第7章16話 落ちる魔姫
ルクレツィアの紫の炎。正体がわからないが以前交戦した時には使わなかった技だ。なら安易に火属性の魔法と考えるよりは…………それを使う魔術師を食ったんだ。だからあれにも特別な力があると仮定しよう。
アウロラをリーナさんに預ける。セレナの隣にアウロラを寝かせて俺は戦線復帰を試みるが、グラディアスさんとヴァルキリーが善戦しつつ、ゼフィラさんとマーレアさんも援護している。
ルクレツィアの剣技を盾や剣で防ぎ、炎はマーレアさんが断絶する。ゼフィラさんが全体バフをかけているが、どちらかといえばこちらが押されている状態だ。
「炎の守護、我が身を囲みて鎧となれ。炎焔の鎧」
俺は紅い炎で全身を包み込みルクレツィアの元に突撃する。俺の炎はあらゆる攻撃を遮断する万能の盾になる。ルクレツィアの剣が俺に振り下ろされる。俺はその攻撃に真正面からぶつかり、俺の鎧とルクレツィアの剣がぶつかり合う。
「アクイラ…………そんなものじゃないでしょう貴方の力」
「何に気付いてるか知らねえが…………お前に使う必要がねーって事だよ!」
本当の事を言えば、条件がいるだけで今は使えない。いや…………アカンサが近くにいるから一応邪炎なら使えるんだが……この状況でアカンサと解毒…………つまりディープキスをしに行くのは…………難しいな。
「アクイラ、前に出るな!」
ヴァルキリーが俺を心配してか声をかける。しかし、俺はルクレツィアの剣を拳の鎧ではじいて一歩下がる。ルクレツィアの剣が俺に迫ると、空気の盾が生成される。
「アクイラ! 隙が大きいぞ! 同時に攻撃を仕掛ける! 合わせろ!」
「は、はい!!」
グラディアスさんに言われ、グラディアスさんが刀を降りかかると同時に俺も殴りかかる。しかし、ルクレツィアの炎に弾かれ、そして俺の拳はルクレツィアの右手に掴まれた。
「ヴァルキリー! 今だ!!」
ヴァルキリーがルクレツィアの背後に回り込み斬りかかる……しかし、ルクレツィアの左手から放たれた紫色の炎によって阻まれた。
「くっ……」
「邪魔よ!」
ルクレツィアは掴んだ俺ごとヴァルキリーに叩き付ける。その衝撃で俺とヴァルキリーは大きく吹き飛ばされた。
「ヴァルキリー! あとアクイラ!」
ゼフィラが叫ぶ。俺は吹き飛ばされて誰かの足元に転がった。地の聖女の付き人、銀鉾のシルヴィアさんだ。タイツ越しだけど…………シルバーっぽい色してるな…………
「アクイラさん? 足元にいると踏みますよ。それともそこ毒沼にしましょうか?」
「や、やめてくれ!」
俺は急いで立ち上がり一緒に吹き飛ばされたヴァルキリーに手を差し伸べる。
「ヴァルキリー。大丈夫か?」
「……すまない、アクイラ」
俺の手を取って立ち上がるヴァルキリー。彼女を支えるように抱き締めるとヴァルキリーの鼓動が聞こえてくる。
「あ、アクイラ!?」
「危ない!!」
俺は咄嗟にヴァルキリーを突き飛ばそうとするが……間に合わない!! ルクレツィアの剣から放たれた紫色の炎が俺とヴァルキリーを襲う。その瞬間だった。
「鋏よ、魔力を断ち切り、我が道を開け。魔力断斬」
突然、炎は魔力事目の前で断ち切られた。マーレアさんの魔法だ。
「大丈夫ですか?」
マーレアさんが俺たちを心配してか声をかけてくれる。しかし、その隙にルクレツィアは俺とヴァルキリーから距離を取り、再び紫の炎で攻撃する。
「くっ……この!」
「そろそろこちらも使わせていただきますね。金属の音よ、響き渡り、不快なる響きで敵を惑わせよ。金属鳴響」
そういうルクレツィアは紫の剣を弾き音を響かせる。
「なっ」
ルクレツィアの剣から鳴る音で俺とヴァルキリーとシルヴィアさんの三人が足元がふらついてしまった。まずいな…………雑魚と戦ってくれていたシルヴィアさんまで巻き込んでしまった。
「不覚だったな…………だが聖なる炎よ、金色の輝きを纏い、魔を焼き払う刃となれ。聖火斬撃!」
ヴァルキリーが剣に金色の炎を纏わせルクレツィアに斬りかかる。しかし、その斬撃はルクレツィアの炎の盾で防がれてしまう。だが、俺の拳は……まだ間に合う!
