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炎焔の鎧  作者: なとな
第8章 帰還を目指して
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第8章1話 城内探索

 俺たちは魔王城を破壊するため、暗く寒々しい空気が漂うその場所に身を置くことになった。崩れ落ちかけた古びた城は、ただ佇んでいるだけで圧倒的な威圧感を放っており、身を震わせる冷たさが骨の髄まで染み込んでくる。石畳の床には古い魔族の紋章のようなものが刻まれていて、長い時を経たその紋様は、異様な力を感じさせた。暗がりの中に漂う重い沈黙が、城の奥底から這い寄ってくるようだった。そんな中、俺達のリーダーである火の聖女ヴァルキリーが、赤い装束に身を包み、周囲を明るく照らしていた。


「それではまずは、城を破壊する前に行方不明の仲間たちと合流しようか……時間も限られているからな。食糧が尽きる前には、この地を離れなければなるまいしな」


 ヴァルキリーが真剣な面持ちで告げると、その視線には決意が宿っていた。すると、風の聖女ゼフィラが、冷静な表情で小さく頷いた。彼女の周囲には風の気配が薄く漂い、彼女の知覚が辺りの状況を鋭く察知しているようだった。


「その通りですね、まずは城の内部で仲間たちを探しましょう。合流が優先です」

「ああ……とはいえ、魔王城だ。残党の魔族が潜んでいる可能性も高い。戦闘も覚悟しておかないとな。俺が前に出るから、アウロラは後方から援護してくれ」


 俺が頼むと、暁の妖精アウロラが柔らかく微笑み、手元に持つ祝福の証からふわりと姿を現した。彼女の小さな体が宙を舞い、煌めく光の粒が空気に溶けていく。


「任せなさい、アクイラ! それに、城を壊すのは私には無理だもの。でも、道中くらいならしっかりサポートしてあげるわ!」


 アウロラはそう言って、俺の肩にくっつき、意気揚々と拳を掲げた。彼女の明るい声が、少し張り詰めた空気を和らげてくれる。


「城の破壊に関してはあたくしも不向きね。それでも毒使いですもの、道中の敵を抑える役割はしてあげるわ。援護は任せなさい、アクイラ」

「お嬢さんみたいな毒使いなら、むしろ魔族を虐げるのが似合ってるけどな」

「ふふ、ならアクイラから虐げてみてもいいのよ?」


 アカンサが妖艶な微笑を浮かべ、挑発的に目を細めた。その冷たく美しい佇まいには、高貴な冷酷さが感じられる。本当に彼女は虐げるのが似合う人だなと、俺は思わず苦笑した。


「ふざけてないで、仲間を探しましょう。アウロラさんと一緒に洞窟に向かったメンバーは全員確認済みですが……ジェンマさんと一緒に行ったメンバーで生死の確認ができているのは、森姫カイラのみ。他の行方不明者はまだ誰一人見つかってないのです」


 マーレアが冷静な声で状況を整理し、俺たちは各々戦闘態勢を整えた。七人の仲間が互いに背中を預け合い、沈黙に包まれた廊下を慎重に進んでいく。静寂が支配する空間の中、周囲に潜む気配に皆が神経を張り巡らせていた。


 やがて、蜥蜴のような異形の魔族が視界に入ってきた。その赤い鱗がかすかな光を反射し、鋭い鉤爪が不気味な輝きを放つ。暗闇の中でギラギラと光る目は、まるでこちらを見透かすように揺らめいている。頭上には、王冠のように立派な角が生え、その異質さを一層際立たせていた。


「……人間ども、この城で何を企んでいる?」


 低く唸るような声で、魔族が不気味に問いかける。俺たちの存在に気付いた彼は、敵意を剥き出しにしながらこちらを見据えていた。


「私たちの目的は、魔王城の破壊よ」


 アカンサが冷ややかに答えたその瞬間、蜥蜴の魔族は口元を歪め、哄笑を漏らした。


「貴様らごときに、この城を滅ぼさせるものか! 我が喉に宿る紅き焔よ、敵を焼き尽くせ。紅炎吐息フラマ・ルブラ・スピラレ!」


 魔族の口から紅い炎が勢いよく吐き出され、炎の奔流が俺たちに向かって迫りくる。だが、それに臆することなく、マーレアさんが鋭く呪文を唱えた。


「鋏よ、魔力を断ち切り、我が道を開け。魔力断斬(マジカ・セヴェリオ)!」


 彼女の魔法が炎の流れを断ち切り、瞬く間に炎は消え去った。頼りになるマーレアさんの冷静な判断と素早い反応。


「息の根を止めてあげますわ。毒の針よ、鋭き矢となりて敵を貫け。毒刺穿刺ヴェネノス・アクス・ペルフラジェ!」


 アカンサが放った毒の矢が、鋭く魔族の胸を貫き、致命傷を与えた。苦しむ間もなく、魔族はその場に崩れ落ちた。俺たちにとっては大した敵ではなかったが、この城にはまだ未知の脅威が潜んでいるだろう。


「しかし……人間に近い形をしているな。言葉も解する知性もある。まるで亜人のようだが、これもまた魔族の進化形なのか?」


 ヴァルキリーが疑問を口にし、その鋭い眼差しが魔族の残骸を見つめていた。確かに、魔族とはいえ亜人のような姿をしているのは不気味で、何か異なる進化の過程があったのかもしれない。俺も同様に疑念が湧くが、今は目の前の危険に集中するしかない。


「向こうで戦闘の音がする!」


 突然、アウロラがある方向を指さし、鋭く声を上げた。彼女の敏感な五感が、遠くで仲間たちの戦闘を察知したようだ。全員が彼女の指し示す方向に目を向け、緊張感を高めながら一斉に駆け出した。


 そして、廊下の先から激しい戦闘の音が次第に大きく聞こえてくる。その場で戦っているのは…………


「セリカ!」

「アクイラ! 無事だったのですね!」


 そこにいたのは、黒髪のメイド服をまとった黒影花のセリカだった。彼女は激しい戦闘の中で、鋭い刃を振るい、複数の敵と対峙している。その背後には氷雪のクリスタラ、波濤の影忍ネレイド、そして獅子の戦士レグルスの姿もあった。


 彼らとの再会に安堵し、体の緊張が一瞬だけ緩む。強き仲間たちと再会できたようだ。


「幸先は…………良さそうだな」

■現在のメンバー

・灼熱の拳アクイラ、暁の妖精アウロラ、火の聖女ヴァルキリー、風の聖女ゼフィラ、毒花のアカンサ、紫花のマーレア、静寂のイオン

■NEW

・黒影花のセリカ、氷雪のクリスタラ、波濤の影忍ネレイド、獅子の戦士レグルス

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