第1章12話 特級傭兵
扉の向こうには何が待ち受けているのか、俺たちは緊張しながら足を進める。洞窟の冷たい空気が肌を刺し、足音が石壁に反響して不気味に響く。エリスがこの洞窟にいたってことは、他にも地の聖女やその仲間たちが潜んでる可能性が高い。俺の心臓がドクドク鳴り、ルーナの手が俺の腕をぎゅっと握ってくる。カイラさんは冷静に前を見据えてるが、その背中にも微かな緊張が感じられた。そして、重い扉を押し開けると、そこには予想を超える広い部屋が広がっていた。中央には複雑な魔法陣が地面に刻まれ、青白い幻想的な光がふわふわと漂ってる。その光の中心に、一人の女性が磔にされてるのが見えた。
その女はエリスによく似てた。いや、似てるなんてもんじゃねえ。美しい黒髪が肩まで伸び、自然なウェーブが月光に照らされて艶やかに揺れてる。緑の瞳はまるで森の深奥を覗くような深みがあって、俺の目を離せなくさせる。華奢な体型なのに、どこか力強さを感じさせる佇まいだ。自然そのものが形になったような美しさってのは、こういうのを言うんだろうな。
彼女の身に着けてる服も、その美しさを引き立てるためにあるとしか思えねえ。緑のシルク製チュニックが体に優しくフィットしてて、細い腰や柔らかな胸のラインがくっきり浮かんでる。裾や袖口には花や葉の刺繍が繊細に施されてて、まるで生きてるみたいに光を反射してやがる。下半身はブラウンのフローラル柄スカートで覆われてて、柔らかい生地が微かな風に揺れるたび、白い太ももがチラッと覗いて俺の視線を誘う。足元にはブラウンのレザーサンダルが自然と調和してて、彼女の首元には緑の宝石が輝くペンダントが下がってる。シンプルなのに気品があって、聖女って感じがビンビン伝わってくる。
「あの人が聖女様ですか?」
ルーナが呟いた。俺は目を細めてその女を見つめる。
「ああ、彼女こそ本物のベラトリックスだ」
俺の代わりにカイラさんが答えた。俺は周囲に目を配った。部屋の隅には薄暗い影が揺れてて、何か隠れてる気配がする。他の消息不明になった傭兵たちはどうなったんだ? シルヴィア、ネレイド、リーシャ……三人の傭兵の名前が頭をよぎる。すると、磔にされてる聖女の近くから三人の人影がゆっくり現れた。三人とも女で、こっちに向かって歩いてくる。
「エリスは無事なのですか?」
最初に声をかけてきたのは、銀色の鉾みたいな杖を持った女だ。青い髪が肩までストレートに流れ、銀色の瞳が鋭く光ってる。ブラウスに青いパンツスーツを着た優美な姿は、知性と気品を漂わせてやがる。おそらく上級傭兵、銀鉾のシルヴィアだろう。
一人は青い髪に海色の瞳、タイトなタンクトップとレギンスでボディラインが丸見えだ。胸の膨らみと引き締まった腰が強調されてて、俺の目が自然と下がっちまう。こいつは上級傭兵、波濤の影忍ネレイドだろう。
最後の一人は、金髪に緑の瞳、成人男並みの大槍を背負ってる。薄い緑のブラウスと金装飾付きの深緑スカートが優雅で、膝上まで見える白い脚が色っぽい。こいつは中級傭兵、突撃のリーシャだろう。
「無事です。ただ、少し眠ってもらいました」
俺が答えると、三人ともホッとした表情を見せた。シルヴィアが小さく微笑む。
「そうですか、ありがとうございます」
三人が顔を見合わせ、同時に服をめくり上げた瞬間、俺の目は釘付けになった。彼女らの下腹部に、薄い紋様が刻まれてる。隷属の刻印だ。エリスと同じく、魔族に操られてる証だ。腹部に刻むなんて、つけた奴の趣味としか思えねえ。だが、その露出した肌が白くて柔らかそうで、妙に色っぽいのも事実だ。良さが分かってきた気がする。
