第２章３話 狩人の少女
俺たちの方を向いた彼女は、とっさに右手がボウガンに伸びる。集落の人間じゃない俺たちを見て、警戒しているのだろう。だが、それを予想していた俺たちは、あらかじめ用意しておいたギルドカードを提示した。彼女は少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに平静を取り戻すと、軽く頭を下げてきた。
「傭兵？ ウチの集落に何の用？」
どうやらまだ警戒を解いていないようで、訝しむような視線を向けられつつも、俺は事情を話し始めた。
「実はこの集落の里長から依頼を受けてな」
そう言いながら依頼書を見せると、彼女はその内容を確認し、納得したように小さく頷いた。
「確かに里長の名前があるわね。わかった。里長のところに案内するからついてきて」
そう言うと、彼女は俺たちに背を向け歩き出した。俺たちはその後に続く。しばらく歩くと、一際大きな家の前で立ち止まり、そのまま中へと通された。奥の部屋に案内されると、そこには一人の男性が座っていた。年齢は40代後半くらいだろうか。長い黒髪を後ろで一つにまとめていて、落ち着いた雰囲気の中年だ。彼はこちらに気づくと、ゆっくり立ち上がり挨拶してきた。
「ようこそお越しくださいました」
丁寧な言葉遣いに少し驚いたが、すぐに気を取り直し、こちらも挨拶を返す。
「初めまして、傭兵ギルドから来た者です」
俺が代表してそう答えると、里長は柔らかい笑みを浮かべた。
「わたくしがこの集落の長をしているものです」
そう言ってから、席に座るよう促されたので、遠慮なく座らせてもらうことにした。少し硬い木の椅子に腰を下ろすと、里長も向かいに座り直す。それからしばらく雑談を交わした後、本題に入ることになった。
「して本題に入ろう。此度の依頼内容であるが、魔獣の被害届だ。どうにもいつもと勝手が違ってな。山で見かけぬ魔獣が大量発生しておるのだよ」
「どのくらいの頻度で見かけますか？」
俺がそう質問すると、里長は顎に手を当てて考え込んだ後、答えた。
「ほぼ毎日、家畜や作物、家屋に里人まで、被害範囲が日に日に大きくなっておる」
話を聞く限り、相当深刻な状況だ。このまま放置すれば、被害が広がり続けるだけだろう。早急に対処する必要があるな。
「わかりました。早急に対処します」
俺がそう答えると、里長は深々と頭を下げた後、こう言った。
「今日はもう昼も過ぎているから、魔獣が来たら防衛するだけでいい。明日から調査と集落の防衛を頼む」
なるほど、集落の防衛も含まれるのか。なら、明日は二人組ずつで行動するのもありかもしれない。
「本日は旅人用の空き家を使うといい。わたくしの家の裏に一軒ある」
そう言われて案内された家は、小ぢんまりとしたものだったが、一人暮らしなら十分な大きさだ。だが、俺たちは四人。しかも男一人に女三人で、ベッドはシングルサイズが二つしかない。
「とりあえずルーナとエリスがベッドを使ってくれ。俺はリーシャさんの上で眠……すみません、冗談です。刺突はやめてください」
リーシャさんが殺意マシマシで大槍の先端を俺の顔に向けたので、慌てて冗談を引っ込める。彼女の目は本気だった。
「体格的に考えたら、小柄なルーナとエリスが一つのベッドを使いな。そしてもう一つはリーシャさんが使えよ。俺は床でいい」
「それなら私も床でいいです。それなら一緒に眠れますし」
そう言って、ルーナが俺の服の裾を掴んでくる。可愛すぎるので、つい許してしまう自分がいる。結局、この日は狼型の魔獣狼影の群れだけを対処した。夕方になると、里の人たちから食料を分けてもらい、四人で食事をすることになった。
「このお米というの美味しいですね。それにこのスープも絶品です」
エリスが笑顔でそう言いながら、食事を口に運んでいた。確かに美味いな。米の甘さとスープの深い味わいが絶妙で、毎日でも食べたいくらいだ。里長がくれた干し肉も噛むほどに旨味が広がる。
「明日は二手に分かれて調査をしよう。体力のある俺とリーシャさんで魔獣が大量発生している場所を見てくるから、ルーナとエリスは里の中で待機して防衛をお願いできるか？」
