表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎焔の鎧  作者: なとな
第2章 偉大な力
20/121

第2章4話 集落近辺の異変調査

 俺たちは朝食の準備を進めていた。部屋の中には干し肉を焼く香ばしい匂いが漂い、スープの湯気が立ち上っている。腹が鳴りそうになるのを我慢しながら、俺はベッドから這い出した。昨夜の疲れがまだ少し残っていて、身体が重い。


「おい、早く起きろ。飯ができたぞ」


 リーシャさんのその声に起こされた俺は、寝ぼけ眼をこすりながら起き上がると、大きく伸びをする。肩が少し軋む音がして、軽く顔をしかめた。

 ルーナとエリスは朝食の準備に忙しそうで、ルーナがスープをかき混ぜる姿や、エリスがパンを切り分ける手つきを見ていると、妙にほっとする。二人ともまだ眠そうな顔をしているが、手際よく動いているのが頼もしい。結局、俺たちは簡単なスープと干し肉を挟んだパンで朝食を済ませると、すぐに集落を出発することにした。ルーナとエリスには集落の防衛を任せ、俺とリーシャさんは森の中を進む計画だ。

 集落の外を調査しようと外に出ると、里長のおじさんとセレナが立っていた。里長は穏やかな顔で俺たちを見ているが、セレナは少し警戒した表情でボウガンを握りしめている。朝の陽光が彼女の茶髪を照らし、軽くウェーブがかかった髪が風に揺れている。


「傭兵! ……おはよう」


 セレナは一瞬、ボウガンを構えそうになったが、俺たちの顔を見てすぐに下ろした。そして俺たちが挨拶を返すと、里長が声をかけてきた。


「ああ傭兵様方、これから山に行かれるのだろう? であれば、ウチのセレナを連れて行くとよい。山に慣れている故、迷うこともない。それに異常を知るには里の者と行動する方が早かろう」


 なるほど、確かにその通りかもしれない。山に詳しい者が同行してくれるなら、道に迷う心配もなく安心できるだろう。俺がそう思っていると、セレナが突然声を上げた。


「い、嫌よ! なんでアタシがそんなめんどくさいことをしなきゃいけないのよ!」


 どうやら彼女はあまり乗り気ではないようだ。眉を寄せて腕を組むその姿は、まるで駄々をこねる子供みたいだ。すると里長はため息をつきながら、諭すように言った。


「よいか? これも里のためだ。それになセレナ、お前もどうせ山に行って狩りをせねばだろう」


 その言葉に、セレナは渋々ながら頷いたようだった。里長の落ち着いた口調に押されたのか、彼女は仕方なさそうにボウガンを肩にかけ直し、俺たちと目を合わせないまま準備を始めた。そしてそのまま俺たちは出発したのだが、道中の会話は皆無だった……というより、俺が「いい天気だな」と話しかけようとしたら、セレナに「黙って歩け」とでも言いたげな鋭い視線で睨まれたからだ。緑の瞳がギラリと光り、俺は口を閉ざすしかなかった。結局、一言も交わすことなく目的地に到着したのだった。

 そこは切り立った崖のような場所で、見上げるほどの高さがあった。岩肌がゴツゴツと露出していて、風が吹くたびに木々がざわめく音が響く。崖の下には小さな川が流れていて、水音が静かに耳に届く。俺たちは山の中腹まで登り始めた。足場が悪い場所も多く、慎重に進む必要があったが、セレナは慣れた様子で先導してくれる。彼女の動きは軽やかで、まるで森の一部みたいだ。

 しばらく進んだ後のことだった。突然、セレナが立ち止まり、鋭い声で言った。


「魔獣よ。猪型ね」


 どうやら近くに魔獣の気配を感じたらしい。彼女の緑の瞳が鋭く光り、周囲を見渡している。俺もすぐに周囲を警戒しつつ、リーシャさんの方へと近づいていくと、彼女は大槍を構えた。すると、目の前の茂みから何かが飛び出してきた! それは大型の猪のような魔獣で、牙が異様に大きく発達していた! 剛牙猪(ガントスク)だ。黒い毛並みが陽光に反射し、牙がギラリと光る。


「下がれ!」


 そう叫びながら俺は前に出ると、拳に火を灯す。赤い炎が俺の手を包み、熱気が周囲に広がる。そしてそのまま魔獣に向かって殴りかかった。


「はあっ!」


 俺の拳が魔獣の顔面に直撃すると、その衝撃で剛牙猪(ガントスク)は大きく吹き飛び、地面に倒れた。土煙が舞い上がり、猪の唸り声が一瞬途切れる。俺はすかさず追撃を加えようとするが、その前にリーシャさんが動いた! 彼女は槍を構えて突進し、その勢いのまま突きを放つと、見事に心臓を貫いた! 槍の先端が肉を裂く音が響き、鮮血が地面に飛び散る。魔獣は一瞬で息絶え、静寂が戻った。