「ここまで来れたということは、隷属の刻印のことはご存じでしょう? 次は我々と戦っていただきます。殺したくはありませんので…………勝ってください」
シルヴィアが杖を構え、真剣な目で俺たちを見た。すると、杖の先端に付いてた銀色の刃が黒く染まり、毒々しい光を放ち始めた。
「…………銀が黒に染まる意味はご存じですか?」
シルヴィアが静かに尋ねてきた。
「毒かよ」
俺が嫌そうに答えると、彼女が小さく頷いた。
「ご明察」
シルヴィアは毒属性の魔法使いだ。三人なら三対三で挑むべきだろう。そう思ってた俺の横で、カイラさんがスッと前に出てきた。
「上級傭兵二人に中級傭兵一人。なら特級傭兵一人で十分だ」
カイラさんが一人で三人と戦うと宣言した。その自信満々な態度に、シルヴィアたちは一瞬目を丸くした。隷属の刻印で望まない戦いを強いられてる彼女らは、負けたかったらなのか、一人で十分というカイラさんの発言に納得ができていなそうだ。それでも、銀鉾のシルヴィアだけは「カイラ様でしたら」と呟いていた。
「いえ、カイラさん一人で戦わせません」
ルーナが抗議の声を上げた。普通に考えりゃ当然だ。相手は上級傭兵二人と中級傭兵一人。3対1じゃ不利に決まってる。だが、カイラさんは動じねえ。それどころか、余裕たっぷりに微笑んでやがる。
「知っている者もいるだろうが私は森姫カイラ。特級傭兵だ」
シルヴィアが杖を振り、毒液がカイラさんに向かって飛んだ。同時刻、リーシャが大槍を構えて突進してくる! ネレイドも水で分身を作り出し、俺たちを囲むように動き始めた。毒、分身、突撃――回避不可能に見えた瞬間だ。
だが、それは過去の一瞬に過ぎなかった。
次の瞬間、シルヴィア、ネレイド、リーシャの三人が地面に伏せてた。カイラさんはその場から一歩も動いてねえ。俺の目が追いつかなかったほどの速さだ。
「蹴り終えたよ?」
「さすがです…………」
俺はカイラさんの戦いに感嘆するしかなかった。何が起こったのかさっぱり分からねえ。ルーナもポカンとしてて、口が半開きだ。三人がかりで挑んだのに、カイラさんの動きはまるで別次元だった。
「三人がかりで勝てたら、ダイヤモンドは名乗れないさ」
カイラさんが涼しい顔で言う。シルヴィアは苦しそうな表情で地面に這いつつ、まだ意識があるようだ。だが、ネレイドとリーシャは完全に気絶して動かねえ。
「さて、君で最後だがどうする?」
カイラさんがシルヴィアを見下ろして尋ねた。
「降参します……両手両足の骨が折れて立てませんから。他の二人も?」
「ああ、全部蹴った」
カイラさんが当たり前だろ? って顔で言う。だが、それは当然じゃねえ。化け物だよ、完全に。シルヴィアが苦笑いを浮かべた。
「末恐ろしい…………私が特級傭兵になれない訳だ」
倒れた三人を動けないように部屋の端に移動させる。手足の治療をしてやりたいが、隷属の刻印が消えてねえ以上、動けない方がこっちも助かる。カイラさんがシルヴィアを、ルーナがリーシャを拘束し始めた時、俺はルーナの手を掴んで止めた。
「待て、ルーナはネレイドの方を頼んでいいか?」
ルーナがジト目で俺を睨んできた。
「ダメ…………アクイラさんは拘束のついでにリーシャさんのパンツ見るでしょ?」
その瞬間、カイラさんが俺の四肢を一瞬で折っちまった。痛みが全身を走り、俺は呻きながら地面に転がる。三人の拘束が終わる頃、ルーナが申し訳なさそうに「清泉癒」で治してくれた。おかげで復活したが、カイラさんの冷たい視線が痛かった。
「あの、カイラさん。なんで魔法使わなかったんですか?」
ルーナが屈んでカイラさんに尋ねた。カイラさんは一瞬ためらった後、ゆっくり口を開いた。