「わかりました。気を付けてくださいね」
エリスは快諾してくれたが、ルーナとリーシャさんは不満そうだ。ルーナの不満は分かる。どうせ俺と一緒じゃないことと、俺が自分以外の女と二人きりになるのが気に入らないのだろう。リーシャさんが不満なのは……まあ、いつものことだな。だが、俺の考えとしては、山の中を動くのは体力のある二人、集落で待機するのは体力のない二人でチームを分けた方が効率がいいと思っている。
「風呂でも沸かすか。よし、俺がみんなの風呂入っているところを見ててやるから、三人とも風呂に入っていいぞ」
俺が冗談交じりに言うと、リーシャさんは俺の後ろに回り込んで首根っこを掴み、ルーナはいつものように俺の腕に抱きつき、エリスは銃を手に持ってこっちを向けてきた。
「ちょ！ 冗談だって！」
慌てて弁解すると、三人はそれぞれ風呂場に向かっていった。数分後、湯浴みや着替えを終えた三人が戻ってくる。三人は眠るためにいつもより軽装になっていて、薄手の服が少し身体のラインを浮かび上がらせていたが、俺はグッと我慢する。
「まったく……油断も隙もない」
そう言いながらも、満更でもなさそうな顔をしているリーシャさん。一方、ルーナとエリスは頬を赤らめているものの、怒っている様子はない。どうやら機嫌が直ったようだ。その後、俺も風呂に入り、汗と疲れを流してさっぱりした気分で夜を迎えた。
三人が部屋で談笑している中、俺は少し席を外すことにした。
「ちょっと散歩行ってくるわ」
そう言って、宿泊のために借りた民家を出た。そしてそのまま近くの茂みの向こうへ。夜の村の防衛だ。三人にはその話はしていない。俺が勝手にやっているだけだ。民家を出て少し歩くと、開けた場所に出た。そこは見晴らしのいい丘の上で、敵が潜むとしたらこの場所だろう。耳を澄ますと、川のせせらぎや風で木々が擦れる音だけが聞こえてくる。銃を構えながら辺りを見回すが、何もいないようだ。やはりただの杞憂だったかと思い、帰ろうとしたその時だった。
「誰！？」
後ろから女の声がする。振り返ると、ボウガンを構えた茶髪の女性が立っていた。昼間、最初に声をかけた女だ。
「おっと、君は昼間の……」
「……傭兵？ こんな時間も防衛？」
俺の言葉に、彼女は警戒を解くことなく訝しげな視線を向けてくる。
「ああ、まあそんなところだ」
俺が肯定すると、彼女はボウガンを下ろした。そしてそのまま俺の方へ近づいてくると、俺の隣に立ち、遠くを見つめる。
「俺はアクイラだ。中級傭兵だ」
「アタシの名前はセレナよ。この集落では狩人の仕事を手伝っているわ」
こんな若い女の子が狩人？ 俺はそのことに疑問を抱いたが、あえて触れずに話を続ける。
「狩人が夜中に何をしているんだ？」
俺の問いに対し、セレナは少し考えるそぶりを見せると、こう答えた。
「散歩よ。夜の村を歩き回るのも悪くないわ」
確かに、月明りに照らされた村を散歩するのは悪くないだろう。静かな夜風が心地よく、遠くの山々がシルエットになって見える。
「じゃあ俺も夜の散歩に付き合おう。一人歩きは危険だからな」
俺がそう言うと、彼女は少し驚いた様子だったが、すぐに笑みを浮かべてボウガンを持ち上げた。
「安心して、アタシだって狩人なんだから！ 自衛くらいできるわ」
そう言って彼女は歩き出した。俺もそれに続く。ついてくる俺を見て、彼女はもう一度ボウガンを見せてきたが、俺が首を振ると、諦めたようにそのまま歩き始め、俺はそれについていく。村の外れまで来た時、セレナが立ち止まり、近くの小川を指差した。
「ここ、昼間は子供たちが遊んでるけど、夜は静かでいい場所よ」
確かに、小川の水音が穏やかで、月光が水面に反射してキラキラしている。俺がその景色に見入っていると、突然、セレナが足を滑らせて小川にバランスを崩した。慌てて手を伸ばした俺が彼女の腕を掴んだ瞬間、彼女のシャツが水に濡れてぴったり肌に張り付き、薄緑の下着が透けて見えてしまった。
「きゃっ！？ 何！？」
セレナが顔を真っ赤にして叫び、俺の手を振り払う。
「悪い！ 助けようとしただけで、見るつもりはなかったんだ！」
