第3章3話 テミスの街
それから進展があったのは数日後のことだ。その日は俺、ルーナ、セレナの三人でギルドを訪れていた。俺は黒いレザージャケットに赤いラインが入った長袖シャツ、動きやすい灰色のズボンを履いてる。膝下まである革ブーツが足音を響かせ、右手首にはカイラさんからもらった炎の紋様が刻まれた革バングルが光る。最近見かけることの少なかった彼女が、ようやくギルドに現れた瞬間だった。
俺の視線は一際目立つ美しさに引き寄せられた。赤い髪が燃えるような輝きを放つ女性が、ギルドの一角で窓の外を眺めてる。黄色い瞳はまるで炎の中にあるような輝きを放ち、俺の心を掴んで離さない。彼女は赤いシルクのブラウスを着てて、胸元に金の刺繍が施されてる。黒のスリムフィットパンツが華奢な体を引き立て、赤いハイヒールブーツが歩みを優雅に見せる。彼女こそ火の聖女ヴァルキリーだ。
俺が近づいて声をかけた。
「聖女様」
彼女は振り返った。
「アクイラ殿、お久しぶりですね」
聖女と呼ばれるだけあって、彼女は礼儀正しくお辞儀をする。赤髪が肩で揺れ、黄色い瞳が俺をじっと見つめてくる。
「今日はどのようなご用件で?」
俺が尋ねると、彼女は少し間を置いて答えた。
「アクイラ殿とそのご一行ですか。ギルドの奥の部屋をお借りしましょう。内密なお話になりますが、貴方がたはもう部外者ではございませんですからね」
そう言うと、火の聖女は受付嬢のリズのとこに向かい、早速部屋を借りていた。リズは緑のロングドレスに白いエプロンを重ねた姿で、手際よく手続きを進めてる。ヴァルキリーが俺たちについてくるよう促すので、俺たちは奥の部屋へ移動した。部屋に入ると、彼女はソファに腰を下ろし、俺たち三人は対面に座った。セレナは結構近い位置に座り、ルーナは相変わらず俺に密着してる。ルーナは青いシルクのブラウスに白い膝丈スカート、足元に白銀のショートブーツを履いてて、首には月の装飾付きチョーカーが光る。セレナは薄緑のノースリーブトップに茶色の膝丈スカート、膝下のレザーブーツが狩人らしい雰囲気だ。
彼女が口を開いた。
「さて、まずは改めて自己紹介をいたしましょう。私は火の聖女ヴァルキリーです。以後お見知り置きを」
頭を下げる彼女につられて、俺たちも頭を下げた。
「アクイラ殿、中央教会のあるテミスまで向かっていただけますか?」
俺が尋ねた。
「なぜです?」
聖女様はこちらをじっと見つめてくる。左右のルーナとセレナの距離感を気にしている様子だ。
「いえ、ベラトリックスとゼフィラが認めた男です。きっと不純なのは言動だけでしょう。なんでもありません。とにかく貴方は教会から呼び出しを受けています。向かわなければ焼きます。聖火で焼きます」
物騒な単語が聞こえたが、気のせいだろう。とりあえず行くしかないようだ。テミスまで行ってみるか。俺は火の聖女ヴァルキリーに礼を言うと、その場を後にした。彼女からは旅費として大銀貨を一枚ずつ、計三枚ももらってしまった。
俺は受け取った大銀貨を手に持つ。
「大銀貨なんて人生で初めて触ったぞ」
本物か確かめてると、聖女様が首をかしげた。
「そんなに珍しいならもっと渡しますよ?」
俺は慌てて手を振った。
「あ、いえ結構です。あとでなんて言われるかわかりませんので」
丁重にお断りすると、彼女は不思議そうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。
「ではまたお会いしましょう」
こうして俺たちはテミスに向かうことになった。