「いやなに、使えないんだ私は…………正確には使えるのだが、使えないんだ」
彼女は蹴ることしかできねえらしい。俺以上に一芸に特化した人だ。魔法を使わないだけじゃなく、何か理由があるのか? 俺が首をかしげると、カイラさんが続けた。
「魔法が使えない?」
「そうさ。アクイラは無属性魔法についてどこまで知ってる?」
カイラさんが寂しげな目で俺を見た。あの表情は何だ? 俺は少し考えて答えた。
「通常の属性魔法と違って、使い手がほぼ一人だけの実質オリジナル魔法と言われるくらい、似た能力の少ない魔法ってくらいですね」
カイラさんがニコリと笑い、「そうだ」と呟いた。
「明かすつもりはないが…………私の魔法は今が使いどころじゃない。そういう風に考えてくれ」
「わかりました」
「うん、わかった」
俺とルーナはそれぞれ頷いて納得した。だが、カイラさんの寂しそうな表情の意味だけは、どうしても気になって仕方ねえ。いつか知りたいと思った。
俺たちは中央で磔にされてる地の聖女――本物のベラトリックス様の前まで歩み寄ったその時、魔法陣から何かが現れた。
「しまった、トラップか!?」
俺が慌てて魔法陣から飛び退く。魔法陣から現れたのは、無数の魔獣だった。巨大な木製のトーテムポールみたいな姿で、名前はクラマトタエム。遺跡に分布する魔獣だが、召喚されてりゃここにいてもおかしくねえ。
こいつらはその場から動かねえが、とにかく堅くて動きが速い。叫び声には魔力が込められ、聴覚を持つ奴に回避不能の範囲攻撃を仕掛けてくる。一番上の獣型の顔が口を開き、まるで咆哮してるみたいだ。グルングルンと顔が回転し、俺たちの方を向いた瞬間、耳を貫くような叫び声が響き渡った。
音波が俺たち三人の耳を襲い、ルーナが「うっ!」と呻いて倒れちまった。俺とカイラさんは気力で耐えたが、耳鳴りが頭を締め付けてくる。クラマトタエムが獣型の頭を蔓みたいに伸ばし、俺たちに巻き付こうとしてきた。俺は炎を拳に纏い、何とか避け続けるが、このままだと捕まるのも時間の問題だ。
「アクイラさん! 私を置いて逃げてください!」
ルーナが地面で叫んだ。俺が振り返ると、彼女の瞳には覚悟が宿ってる。だが、そんなわけにはいかねえ。ここまで俺は何もしてねえんだ。
「俺がこのクラマトタエムを全て引きつける! カイラさんはルーナを下げて、終わったら手伝ってください。多すぎます」
カイラさんが何か言いたそうに俺を見たが、信頼してくれたのか小さく頷いた。俺はルーナの頭を撫でて安心させると、クラマトタエムに飛び込んだ。
「うぉぉぉぉおおおおおおお!」
雄叫びを上げながら、俺は炎の拳でクラマトタエムに殴りかかる。木製の体が燃え上がり、焦げる匂いが鼻をついた。俺の叫び声に反応したのか、さらに数体のクラマトタエムが魔法陣から現れやがった。だが、俺は止まらねえ。次々と蔓を焼き払い、炎が洞窟を赤く染める。相手が木製なら、俺の出番だろ。
ルーナとカイラさんが遠くで何か叫んでるのが聞こえたが、俺はひたすら拳を振るった。こいつらを全部焼き尽くしてやる――そう決めた瞬間、俺の体に熱い闘志が溢れてきた。
名前: シルヴィア・ヴェルジェノヴァ
二つ名: 銀鉾
年齢: 27歳
職業: 上級傭兵
出身: 魔法使いの家系
容姿: 青銀のストレートロングヘア、銀色の瞳、スレンダー体型(身長168cm)
服装: 青ブラウスとパンツスーツ(元は黒紫ローブ、金刺繍)
性格: 冷静沈着、論理的、研究熱心
戦闘: 毒属性魔法(毒液、障壁)、銀鉾の杖
特徴: 隷属の刻印(下腹部)、暗号解読能力
趣味: 古代魔法文献調査
好物: フルーツゼリー(脂っこいもの苦手)