セレナは濡れたシャツを両手で押さえながら、恥ずかしそうに睨んできた。
「傭兵ってやっぱり変態ばっかりなの！？ 信じられないわ！」
「誤解だ！ 本当に事故だって！」
「……ねえ、アクイラ君」
気を取り直して歩き出した後、セレナが突然名前を呼んできた。驚きつつも返事をすると、彼女はさらに言葉を続けた。
「あなたはどうして傭兵になったの？ 何か理由があるの？」
俺はその問いに少し考え込んだ後、こう答えた。
「俺は強くならないといけなかったんだ。学がなくてさ。独り立ちするにはこの道一本だったんだよ」
そう答えると、彼女は俺の方を見て微笑んだ。
「そう……でもやっぱり……傭兵は嫌いだな」
その言葉に少し胸がチクッとしたが、彼女の気持ちも分からなくはない。その夜はセレナと別れ、宿泊用の民家に戻った。みんなすでに眠っていて、ルーナとエリスが並んでベッドで寝息を立てている。俺は悪戯心で二人の服を少しずらし、上着をめくってみた。ルーナの方がふっくらしてるな、なんて思ったが、それ以上は我慢した。
次に、リーシャさんのベッドに潜り込めないか試してみたが、シングルベッドじゃさすがに狭い。彼女の隣に無理やり寝転がってみたが、どうにも落ち着かない。諦めて床に寝転がろうとした時だった。
「なんだ、続きはしないのか？」
リーシャさんの声が聞こえた。彼女は俺に背を向けて寝転がっているが、どうやら起きていたようだ。
「へえ？ ご希望ですか？」
俺がそう答えると、彼女は小さくため息をついた後、こう言った。
「そうか……何もしないなら私は眠ろう」
「ちょっと待ってください。触らせてください」
俺が慌てて言うと、彼女は少し笑ってからこちらに手を伸ばしてきた。そして軽く肩を叩いてくる。
「ほら、少しだけならいい。私は構わんよ」
その言葉に俺は調子に乗って、彼女の服の裾を少しめくってみた。すると、彼女の下着に手が触れてしまい、慌てて引っ込める。
「んっ！ 何だ、お前……」
「す、すみません！ やりすぎました！」
リーシャさんが少し声を上げたが、怒るというより呆れた様子だ。彼女は服を直して俺を軽く睨む。
「ルーナとエリスが起きちゃうだろ？ 少しは我慢しろ」
「分かってますって……」
結局、彼女に軽く叩かれて、俺は床に寝転がることにした。翌朝、俺はたたき起こされた。
「アクイラさん！ なんで私とルーナちゃんの服がずれてるんですか！ 貴方ですよね？」
エリスにめちゃくちゃ怒られた。ルーナも目を覚まし、服を直しながら俺を睨んでいる。
「アクイラさん、最低です。私だけでいいですよね？」
「いや、ちょっと待て！ ただの悪戯で……」
リーシャさんはベッドの上で笑いを堪えながら、俺とエリスのやり取りを見ていた。
「アクイラ、お前らしいな。朝から賑やかで助かるよ」
結局、エリスに平謝りして許してもらうまで、しばらく時間がかかった。
名前: セレナ
性別: 女性
年齢: 18歳
出身: セルヴァスの小さな集落
職業: 狩人
身長: 160cm
体型: スリムでしなやか、狩猟で鍛えた引き締まった肉体と女性らしい柔らかさを併せ持つ
髪: 茶色のミディアムレングス、軽いウェーブがかかり、動きに合わせて揺れる
瞳: 深い森のような緑色、鋭いハンターの眼光を持つが仲間には優しさを覗かせる
性格: 冷静で慎重、単独行動に慣れているが信頼した相手には心を開く
服装: 機能性重視。ノースリーブのレザーブラウス（クロップトップ風、深緑に葉の刺繍入り）、アシンメトリーなスリット入りスカート、膝下の静音設計レザーブーツ、フード付きショートクローク（カモフラージュ効果）
下着: 深緑のシルク製、実用的で控えめな装飾が彼女の美意識を表す
武器: ボウガン、遠距離狙撃が得意
魔法: 風属性の感知魔法、周囲の気配を敏感に察知し、風の流れを読んで矢の軌道を制御
趣味: 自然の中で過ごすこと、星空を眺めること、静かな時間を大切にする
好きな食べ物: 新鮮な野菜を使ったヘルシーな食事、油っこいものは避ける
苦手なもの: 人混みや騒がしい場所、風が流れる静かな環境を好む
