第3章5話 静寂のイオン
翌朝、俺たち三人は準備を整え、傭兵ギルドに向かうことにした。宿の狭い部屋で目を覚ますと、窓から差し込むテミスの朝日が眩しい。俺は黒のレザーベストに赤い長袖シャツ、動きやすい灰色のズボンを履いてる。膝下まである革ブーツが床を叩き、右手首にはカイラさんからもらった炎の紋様が刻まれた革バングルが光る。馬車での長旅に備え、薄い防塵マントを肩に掛けてる。昨日、テラとイオンに会う約束を取り付けた手応えがまだ残ってる。
ルーナとセレナはまだベッドで眠ってる。ルーナは薄い青のロングシャツに白い膝丈スカート、足元に白銀のショートブーツを脱ぎ置いてる。シャツはゆったりしてて、胸元に月の刺繍が施され、幻想的な雰囲気を漂わせる。スカートは軽やかで馬車移動でも動きやすい。首には月の装飾付きチョーカーが光る。セレナは緑のタンクトップに茶色の膝丈スカート、膝下のレザーブーツを脱いでる。タンクトップには葉の模様が自然愛を表してる。二人とも馬車での長旅に慣れてるが、朝はのんびりしてる。
「起きろ、準備するぞ」
俺が声をかけると、ルーナが目を擦りながら起き上がり、セレナが伸びをしてベッドから転がり出る。
「アクイラ、もう少し寝かせて」
「ねえ、アタシまだ眠いんだけど!」
ルーナが穏やかに文句を言い、セレナが明るく抗議する。俺は苦笑しながら二人を急かした。
「さっさと準備しろ。今日、テラとイオンに会う約束だ」
テミスの街は昨日と変わらず賑やかだ。石畳の道には商人や市民が忙しく行き交い、市場の喧騒が朝から響いてる。遠くに聖王の宮殿や中央教会の尖塔が見え、街の威厳と活気が混ざり合ってる。宿を出て、傭兵ギルドに向かう道すがら、ルーナが荷物袋を肩に掛け直してると、袋の紐がスカートの裾に引っかかり、白い膝丈スカートがずり落ちた。淡いブルーシルバーのショーツが丸見えになり、白い太ももが露わに。
「あっ…………」
俺は視線をしっかり彼女の下半身に這わせた。ルーナは慌ててスカートを引っ張り上げ、顔を赤くして荷物袋を地面に置いた。
街行く男たちがチラチラ見てるが、俺は気にせず歩き続ける。
傭兵ギルドに着くと、昨日と同じ喧騒が広がってた。木製のテーブルには酒の染みが残り、壁には依頼書が雑に貼られてる。入り口近くにテラが立ってて、その隣にはもう一人、茶色いシャツにダークグレーのズボンを履いた細身の男がいる。ゴツいブーツに大きめの銃を持ってる。おそらくあれが静寂のイオンだろう。故人の可能性があり、偽物の可能性がある男。俺たちの調査対象だ。テラは赤いショートジャケットに黒の膝丈スカート、黒のレザーブーツを履いてる。ジャケットは肩が開き、金のラインが力強さを強調し、スカートは動きやすさを優先したシンプルなデザインだ。イオンは灰色のロングコートに黒のズボン、足元に革のショートブーツだ。コートには細い銀の装飾が施され、銃士らしい実用性と静かな威圧感がある。
「…………」
「…………」
「…………」
文字通り、静寂だ。最初に誰が口を開くかと思えば、セレナだった。
「テラちゃん! おはよう!」
「…………うん」
そしてテラも無口だ。ついでに言うなら、ルーナもあまり喋る方じゃない。心を開いていない警戒状態のルーナなら割と流暢に喋れるのだが、俺に心を開いてから安心しきってるのか口数が減ったからな。
「あんたがイオンか?」
「…………」
イオンは頷く。本当に喋らないやつだ。
「俺はアクイラだ。今日はよろしく頼む」
俺がそう言うと、イオンは右手を出したので、それを握って握手する。
「…………」
相変わらず喋らないが、これでコミュニケーションは取れただろう。そして本題に入ることにした。確かにこいつなら、人間の中に紛れ込んでもバレにくい。記憶が共有できても違和感は生まれる。マーレアさんとレグルスの件がまさにそれだろう。微妙な違和感があれば疑われる。
「この様子だとテラから話は聞いているみたいだな。昔の知人のパーティメンバーにちょっと会ってみたかったんだ。あんた強いんだって?」
「…………」
イオンは何も言わない。もしこいつがレグルスの中身と共有できているなら、俺を知ってるはずだ。殺したいはずだ。ならばどこかで隙を見せるのもいいだろう。
「と、とりあえず行こうか」
何も喋らないイオンに痺れを切らし、俺がそう言うと、四人はついてくる。これから行くのは、テミスの街の近くにある森だ。ここで狩るのはヴィルディボスという緑の魔牛だ。森にいる魔獣の中でもかなり危険度が高いらしい。道中、しゃべるのは俺とセレナだけだった。森への道は石畳から土の道に変わり、馬車の跡が残る埃っぽい地面が続く。木々の間から朝日が漏れ、遠くに鳥の声が響いてる。
「イオンはどんな風に戦うんだ?」
「…………」
「イオンは銃撃。近接も銃」
気になったので尋ねると、テラが答えてくれた。そもそもイオン自体あまり喋るほうではないらしい。
「いや、なんで喋らないんだ? 喋ってもいいんじゃないか」
「…………」
「イオン……制約魔法、声を出していない時間分。強化」