リーシャとエリスにテミスへ出発することを話すと、二人は今回はルナリスに残るそうだ。リーシャは灰色の長袖トップに黒の膝丈スカート、足元に黒いレザーブーツ。エリスは緑のクロップトップに茶色の膝丈スカート、茶色の膝下ブーツを履いてる。しばらく会えそうにないので、俺は二人の頭を撫でた。リーシャは珍しく頭を撫でられて少し顔を赤くし、エリスは嬉しそうに笑う。俺はルーナとセレナに声をかけ、テミスへ向かうことにした。
テミスの街といえば、地の聖女ベラトリックス様がいる中央教会のある大きな街だ。久しぶりに会うのも悪くない。なお、彼女からは今もラブレターが届いてるが、必要な情報以外すべて無視してる。あ、だんだん会うのが怖くなってきたな。
馬車での移動は長旅だ。俺たちは荷物を積み込み、馬車に乗り込んだ。道中は難なく進んでる。前衛の俺に後衛のセレナ、回復支援のルーナの三人パーティは割とバランスが良い。本音を言うと、前衛を二人にしてルーナを完全後衛にしたい。以前の前衛に俺とリーシャ、後衛にルーナとエリスという布陣は悪くなかったし、前衛ができる奴がもう一人いると安定しそうだ。
馬車の中で、セレナが荷物を整理してると、スカートが棚に引っかかり、勢いよくめくれ上がった。薄緑のレース付きパンティが丸見えになり、彼女は慌ててスカートを押さえた。
「うわっ! 見ないでよアクイラ!」
俺は視線をしっかり彼女の尻に這わせた。ルーナが俺の腕をつねってくる。
「アクイラ、だらしないわよ!」
セレナは顔を真っ赤にして荷物の後ろに隠れた。俺は苦笑しながら馬車を進め、魔獣たちを安定して討伐しつつ素材を回収した。数日ほどでテミスの街が見えてきた。
俺は馬車から降りて街を見上げた。
「さて、久しぶりに会うわけだが」
ちょっと緊張してきた。何せ相手はあのベラトリックス様だ。どういう対応をされるのやら……。街の入り口には大きな門があり、両脇に門番が立ってる。槍を持ち、鎧に身を包んだ厳つい顔の男たちが俺たちを睨んできた。少しビビったが、ランク証を提示すると特に問題なく通してくれたので安心した。
街の中は賑わってて、人通りが多い。店には武器や薬草、色とりどりの布が並び、見てるだけでも楽しめそうだ。俺たちは大通りを歩きながら中央教会へ向かった。ルーナの白いスカートが風に揺れ、セレナの茶色いスカートが軽快に翻る。しばらく歩くと、大きな建物が見えてきた。あれが中央教会だろう。俺は扉を開き、中に入ることにした。建物の中は広く、椅子やテーブルが大量に並べられてる。大きな教会だ。
俺の元に向かってきたのは、蒼い髪に海色の瞳のしなやかな体つきの女性だった。彼女は海色のシルク製タンクトップを着てて、胸元に波の模様があしらわれてる。深い青色のストレッチ素材のレギンスが体を美しく包み、動きやすさ重視の教会らしからぬボディラインがはっきりした服装だ。足元は黒のロングブーツで、腰に小さな革ポーチが揺れてる。
「ネレイドさんじゃないですか!」
彼女はニコリと微笑んだ。
「ああ、久しぶりだなアクイラ君」
彼女は上級傭兵の波濤の影忍ネレイドさんだ。地の聖女様の付き人なので、ここにいてもおかしくない。俺の元にやって来ると、両手を握りながら話しかけてきた。俺はドキドキしながら彼女の笑顔を見つめてたが、不意に後ろから衝撃があった。振り返ると、ルーナが頬を膨らませて俺を睨んでる。
「アクイラ、浮気?」
俺は慌てて否定した。
「いや違うぞ!? これはただの友人としての挨拶だろ? ていうか、俺には特定の相手はいない」
ルーナが不満そうに呟く。
「むう……」
それ以上は何も言ってこなかった。ネレイドさんに案内されたのは、教会内部にある応接室だ。そこで待つように言われたので、俺たちはソファに座って待つ。しばらくすると扉が開き、一人の女性が入ってきた。
