラから祝福の証である大地と調和の指輪を受け取った。黄色の宝石が大自然の力強さを感じさせて、指に嵌めると不思議な温もりが広がる。これが一歩目か。
■大地と調和の指輪
地の聖女からの祝福を受けたこの指輪は、大地と調和の象徴。その指輪は、黄色の宝石によって大地の息吹を表現し、その輝きは自然の豊かさと生命力を想起させる。
指輪が身に着けられると、その持ち主は地の聖女の祝福を受け、強靭な肉体の力を得る。
黄色の輝きは、植物の生命力や大地の安定した存在を象徴し、持ち主に平穏と安定をもたらすとかなんとか。
この指輪は、大地の恵みと調和を求める者にとって、心の支えとなると聖書に書かれていたりする。




