表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎焔の鎧  作者: なとな
第1章 出会い
13/121

第1章13話 炎焔の鎧

 私の目の前にいた人たちは全員、銀髪に青い瞳を持つ五人の男女だった。先頭に立つのは、見慣れたあの優雅で頼もしい姿。私は思わず彼女に飛び込むように抱きついた。会いたかった。ずっと会いたかったんだ。


「カイラさん! アクイラさんが! アクイラさんが!」

「無礼者! 姫君に軽々しく触れるでない!」


 私が抱きついた瞬間、カイラさんの左右にいたエルフの二人が反応した。剣を持った男性エルフと槍を握る女性エルフが、それぞれの武器の先を私に向ける。私は怯みそうになったけど、それでもカイラさんにアクイラさんのことを伝えなきゃいけなかった。胸が締め付けられるくらい、彼のことが心配でたまらない。


「よい、ナリア、ユウキ、武器を下げてくれ。ルーナは私の仲間だ」


 カイラさんが落ち着いた声でそう言うと、両脇のエルフたちは少し不満げな顔をしながらも武器を下ろしてくれた。私はホッと息をついて、カイラさんの緑のドレスにしがみつくように見上げた。


「して、何があったのだルーナ、アクイラは無事なのか?」


 カイラさんの声はいつも通り穏やかで、でもどこか鋭い。私は彼女にこれまでの経緯を一気に説明した。アクイラさんが光風魔将アウレリウスに捕らわれたこと、遺跡に置き去りにされたこと、魔獣の異常な動きと私たちの必死の逃走。話し終えると、カイラさんは私の頭を優しく撫でてくれた。その手は温かくて、少し汗ばんでいて、彼女の自然と調和したドレスの葉模様が私の頬に触れた瞬間、安心感が広がった。


「アクイラ救出の件だが、私も参加しよう。それで風の聖女ご一行はどうされる? 帰ってもいいぞ?」

「なっ!? あんな中級傭兵(ランクエメラルド)のために命張るっていうのか!? こいつらじゃ碌に依頼料なんて払えないぞ! それともアンタそっちの趣味か?」


 レグルスの下卑た声が響き渡る。彼はカイラさん相手でも態度を変えない。汗で濡れた赤茶色の革製チュニックが筋肉質な体に張り付き、埃と血の汚れがそのまま残っている姿は、まるで野獣みたいだ。カイラさんはそんな彼にも動揺も嫌悪も見せず、いつも通りの凛とした姿で答えた。


「そうだな、アクイラを助けることは私も望んだことだからかな? お前たちもついてこい」

「御意」


 双剣を持ったエルフの男性が短く応じると、他の三人も静かに従った。彼らの動きは統率されていて、カイラさんの部下らしい頼もしさが感じられた。


特級傭兵ランクダイヤモンドとその親衛隊の上級傭兵ランクルビー四人だってぇ!? おいおい中級傭兵ランクエメラルドにそんな価値があるってのかよ!」


 レグルスさんは納得していない様子で、口元を歪めて唾を吐くような仕草を見せた。その横で、リーシャさんが革鎧を汗で光らせながら彼に近づき、冷たく言い放つ。


「レグルス殿、先ほど提案した協力申請だがなかったことにしてくれて構わん。貴様に払える依頼料はないのでな」


 レグルスさんは睨みつけるようにリーシャさんを見た。汗で濡れた筋肉質な腕がピクピクと動いて、威圧感たっぷりだ。でも、リーシャさんも一歩も引かない。彼女の濃い緑色のスカートが少し揺れて、膝の革パッドが鋭く光った。そんな緊張感の中、風の聖女が優雅に割って入った。


「森姫カイラ、ご協力感謝致します。貴女方がいれば私共こそ不要でしょう。しかし、集落の防衛は私一人に任せてぜひ、マーレアとレグルスを連れて行ってくださりますか?」

「あらあら」

「なんで俺が!?」


 マーレアさんの優雅な笑顔と、レグルスさんの険しい表情が対照的だった。私たちもレグルスさんと一緒に行動するのは気が進まなくて、首を振ると、風の聖女様は冷静に続けた。


「必要なことです。マーレア、特に貴女にとっては。レグルスも従いなさい」


 風の聖女様がそう言うと、マーレアさんは珍しく不思議そうな顔で頷き、レグルスさんは渋々了承した。彼女の白いローブが風に揺れ、金の刺繍が淡い緑の光と調和して、まるで神聖な雰囲気が私たちを包み込んだ。