なるほどな。制約を設けることで自身を強くする魔法だ。リーシャが使う魔法に後退をしなければしないほど前進すればするほど強化される、まさに突撃の名にふさわしい魔法がある。無属性の魔法は制約があるものも多く、何かをしない行為が自身への強化に値する場合がある。イオンの無口さはただの性格じゃなく、魔法の制約か。
森にたどり着くと、背の高い木々が茂り、地面には落ち葉や草が生えてて歩きにくい。空気が湿っぽく、木々の間から漏れる光が地面にまだら模様を描いてる。俺は手足を燃やし、突進してくる魔獣の角を掴む。セレナは後方からボウガンを撃ち、魔牛たちを順調に討伐していた。ルーナは俺の後ろに立ってロッドを水の槍に変化させ、俺と一緒に討伐する。
テラが魔法を詠唱する。
「大地よ、我が呼び声に応えて金属を集め、剣を創り出さん。金属創刀」
テラの手元に大きな大剣が生成される。彼女はゆっくり歩くと、魔牛たちがテラにまっしぐらだ。それをテラは横薙ぎ払いでバターのようになぎ倒す。刃が魔牛の硬い皮を切り裂く音が森に響き、血と土の匂いが混じる。テラの実力はもうほとんど中級傭兵相当だ。そして魔牛の群れがまだ襲い掛かる。イオンが動いた。
「音よ、姿よ、我が呼び声に応えて消え去れ。音姿消滅」
初めて喋る言葉は詠唱。おそらく彼が唯一許された声なのだろう。もう彼の姿はない。目の前から人が消える瞬間は見慣れてる。カイラさんがよくやる戦法だ。でもその消え方はカイラさんの時と違う感じがした。カイラさんはもっとまるで移動するように消えるんだ。そして彼女との決定的な違いは、消えた瞬間に勝負がついてることに対し、イオンはまだ仕掛けていない。消えただけだ。だが、イオンの消え方は光が通り抜けるような感覚で、俺の目に残像が残る。
「すげえな」
そして魔獣の群れは内側から一頭ずつ銃殺される。頭部を、腹部を、脚部を撃ち抜かれる。確実に一体ずつ。銃声が森に響き、血が地面に飛び散る。彼の魔法は音も姿もない。何もわからないまま撃たれるだけだ。
すべての殲滅が終わったタイミングで、死骸の真ん中にイオンが立っていた。こいつは上級傭兵の中でも上澄み、特級傭兵に達する可能性のある男だ。いや、男だった。仮にこいつが偽物だとしたら、俺たちは生存できるのか? そもそも今、俺たちは消されるんじゃないか?
俺はセレナの肩に手を触れる。事前に決めた合図だ。セレナは頷く。イオンが消える様子はない。ただ、こいつが消えたら次は油断しない。まだ油断を誘ってるのか。俺たちの様子を向こうも伺ってるのか。
「ま、とりあえず帰ろうぜ」
奴が動かない以上、俺は何も出来ない。俺がそう言うと、セレナとテラが頷く。ルーナは頷きはしないが俺についてくる。イオンは何も言わない。こいつを最後尾にはできないから、隊列は先頭がテラ、次にイオン、そして俺とルーナ、最後尾がセレナだ。なんとか自然とそういう隊列になるように会話を進めた。森を出る道すがら、セレナがボウガンを肩に担ぎながら歩いてた。すると、彼女が木の根に足を取られ、前のめりに倒れそうになった。慌てて踏ん張った拍子にスカートの裾がボウガンの弦に引っかかり、薄緑のレース付きショーツが丸見えに。引き締まった尻が露わになり、彼女は尻餅をつく。
「うわっ!」
セレナは顔を真っ赤にして立ち上がり、スカートを直しながら俺を睨む。
テラが淡々と前を歩き、イオンは無表情で何も言わない。
テミスの傭兵ギルドに戻ると、受付嬢のお姉さんが元気よく出迎えてくれた。彼女はエメラルドグリーンのロングドレスに白いエプロンを重ね、足元に黒いヒールパンプスを履いてる。ドレスは肩が少し開き、金髪が編み込まれてゆるやかに揺れる。ギルドの喧騒の中、カウンターには依頼書の束が積まれ、酒場の匂いが漂ってる。
「お疲れさまでーす!」
依頼達成の報酬をくれた。銀貨がテーブルに置かれ、鈍い音が響く。報酬の分配はイオンとテラの二組と俺たち三人で半々に分けることにした。最初はテラから五頭分を提案され、イオンも頷いたが、パーティごとに分けて半々にすべきと俺が断った。
この日は特に怪しい動きはない。ただ、イオンの実力を知れたことだけは良かった。こいつが敵になるなら、対策を考える必要がある。宿に戻る道中、セレナが市場で買った野菜をかじりながら歩いてた。俺は二人とテラの背中を見ながら、次の手を考えるのだった。
名前: イオン
二つ名: 静寂のイオン
一人称: 不明(無口のためセリフなし、推測では「俺」)
出身: ヴォルト
年齢: 25歳
職業: 護衛(上級傭兵)
外見: スリムな体型、茶色の髪、灰色の瞳、身長約178cm、細身ながら鍛えられた筋肉。
性格: 無口でクール、理性的で感情を表に出さず、冷静沈着。
戦闘スタイル: 銃を武器とし、音に関連する無属性魔法を多用。敵を音で感知し、迅速かつ正確に仕留める。
得意技: 「音姿消滅」による姿と音の消滅、精密な銃撃。
趣味: 読書、戦術研究
好物: ステーキ(肉好き)
苦手なもの: 冷たいもの
人間関係: テラとパーティを組む。
服装: 灰色のロングコートに黒のズボン、革のショートブーツ。コートに細い銀の装飾、腰に銃のホルスター、灰色のマントで隠密性を強調。