「うおぉぉぉ!!」
「甘いわ!」
俺はルクレツィアの剣を殴り飛ばそうとするが、彼女の剣から紫色の炎が噴き出て俺の鎧を侵食する。この炎は…………魔力に反応して侵食してくるのか。何とか火の出力を上げないと近づけないぞ。
「ゼフィラさん…………奇跡を起こせますか?」
「…………聖女ですよ? 私。叶えましょう、貴方の望み。聖なる風よ、汝の力を以て奇跡をもたらし、世界に希望を吹き込め。聖風奇跡」
ゼフィラさんが風の魔法を使うと凄まじい突風が吹き始めた。スカートを穿いているみんながスカートを抑えてしまったのでラッキーは起きなかったが…………落胆する暇もなく俺は吹き飛ばされた。そして俺の身体はアカンサを押し倒す形で止まる。
「アクイラ?」
「えっと…………ほら奇跡だから。でも…………頼んでいいか?」
俺はそう言ってアカンサに唇を重ねると、彼女はすぐに理解して舌を絡ませてくる。
「んんっ……」
唇を重ねると、彼女は俺に毒を流し込む。正確には解毒作業だ。彼女の毒で俺の枷を外していく。邪炎の力が…………腹の底から溢れ出てくるようだ。
「サンキューアカンサ! 邪悪なる炎、我が身を囲みて禍々しき鎧となれ。邪炎の鎧」
俺の全身を赤黒い炎が包み込む。その炎は禍々しく、俺の身体は重くなるが……俺は大地を蹴ってルクレツィアに思いっきり蹴りかかった。
「赤黒い炎…………あの時のか!」
「あの炎は…………聖なる力の対!?」
「ほう…………」
ヴァルキリーとは一度この炎で共闘しているが、ゼフィラとグラディアスさんは初見で驚いているようだ。マーレアさんは表情こそ変えなかったが、その目は俺を捉えて離さない。
「はぁぁ!!」
ルクレツィアの炎の剣が俺に迫るが、俺の拳でそれを殴り飛ばす。そしてそのまま彼女の腹を蹴り飛ばした。
「ぐふっ……その炎…………貴方を喰らいたくなるわ」
「そりゃ誉め言葉として受け取っておくぜ!」
俺はルクレツィアに追撃を仕掛ける。しかし、彼女は体勢を立て直すと再び紫の炎を纏う。
「この力は……厄介ですね……でも」
ルクレツィアの剣から再び紫色の炎が噴き出る。
「その炎は……もう効かないぜ!」
俺は拳に邪炎を纏い、ルクレツィアの剣とぶつかり合う。そして俺の拳を紫の炎が侵食する。だが……邪炎はその勢いを一気に殺して逆にルクレツィアの炎を飲み込み始めた。
「そう…………それが貴方の力…………まるで…………」
ルクレツィアは何かを考え込むようにしているが関係ない。ここでこいつを倒す!!
「邪悪なる炎、我が脚に宿り、敵を焼き尽くせ。邪炎蹴焼」
「アクイラに合わせるぞ! 聖なる炎よ、金色の輝きを纏い、魔を焼き払う刃となれ。聖火斬撃!」
「ふむ!」
「鋏よ、広大な領域を断ち切り、我が道を切り開け。広域断斬」
「合わせましょう、聖なる風よ、浄化の刃となりて、我が前に立ちはだかる者を切り裂け。聖風刃」
聖火や風の刃。マーレアさんの魔法にグラディアスさんの剣技が同時にルクレツィアを襲う。
「ふふふ、ふはははは!! いいわ!!! 破れてあげる…………終焉の時は近いわ…………貴方達がどう進むか……………………この戦いが終わり…………残りの二人が…………いずれ…………魔王様を呼び覚ましてくれるから…………その時まで…………お休みなさい」
「待て! どういう意味だ!!」
崩れ去る中、ルクレツィアは俺達に向かってほほ笑んだ。それは優しい笑みではなく嘲笑するかのような悪意のある笑みだ。
「今にわかるわ…………私たちが今まで何をしてきたか…………私たちがこれから何をするのか。その答えを見るのが貴方であることを願うわ…………アクイラ。だってそれが最高に楽しい結末になるのだから」
「ま、待て!!」
俺は手を伸ばすがルクレツィアは炎の中に消えた。紫剣魔姫ルクレティアの消滅を確認。俺達は…………勝利した…………はずなんだが…………どうも勝ち誇ったように消える彼女を見て誰も喜べる雰囲気ではなかった。
ルクレツィア撃破。
残る魔の九将は二人。果たして…………