 そして、カイラさんが全員の中心に立って話をまとめた。


「大所帯だな。討伐目標は魔の九将(マギス・ノナ)! 救出対象はアクイラ! 討伐班と救出班に分かれようか! 討伐班は私、森姫カイラと紫花のマーレア、獅子の戦士レグルス、それから私の部下たちの青毒のナリア、海銃のミズキ、毒剣のユウキ、双剣士レンの特級傭兵(ランクダイヤモンド)二人と上級傭兵(ランクルビー)五人の編成だ」


 リーシャさんがカイラさんの前に立ち、汗で光る革鎧を少し整えながら話し始めた。


「では救出班は突撃のリーシャ、華の射手エリス、そして幻想の巫女ルーナ、それから……セレナちゃんはどうする?」

「アタシもアクイラさん救出に行きます。逃げる際に約束しましたので」


 セレナちゃんの声は落ち着いていて、濃い緑色のチュニックが風に軽く煽られていた。私は彼女の決意に少し勇気をもらった。


「わかった。こちらは四名で行動する」

「では防衛班は私一人ですね、まあ問題ないでしょう。風の聖女が引き受けます」


 カイラさんとリーシャさん、風の聖女様が三人で手を重ねた。


「それでは討伐および救出作戦を開始する!」


 私たちは基本的に目的地が一緒だから、最初は全員同じ方向に向かう。実際に遺跡に行ったマーレアさんと私、セレナちゃんの三人を先頭に、みんながついてくる。セレナちゃんの風脈感知(フェンプルセンシオ)のおかげで、魔獣との戦闘は極力避けて進めた。道すがら、風が強めに吹いてきて、私の薄い水色のローブのスカートがふわりと舞い上がった。


「きゃっ!」


 思わず声を上げてスカートを押さえたけど、薄い緑の下着が一瞬見えてしまったみたい。後ろを歩いていたリーシャさんが慌てて目を逸らし、エリスちゃんがクスッと笑いながら言った。


「ルーナちゃん、動きやすい服だけど気をつけてね。私も昔、スカートめくれで恥かいたことあるからさ」

「うぅ……」


 恥ずかしくてモジモジしながら歩き続けた。アクイラさんを助けるためだもん、こんなことで止まってられないよね。

 そして、私たちはアクイラさんを置き去りにした遺跡にたどり着いた。薄暗い石壁には戦闘の爪痕が残っていて、私の胸が締め付けられた。


「ここにアクイラはいるんだな?」


 カイラさんが私に問いかけ、私は頷いた。全員で中に入ると、早速魔獣の襲撃が始まった。でも、そのすべてはカイラさんとマーレアさんの前では無力だった。カイラさんの蹴りが魔獣の頭を砕き、マーレアさんの鋏が空間を切り裂いて敵を両断する。取りこぼしも上級傭兵(ランクルビー)のナリアさんやユウキさんたちが瞬時に殲滅してくれて、私たちはほとんど手を出す必要がなかった。

 遺跡の中で、二手に分かれる道が現れた。右手側はアクイラさんを置き去りにした場所で、左手側はまだ行っていない未知の領域だ。


「中央の道の奥に強い魔力。それから……この分かれ道の向こうにいる……アクイラさんがいます」


 セレナちゃんの感知魔法がアクイラさんを捉えた。私は胸が高鳴って、早く彼に会いたい気持ちでいっぱいになった。でも、その前に魔獣が何体か立ちふさがった。


「こいつらは私に任せろ! 君たちはアクイラを助けに行くんだ」


 カイラさんが一掃し、分かれ道までの魔獣を蹴散らしてくれた。私たち救出班はアクイラさんのいる右側の道に向かうことにした。


「魔獣も少なくないです。それでも皆さん進むんですよね?」


 セレナちゃんがボウガンを構えて言うと、リーシャもエリスちゃんも迷いなく頷いてくれた。私たちの行く先には、亜人型のゴブリンやオーク、蝙蝠型や狼型の魔獣が混じって待ち構えていた。