「やったな!」


 俺がそう言うと、彼女は少し照れくさそうにしながら答えた。


「まあ、この程度なら楽勝だな」


 そう言って笑う彼女の姿はとても頼もしく見えた。汗で少し髪が乱れているが、それが逆に彼女の魅力を引き立てている。後ろではセレナがボウガンを構えたまま、俺たち二人の動きを見ていて、小さく「やるじゃん」とつぶやいた。その声は意外と柔らかくて、ちょっと驚いた。こうして俺たちは山の奥へと進んで行ったのだった。

 それからしばらく進むと、また魔獣が現れた。今度は魔熊剛腕熊(ウルシウス)だ。黒い毛並みに覆われた巨体で、しかもかなり気性が荒いようで、唸り声を上げながらこちらに向かってくる。地面が震えるほどの迫力に一瞬怯んでしまったが、すぐに立ち直ると俺は構えた! そして魔獣が飛びかかってきた瞬間に拳を繰り出す! しかし、俺の攻撃は避けられてしまった。熊の巨体が意外に素早く、俺の拳は空を切る。そしてそのまま鋭い爪で攻撃を仕掛けてくる!


「うおっ!」


 間一髪で避けることができたが、体勢を崩してしまった。膝をついた瞬間、土が跳ねて視界が一瞬霞む。そこにすかさず追撃が来る!


「貫け!!!」


 リーシャさんが横から剛腕熊(ウルシウス)の脇腹に槍を突き刺すが、まだ元気だ。血が滴り、地面を赤く染めるが、魔熊は咆哮を上げて暴れ続ける。しかし、槍が刺さって動きが鈍ればこっちのものだ。俺は紅く燃える腕を剛腕熊(ウルシウス)の首元に叩き込む。ゴッという鈍い音と共に、魔熊は大ダメージを受けたのかよろけ、引き抜かれた槍の傷跡から一気に血が流れ出した。俺はその傷に腕を突っ込み、体内から焼き尽くした。焦げた臭いが鼻をつく。


「助かった、リーシャさん」

「当然だ。むしろ槍の威力だけだったらもう少し時間がかかって、こっちも助かった」


 俺とリーシャさんの連携はそこそこ上手くできていた。息を整えながら互いに軽く笑い合う。セレナは魔獣の察知と案内だけで十分で、ボウガンの出番は狩りの時だけになりそうだな。その後、何度か魔獣との戦闘があったが、特に問題なく倒すことができた。山道を進むたびに、セレナの案内が頼りになることを実感する。こうして俺たちは順調に山奥へと進んでいくと、セレナがある場所で突然立ち止まった。


「この先、ちょっとやばいのかも」


 そう言われ、俺とリーシャさんが茂みから様子を覗くと、そこには魔獣たちが集まっていた。しかもかなり多く、ざっと見ただけでも10体以上はいるようだ。猪型、熊型、さらには蛇のような姿のものまで、種類がバラバラで異様な光景だ。


「これはまずいな」


 リーシャさんがつぶやく。確かにあの数だと厳しいかもしれない。しかし、ここで逃げるわけにはいかない。気になるのは、同じタイプの魔獣ではなく、異なる種類が群れをなしていることだ。


「これがうちの集落の近辺の異変よ。集落を襲う魔獣も種類が一種類じゃないんだ」

「……多種多様な魔獣の群れか」


 もしそれが本当ならば厄介だな。俺がそう考えていると、セレナが少し不安そうな顔でこちらを見ているのに気づいた。彼女の緑の瞳が揺れている。


「よし! まずは俺とリーシャさんで突っ込むぞ。セレナは可能なら援護を頼む」


 すると二人は黙って頷いたので、俺たちは一斉に飛びかかった!


「行くぞ!」


 まず最初に俺が突っ込み、攻撃を繰り出す! 俺の拳は剛腕熊(ウルシウス)に命中するが、あまり効いている様子がない。くそっ……こうなったらもっと火力を上げるしかないか! そう思った瞬間だった! 突然、俺の体に衝撃が走ったかと思うと、吹き飛ばされる!? 一体何が起こったのか分からないまま、俺は地面を転がった! 土と草が顔に当たる。


「大丈夫か!!」


 リーシャさんが駆けつけてくれた。どうやら紫色の蛇魔獣紫鱗蛇(パープラセルペンス)の尻尾に叩きつけられたようだ。すると今度は俺の横を何かが通り過ぎていくのが見えた。それはボウガンの矢だった。矢は俺の身体を綺麗に避けて剛腕熊(ウルシウス)に命中した。セレナは的確に俺たち二人のサポートをしてくれているようだ。しかし、それでも魔獣たちは怯まずに襲い掛かってくる!