扉が開いた瞬間、俺の視界に美しい女性が映る。20歳ほどの華奢な体つきで、黒髪が煌めき、緑色の瞳が深い神秘を秘めてる。彼女は緑と黒を基調としたシルクのブラウスを身に纏い、植物の模様が描かれてる。黒の膝丈スカートが美しい足元を彩り、動きやすさを重視したデザインが優雅さを際立たせる。緑の宝石があしらわれた金のネックレスやイヤリングが美しさを引き立て、足元は黒のローヒールシューズだ。俺はその美しさに目を奪われ、再会を喜びに胸を躍らせた。
「久しぶりだな聖女様!」
俺が挨拶すると、彼女は笑顔で返してくれた。
「お久しぶりです、アクイラ様。何度も申し上げますがベラとお呼びください」
俺たちは握手を交わし、ソファに腰掛けた。ネレイドさんが紅茶を持ってきてくれたので、俺はそれを口に含む。一息ついたところで、聖女様が口を開いた。
「それでは本題です。この資料をご確認ください」
俺は資料を受け取った。
「何々? 貴方のことをお慕いしており…………別の資料もらえる?」
聖女様が少し顔を赤らめて別の資料を渡してきた。
「…………こちらが正しい資料です」
俺は内容に目を通す。テミスの街の近くで傭兵の遺体が発見されたらしい。遺体の持ち主は静寂のイオン、上級傭兵だ。第一発見者は反撃のフェリシアスという傭兵らしい。問題は遺体が見つかったことじゃない。続きを見ると、遺体で見つかったはずのイオンが今も傭兵として活動してる。
「なるほどな、人間の姿をコピーする能力か。確かに俺はこれを知っている。この能力の厄介な所は本人の記憶を持ってる点と、実力も本人と変わらないとこだ。遺体を見つけない限り、偽物と判断が難しい」
魔族の力なら魔の九将関連だろう。第一発見者のフェリシアスにも現場の状況を聞いてみたい。どうやって殺したか分かれば、魔族の戦い方が分かるかもしれない。
聖女様が説明を続ける。
「とにかく、貴方がたには彼、偽イオンを監視してもらいたいのです。まだ彼が偽物と知ってるのは教会の一部の人間だけですので公にはできません」
なるほど、俺たち三人はまんまと一部の人間の仲間入りだ。教会側の人間じゃないが、直接依頼される程度には頼られてるみたいだ。
「わかった、協力する。わざわざテミスに来たわけだし」
聖女様が微笑んだ。
「ありがとうございます。私たちは他に情報を集めるので、アクイラ様は偽イオンの調査をお願いします」
依頼内容が分かった。ネレイドさんから追加資料をもらい、イオンの行動パターンを確認する。イオンは二人パーティで、相方の情報もあった。地剣のテラ、初級傭兵で、過去に俺とパーティを組んでた女だ。
応接室を出る時、ルーナが紅茶のポットを倒してしまい、スカートがびしょ濡れになった。白いスカートが透けて、淡いブルーシルバーのパンティが丸見えだ。
「あ…………」
俺は視線をしっかり彼女の下半身に這わせた。セレナが笑いながらティッシュを渡す。
「ルーナ、隠しなさいよ!」
ルーナは顔を真っ赤にしたが、セレナに拭いてもらうまで動かなかった。聖女様が苦笑しながら新しいスカートを用意してくれた。
■テミス
中世から近代風の建築物が立ち並ぶ、壮大で活気に満ちた都市。
テミスは聖王国の首都として、権力と宗教の中心地として栄えている。聖王の宮殿や重要な教会が街の中心に位置している。
街の中央には中央協会の本部があり、知識の集積地として知られている。魔法や歴史、学問など、様々な分野の知識がここで保管され、研究されている。
テミスは広大な城壁に囲まれており、城壁の内外で生活する人々の差がはっきりしている。内側は豊かな貴族や官僚が住むエリアであり、外側は一般市民や商人たちが暮らす。