「私が先陣を切ろう! 我が身を覆いし無敵の力よ、突進に宿りて我が行く手を阻む者を打ち破れ。無敵突進インヴィクタス・チャージ!!」


 リーシャが魔法を詠唱すると、彼女の体が光に包まれ、あらゆる攻撃を受けながらも突撃していく。次々に魔獣を貫く姿は圧巻だった。でも、蝙蝠型など槍の範囲から逃れた魔獣が残ってしまう。それに対してエリスちゃんが魔法を詠唱した。


「銃よ、我が魔力を込めて、弾丸を装填せよ。魔弾装填(マグスロード)!」


 エリスちゃんの銃から魔力の弾丸が射出され、残った魔獣を仕留めていく。私から見れば、二人は本当に頼りになるベテランだ。


「ルーナちゃん、大丈夫?」

「は、はい。私は大丈夫です!」


 セレナちゃんが心配そうに私を見ていたけど、私は立ち止まるわけにはいかない。アクイラさんを助けるまでは絶対に! そう決意して、私たちは右に進んだ。すると、大きな石扉が現れて、私はロッドを握り直した。扉を開けると、そこには魔獣がうじゃうじゃいて、私は一瞬たじろいだけど、すぐに気持ちを切り替えた。


「私も戦う。流れよ、清らかな水の塊よ。相手に落ち注ぎ、その力を示さん。水塊落下(スプリペルカット)


 私が魔法を放つと、大量の水の塊が魔獣たちを押し潰して圧死させた。でも、それでも次々と魔獣が出てくる。セレナちゃんの感知魔法によれば、アクイラさんはまだ生きているはず。だったら、ここは絶対に進まなきゃいけない。


「全員突撃!」


 リーシャが叫んで槍を構え、走り出した。エリスちゃんとセレナちゃんもそれに続く。私もロッドを抱えて走り出すと、独房のような空間にたどり着いた。その時、足元の石が崩れて、私がバランスを崩した瞬間、ローブの裾が引っかかってビリッと裂けた。


「ひゃあっ!」


 勢いで転んでしまって、スカートがめくれ上がる。薄い緑の下着が丸見えになって、私は慌てて手で隠した。顔が真っ赤になって涙目で周りを見ると、リーシャが驚いた顔で固まり、エリスちゃんがまた笑いながら言った。

 セレナちゃんは冷静に近づいてきて、私の手を引いて立ち上がらせてくれた。


「怪我はないみたいね。気をつけて、ルーナ」

「うぅ……ありがとう……」


 気を取り直して立ち上がると、エリスちゃんが周囲を見回した。


「ここは?」


 リーシャが独房の中を捜索し、セレナちゃんが入口で警戒している。私はアクイラさんの姿を探したけど、どこにも見当たらない。


「いない?」


 私が呟くと、エリスちゃんがある場所を指さした。それは壁についている小さな扉だった。私は急いでその扉を開けると、そこには鎖につながれてぐったりとしているアクイラさんがいた。ボロボロの灰色のシャツは血と汗で濡れ、肩と脇腹が切り裂かれ、黒いベストは腹部が露わに。ズボンも魔獣の血と焦げで汚れて、彼の苦しみがそのまま形になったみたいだった。


「アクイラさん!」


 私は叫んで、彼に駆け寄った。胸が締め付けられて、涙が溢れそうになったけど、やっと会えたんだ。絶対に助けるからね、アクイラさん!

名前: ナリア

二つ名: 青毒

性別: 女性

種族: エルフ

年齢: 約400歳

職業: 上級傭兵ランクルビー

所属: 森姫カイラの部下(親衛隊の一人)

武器: 毒槍(刃先に青い毒液を塗布し、一撃で致命傷を与える)

服装: 暗青色の長袖チュニック(膝上丈、紫の毒々しい刺繍入り)、黒いショートパンツ、細い革の腕当て、毒薬小瓶が並ぶ革ベルト、暗灰色の革ブーツ(つま先に金属補強)

外見: 銀髪に青い瞳、細身だが筋肉質、長い耳が毒槍の動きに合わせて揺れる

性格: ナルシストで自己主張が強く、自身の技術に絶対の自信を持つ

戦闘スタイル: 素早く正確な槍さばきで敵を仕留め、毒の効果で確実に息の根を止める

特技: 毒調合(戦場で即座に毒を調整し、状況に応じた効果を発揮)

弱点: 褒められすぎると調子に乗りがちで、冷静さを失うことがある

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