「くそッ!」


 俺とリーシャさんは再び魔獣の群れに向かって行く! 俺は脚に炎を集めながら飛び上がり、一気にかかと落としを決める。剛腕熊(ウルシウス)は燃え上がり、討伐に成功した。熱風が周囲を包む。

 リーシャさんも黄金虎(オーレアタイガー)と呼ばれる虎の魔獣を貫いて討伐していた。彼女の槍が金の毛皮を切り裂き、鮮血が飛び散る。セレナのボウガンは自在に動き、確実に敵の急所を狙っていた。


「風魔法か」


 どうやらセレナは風魔法の使い手で、ボウガンの矢を自在に動かせるらしい。もし傭兵なら初級傭兵(ランクサファイア)を名乗れるくらいの実力が備わっているだろう。彼女の冷静な射撃に感心していると、突然、近くの川辺で異変が起きた。

 セレナが矢を回収しようと川に近づいた瞬間、足元の石が崩れてバランスを崩した。俺が慌てて手を伸ばして彼女を支えようとしたが、間に合わず、彼女は水辺に尻餅をつく。濡れたシャツが肌に張り付き、胸元が少し透けて見えるほどびしょ濡れになった。服がずり上がってしまい、薄緑の下着が浮かび上がる。


「きゃあ!? 何!? 見ないでよ!」


 セレナが顔を赤くして叫び、両手で胸を隠す。リーシャさんが呆れたようにため息をつきながらこちらを見る。


「アクイラ、また何かやったのか? お前、本当に懲りないな」

「いや、助けようとしただけだって! 偶然だ!」


 セレナは立ち上がりながら、濡れた服をぎゅっと絞るが、その仕草で身体のラインが少し強調されてしまう。彼女は恥ずかしそうに俺を睨んできた。


「傭兵ってほんと信じられないわ!」


 俺は弁解しようとしたが、彼女の怒りが収まる気配はない。リーシャさんは笑いを堪えながら槍を手に持つ。


「まあ、セレナが無事ならいいさ。次はお前がやられないように気をつけろよ」


 気まずい空気の中、セレナは服を直し、俺たちは戦闘を再開した。


「これで最後だ!!」


 俺は残った魔獣に炎を纏ったパンチを繰り出した。その拳は魔獣たちを焼き尽くし、完全に息の根を止めた。地面に焦げ跡が残り、静寂が戻ってくる。


「ふぅ……終わったな」


 俺たちは一息つく。倒した魔獣たちはそのまま放置するわけにもいかないので、全て回収し山奥に埋葬することにした。少し疲れを感じるが、この数だと時間がかかりそうだ。セレナは濡れた服のまま、矢を回収していたが、時折こちらをチラッと見ては目を逸らす。


「それにしても、これはまずいな」

「ああ、早くエリスたちに伝えなければ」


 俺がつぶやくと、リーシャさんがすぐに同意する。通常、魔獣は同じ種類の魔獣と群れをなして共闘することはあるが、今みたいに複数種類の魔獣が同じ場所に集まっているのは異常だ。

 現状の戦力だけで戦えないこともなさそうだ。しかし、むしろ集落の方が不安なレベルになってきた。ルーナもエリスも魔獣に後れを取るほどではないが、それは一種類ごとであればの話だ。状況に応じて対応ができるのか分からない。俺がそう考えていると、セレナが少し不安そうな声で口を開いた。


「このままじゃ、集落が危ないかも……」


 彼女の言葉に、俺はすぐに決断を下す。


「セレナ、集落で戦える人間はどのくらいいるんだ?」

「えっと……数人いるかな。でも、あなたたちみたいに対応できるとは思えないわ」


 セレナの表情は曇っている。濡れた髪が顔に張り付き、少し震えているのが分かる。だが、戦えないわけじゃないことが分かれば大丈夫だ。俺は彼女の肩を軽く叩いて励ます。


「よし! そうと決まれば急ぐぞ!」


 俺たちは一度集落に戻り、ルーナやエリスに情報共有することにした。山道を下りながら、俺はセレナの濡れた服が気になったが、彼女の鋭い視線に耐えつつ、黙って歩き続けた。

傭兵の男女比について、作中で女性が多くなっている理由。

1.男性傭兵が大型遠征や遠方での任務に従事している間、女性傭兵は近隣地域や街の周辺での任務をこなすことが多いため、ギルドに出入りする機会がより頻繁になります。

2.女性傭兵の中には、野営や過酷な環境を嫌う人が多い。彼女たちは、街近辺での仕事を好む傾向があり、そのためギルドによく出入りする。

3.聖女様の護衛は女性中心でほとんど男を入れないため、聖女様ご一行はほぼ女性パーティ。例外あり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